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ガンになった妻がフルマラソンを走ると言い出した

30代男。甲状腺癌の手術を終えた妻が、フルマラソンを目指すことに。そんな妻の走る日々をつづります。

まだ5kmも走れていないが、

妻は早くも次のステップを考え始めていた。

「やっぱり何か目標がないと走らないもんね!」

うきうきとネットでいろんな大会をリサーチしはじめる。

 

探してみると、マラソン大会というものは本当に多い。

全国各地で、ほぼ毎週のように何かしらの大会が開かれている。

その内容というのも様々だ。

5km程度の短いものからハーフ、フル、さらには100kmを越す正気とは思えないものまである。

 

そこで妻が選んだものは……

その名も、『茨城メロンメロンラン』

http://melonmelon-run.com/ 

 

 

 

この5kmの部に夫婦でエントリーすることに。

なんとメロン食べ放題。

給水所ならぬ給メロン場というものがあるというごきげんな大会だ。

 

制限時間は70分。

1km14分で走ればいいわけだから、さすがに心配はないと思うが、果たして。

 

今日も絶好のラン日和。

「いい天気だねえ。太陽さんありがとう!」

と窓辺で声を弾ませつつも、部屋でのんびりとDIYにいそしむ妻である……。

 

Xデーは6月18日だ。

 

 

 

皇居では5km走れなかった妻だが、どうやらとても楽しかったらしい。

もう桜は散り始めていたけれど、近所の砧公園も走ってみることにした。

 

そこの桜は芝生のすぐ上まで垂れ下がっている。

座っていてもすぐ目の前に桜の花を感じられる、夫婦のお気に入りスポットなのだ。

きっと気持ちのいいランになる。

 

まずは自宅から砧公園まで走っていく。

今日も天気が良くて、快調なランを見せる妻。

 

そして砧公園に到着。さあここからが本番、と思いきや、

「ふう、疲れた。よく走ったねえ」

妻は満面の笑みでランニングを中止する。

「!?」

見ると、まだ5kmも全然走っていない。

妻の現時点での力は、やはりこのくらいらしい。

これでは「砧公園ラン」ならぬ「砧公園までラン」だ。

 

結局、公園ではのんびり散歩するという形になった。

でも、遅咲きの八重桜を愛でて楽しそうな妻を見ていたら、良かったと思える。

42kmの道のりはまだまだ遠そうだけど、ゆっくりと気ままに楽しみながら。それが妻のペースなのだ。

 

 

 

「次はピクニックに来ようね!」

もはや練習を忘れて、にこにこと言う妻だった。

「フルマラソンの練習といったら、やっぱり皇居ランだよねえ」

妻は常々、都内ランナーの聖地ともいえる皇居にあこがれていた。

 

しかし皇居は一周約5km。

病気になる前でも妻はそんなに走ったことはなかった。

内心不安を抱きながら、さる桜の日、夫婦で聖地に挑戦することに。

 

駅のコインロッカーに荷物と着替えを入れて、

いざ出発! 

 

が、皇居は二人のイメージしている姿ではなかった。

普段はランナーたちであふれているそこは、花見客であふれていた。

せっかくの皇居ランというのに、少し走り辛い。

失敗したかなと思って隣を見るが、妻はずっと笑顔だった。

「すごい気持ちいいね!」と軽快に、キロ7分を切るくらいのペースで走っていく。

 

空は穏やか。桜は心を奪い、久しぶりの夫婦二人のランニング。

妻は僕の不安をよそに、とても楽しそうだった。

 

しかし、半周くらいしたところで、隣で妻が「きゃああ」と突然悲鳴をあげる。「足が上がらない!前に進まない!」

やっぱりこのペースで5kmは無理なようだった。

 

冗談のようによろよろとしはじめる妻。

今度は僕が笑えて仕方なかった。

 

「私走ってみる。フルマラソン!」

妻がまた妙なことを言い始めた。

 

我が妻は時折、思いつきで妙なことを言い始める。

それは主に、家の中での話が多かった。

「この押し入れをテレビ台にしようよ」

「このドアを全部取っ払ってみない?」

そんな具合だ。

夫婦は物書きなのだが、ある日帰宅すると、僕の机のすぐ後ろに妻の机が引越していて、愕然としたこともある。

 

家の中は妻の城だ。

超絶インドア派である妻は、自分の城たる家の中を意のままに改造することが生きがいなのだと思われる。

 

昨年、そんな妻に数少ない趣味ができた。

夫婦二人でおしゃべりしながら走るランニングだった。

冒頭は、それが高じての、この春の発言である。

 

でも、夫としては心配な気持ちもある。

ランニングをはじめたのと同じ頃、妻の癌が発覚した。

手術は終えたが、今は投薬を続ける日々。

もとより家でごろごろするのが何より好きな妻。

果たして本当にフルマラソンなんて走れるのか?

 

 

 

 

でも、これも病気を経験しての妻の変化なのだと思えば、応援しなくてはと思う。

 

ともかく、城を飛び出した妻の冒険がはじまった。