「漁夫マルコの見た夢」/ヴェネツィアの一夜の夢 | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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塩野 七生, 水田 秀穂
漁夫マルコの見た夢

あの塩野さんが絵本??、という感じですが、中型の本だし、実際は結構文字も多いし、でもって内容も結構おっとなーなので、これもまたありかな、な本なのです。

ヴェネツィア近くのリド島に住むマルコは、十六歳にして既にリド一番の牡蠣獲り名人と言われていた。普段は口数の少ない控え目な若者であるのに、海の中でマルコは大胆で自信に満ちた一人の男に変わる…。

さて、いつもはマルコの獲る牡蠣を、親方が金持ちの家に売りに行ってくれるのだけれど、生憎用事があった親方はマルコに代わりを頼む。壮麗なダンドロ家の配膳室に招き入れられたマルコは、そこでキプロスのマルヴァジア酒を振舞われる。通常、親方ペペに振舞われるものよりも、上等な葡萄酒…。マルコはそれだけ見目が良く、若い女の召使が思わず贔屓したくなるような若者だというわけ。

そこへ突然入って来たのは、ダンドロ家の美しい奥方。奥方の気まぐれで若い貴族のなりをさせられたマルコは、ダンドロ家で開かれた夜会の客となる。

商用のため、主人たちが長く海外に滞在することの多いヴェネツィアの貴族の家では、留守を守る女たちには、「カヴァリエレ・セルヴェンテ」(奉仕役の騎士)と呼ばれる男をはべらすことも許されていたのだとか。しかしながら、これらの男たちは主人たちと同じ階級の男たちであることが不文律であり、他の階級の男たちに手を出すことは許されなかったのだという…。

夜半近く、客たちは仮装して街へ出る。男と女は、長い黒マントの下に見える衣装でしか見分けることが出来ず、鳥のくちばしのように鼻のとがった仮面で上半分を覆っていては、誰かを見分けることもまた不可能である。そう、まるで深い海の底に潜ったかのようで…。仮装したマルコは、みずみずしい若さをまき散らすかのように大胆に振舞い始める。

そして、ダンドロ家の屋敷に辿り着いた奥方とマルコは…。マルコは柔らかな寝床の上でも、自由で大胆な漁夫であった。

一夜が終われば、それはただの夢。しかしながら、マルコは朝の光を正面から受け、波の上に美しく浮かぶヴェネツィアの街を眺めながら、ある確信で身体を熱くする。マルコは再びあの夢を見ることが出来るのか? 策略をめぐらすマルコは、最初の純真な彼ではないけれど、自由で大胆な漁夫というのがまさに彼本来の資質であるのかもしれない。

さて、ダンドロ家と言えば、「三つの都の物語 」の主人公の一人、マルコ・ダンドロがまさにダンドロ家の出であった。マルコは良くある名前なのだろうけど、このダンドロ家とあのダンドロ家が関係あれば、ちょっと面白いなぁ、と思ったことでした。大胆に行動した漁夫マルコの血が、もしもマルコ・ダンドロにも流れていたら…。生粋の貴族よりも、何だか魅力的だなぁ、と。「三つの都の物語」において、マルコ・ダンドロは生粋の貴族として、きちんと行動していたのだけれどね。