法律上は親子なのに生物学的には他人 父子関係を争う-嫡出否認制度について- | 橋本治子の弁護士日記~仙台より~

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仙台弁護士会所属。

前回、父子関係についてとりあげました。
父子関係に関しては
民法に定めがあります。
 

民法には
父子関係を早期に確定させ
子の地位の安定を図る
目的で嫡出推定という規定があります。

詳細は前回の記事を
ご覧いただきたいと思います。
 

しかし
民法において定められた
法律上の父子関係と
生物学的な父子関係が
一致しない
ことがあります。

 
法律上の父子関係
≠生物学的な父子関係

という状態のときに
嫡出推定を覆す嫡出否認
という制度があります。
 
 
 


嫡出否認制度

 


嫡出否認制度に関しても
2024年4月1日に改正法が施行
されました。

 

2024年3月31日までに
生まれた子(改正前)

 

1 否認権を行使できる人

 

 

2 嫡出否認の訴えの出訴期間 
父が子の出生を知ってから1年間


 
 

 

2024年4月1日以後に
生まれた子(改正法適用)

 

 

1 否認権を行使できる人
父・子・母

 

※前夫にも一定の場面で
 否認権行使できるという

 改正ありましたが省略します


改正前、否認権行使できるのは

父だけでした。
つまり、子や母は、

手続が取れなかったのですが
子や母も否認権が行使できる

ことになりました。

 

 

 

 

2 嫡出否認の訴えの出訴期間

 

父:子の出生を知ってから3年間
子:出生のときから3年間
母:出生のときから3年間

 
 
改正前、父の出訴期間は
子の出生を知ってから1年間でした。
1年間と短期間なのは
父子関係を早期に確定するため。

とはいえ1年間という短期間では
権利行使の機会を確保する
という意味では不十分で
3年に伸長されました。
 

なお、改正法は
2024年4月1日以後に
生まれた子に適用がありますが
子・母は改正法施行から1年間に限り
施行日前に生まれた子について
否認することができる
という特別な経過措置があります。
 
 
 
 

3 子の否認権行使について

上記のとおり
子も否認権行使できますが
行使できるのは
出生のときから3年間

三歳児が自ら動くことは無理な話。
実際は、母や未成年後見人等
法定代理人が否認権行使します。

ただ、今回の改正で
大きくなった子が
自ら否認権行使する場面
が制定されました。

しかし、長年、法律上の父子関係が
継続しているところで
その関係性を覆すことは
社会的な安定性を欠くとも言えます。

そこで、大きくなった子が
自ら否認権行使する場合は
次の要件が必要とされました。

 

 

(1) 子の年齢が21歳未満 

18歳で成年となりますので
そこから3年以内に行動しましょう

ということです。

 

 

 

(2) 父と継続して同居した期間が

  3年を下回る
 (当該期間が2以上あるときは
  そのうち最も長い期間)

 

 

 

(3) 養育の状況に照らして
  父の利益を著しく害しない

(2)で継続して同居した期間が

3年未満であっても
同居と別居を繰り返していて
通算すると同居期間が3年超えるとか
別居中も養育費を支払っていたとか
実質的な父子関係があったときに
子の否認権行使を認めてしまうと
父の利益を著しく害する

という判断になることが考えられます。

 

 

 

 

 

 

4 費用償還できるか

嫡出子であることが否認されたとき
それまで父とされていた人が子に対し
 
親子ではないのだったら
いままで育てるために出したお金
返してくれ!

と請求したいと思うこともあるでしょう。

この点についても改正により
新しい条文が設けられました。

子は、父であった者が支出した
監護のための費用を
償還する義務を負いません。

父であった者の償還を認めると
否認権行使が抑止されかねないからです。

ただし
本来の扶養義務者である母に対して
請求できるかできないかは
条文上は、はっきりしません。
 
 
 
(子の監護に要した費用の償還の制限)
第778の3
第774条の規定により
嫡出であることが
否認された場合であっても、
子は、父であった者が支出した
子の監護に要した費用を
償還する義務を負わない。
 
 
 
このとおり
嫡出否認は期間制限がありますし
この世の中
法律上の父子関係と
生物学的な父子関係が一致しない
ということもあるのですが
そういうことも
民法は容認していると言えます。
 

なお、父子関係に関しては
・推定の及ばない嫡出子
に対する
・親子関係不存在確認
・強制認知
といった制度もありますが
ここまで書くとなると
ややこしくなるように思うので
今回の記事はここまでにしたい
と思います。
 

実際に、悩まれている方は
特別の経過措置もありますので
早めに弁護士に相談に行くことを
おすすめします。
 
 
 

 

生殖補助医療との関係

 

 
最後に生殖補助医療について。
 
生殖補助医療(不妊治療)により
出生した子の親子関係については
特別法があります。
 

第三者から提供された精子を用いて
懐胎・出産した場合
夫と子との間には
生物学的な父子関係はありません。

しかし
妻が夫の同意の下に行った場合は
夫、子、妻、みんな
嫡出否認はできないと
定められています。
 
ご参考まで。
 
 

生殖補助医療の提供等及び
これにより出生した子の
親子関係に関する民法の特例に関する法律
(他人の精子を用いる
生殖補助医療により
出生した子についての
嫡出否認の特則)
第10条 妻が、夫の同意を得て、
夫以外の男性の精子
(その精子に由来する胚を含む。)
を用いた生殖補助医療により
懐胎した子については、
夫、子又は妻は、
民法第774条第1項及び
第3項の規定にかかわらず、
その子が嫡出であることを
否認することができない。
 
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