無残に腕をもがれた梅の木を見て優の胸中に去来した思いは、ある種の虚しさだった。別にその姿に何かの象徴を見出した訳でもないが、あるべき姿を無理解によりむりやり奪われたような郷愁を感じた。いずれ切られるだろうなとは思いつつ、優は両手を広げたこの梅の木を気に入っていたのだった。

優は桜が好きだ。儚げで危ういその色が、わずか数日で散りゆく桜の花の運命を象徴しているようで、優の極めて大衆的な美意識に合っていた。またそれとは別に、美醜を抜きにしても優は桜の木の持つ包み込むような寛容さが好きだった。物心ついた頃から、そういった桜の懐の深さは感じていた気がする。
そんな優であったから、この梅の木も好きになった。梅の持つ固有の冷たさもありながら、どこか暖かさも兼ね備える雰囲気に惹かれていた。
早く散ってしまったことは残念ではあるが、それも美の要件であるので構わなかった。しかし、腕をもがれかつての威容を失った梅はもはや見るに堪えなかった。
「また育てよ」
優はそう短く言うと鞄から栞にしていた桜の押し花を取り出して、見る陰もなく短くなった梅の枝に結んでやった。
「なかなか似合うじゃない」
一人笑うと、優はゆったりと立ち去るのだ
「どうしたものかな」
裏庭の梅を目の前にし、薫はひとりごちた。立ち尽くしていたと言ってもいい。手をつけたことのないものは手のつけようが分からない。庭木の剪定などついぞしたことのない薫には、なかなかの難題であるのだった。

薫は特段梅が好きな訳ではなかった。さりとて特段嫌いな訳でもなく、有り体に言えばあまり関心がなかった。庭の梅の木は、前の住人が残していったものである。碌に手入れもせず放置していたら、思いの外よく育った。これは珍しい「しだれ梅」だと尚も手入れせず放っておいたら、今度は育ち過ぎた。隣家の苦情に無視を決め込んでまで伸ばすこともあるまいと、高枝切り鋏を購入してみるも、どこから手をつけたものやら分からず手をこまねいている現状なのだった。
「要は調えればいいんだよね」
かれこれ10分ほど同じような趣旨のことを呟いていた薫であったが、ふと折られた枝に気が付いた。
けしからん、と一方では思いつつ、とりあえずの指標を得たと枝を落としてゆく。ものの5分ほどで、梅は小ぢんまりとした風情になった。
なんだか貧相になっちゃったな。
胸中でそう呟きながらも、薫は満足して我が家へと戻っていった。
歩は帰り道にて見る、広く手を広げた梅らしからぬその威容を、梅が好きと言うには少々逆説的ではあるにしろ、深く気に入っていたのである。プライドと信頼を傷付けられたような心地がしたのも、歩の幼さを思えば無理からぬことだった。
そもそも季節の変わり目に咲く花ではあるが、しつこかった寒気が去って駆け足で夏の装いへと衣替えする気候に愛想を尽かしたのか、今年の梅は特に短かった。
歩の思惑とは裏腹に、摂理とは情を慮ったりしないものである。兎にも角にも、梅は散り歩は不機嫌なのだった。