一休み
前回(①のつづき)で、トリウムフッ化物溶融塩炉の始動時の溶媒と燃料の構成、金属製(ハステロイ-N)容器の炉の腐食を防ぐための必ず行うべき洗浄などについて書きました。
「燃料塩としては L1Fを72モルパーセント、BeF2を16モルパーセント、にフッ化トリウム12モルパーセント、およびフッ化ウラン233(0・2~0・3モルパーセント)というごく少量を溶かして使用する。」
故古川和男氏の教科書ともいえるべき名著「原発安全革命」に書いてある通りを引用させていただいたのでしたが、後になって、考えてみると、なに、やはりごく少量ではあれウラン233を燃料に溶かして入れるのか ! ウラン233はウラン235ましてやウラン238と違って天然には存在しない。トリウム233が中性子を吸収してウラン233に変換する。ということはいくらごく少量でもウラン233をどこかの誰かに売ってもらうか、溶融塩炉を持っててトリウム233を変換させて取り出すかしなければならない。さらに天然のトリウムはほぼ100%砂や希土類に混じって存在するらしいが、その取り出し技術が必要だし、どこかにそのプロセスが結構コストが掛かると書いてあった。インドやトルコではすでにトリウム原発のプロジェクトが具体的に進めらrているということだが、発展途上国よりもさらに貧しい小国でトリウム原発を作ることは可能なのか?知りたいと思う。
ウラン233は必ずウラン232が福産、随伴し、ウラン232はアルファ崩壊を繰り返してタリウム208に変換する。このタリウムから強力なガンマ線が放出され、これが結構危険なんだな、テロリストが盗み出したとしてタリウムの50cm近くに1時間も居ると致死量の放射線を浴びて死んでしまう。この遮蔽にはコンクリートで1m以上、鉛だと25cmの厚さが必要だという。
ここはとても重要な点でこれについてもう少し突っ込んだ解説が欲しいのですが、「原発安全革命」にはこれ以上の記述がない。ただ、7章155頁の「Fuji II の概念図」には分厚いコンクリートの壁で囲まれた地下室らしい中に炉が置かれている。コンクリート壁の内壁には黒い金属らしい内張りが施してあり太い実線で示され「高温格納容器(500℃)」と↑で示してある。
溶媒と燃料を入れる金属製のタンクが溶融塩炉でそのサイズは高さ4m、直径5・4mとさほど大きくはない。けれどもそこそこの土木工事が必要なんだなと推測される。
実用炉にほぼ近い 「不二 II」に厳密にいえばこのような危険が存在する。とはいえ、既存のウラン原発が持つ潜在的危険と大型のゆえに、炉や格納容器に寿命がきて建て替え工事をする際に出る放射性廃棄物(軽度から高度まで5段階ぐらい汚染濃度があるらしい)の処分、中には半減期が数万年数十万年という気が遠くなるような長い時間安全性の確保が出来るか? そんな先のことまで責任はとれないだろうと常識で考えて、そんなことでいいのかなあ~と思ってしまう。それが普通だと思う。
そうしたウラン原発の潜在的危険と比べれば、このトリウムフッ化物溶融塩(液体)炉は、なるほど比べようがないほど遥かに安全と言える。なにしろ液体、しかも500℃の高温でも炉内の圧力は常圧なので、放射性物質が外部に放出される危険が無い。緊急時には黒鉛の制御棒を引き抜くと炉内の反応は止まり炉は停止する。さらに巨大地震やミサイル攻撃など特別危険な緊急災害時には炉の最下部には凍結した栓で塞いだ排出口があり、栓の凍結が解けて、炉の中の液体溶融塩はすべて炉の下に設けてある緊急ドレイン・タンクに自然落下し、溶融塩の熱が自然下がるとガラス状に固まりそこから有害放射線は出ないという。
「炉心のメルトダウンは原理的に起きない、起きようがない、そのような構造になってるし、液体燃料の最大の利点」だという。これだけでも安全性を比べると天と地くらいの差があるね。
私(筆者)は歳を重ねるにつけ何事に対しても相対的な考え方をするようになってるので、トリウムフッ化溶融塩炉が安全だといってるけど「やっぱり放射線を出す核物質を使うじゃないの。安全なんて信じらんない。」と一部の人が不信の目を向けるのもわからないではない。けれども、地球温暖化を今すぐ止めなければならないという時期に、コンクリートの壁で防げる程度の危険性があるからといってそれの百倍も利点を持つトリウム発電を闇に葬るのは馬鹿げていると思う。
話はちょいとフランスの原発についてになりますが、先週マクロン大統領が、来年早々に控えている大統領選と無関係じゃないでしょうが、エネルギー政策に関してスピーチし、2030年前後に
電力公社(EDF)は小型原子力発電の建設を開始する、と発表しました。量産化によるコストダウンを図り、まずは国内向けに、さらには輸出を目標とする。政府はこの計画支援し10億ユーロ(約1300億円)を予算に計上すると。
古川和男氏も原発革命では、①燃料をウランからトリウムに替える。②固体ではなく液体にする。そして③として、現在のように大型ではなく30万から40万キロワット(既存原発の3分のⅠから半分以下)の小型にする、と3つ挙げておられます。
フランスは、現在国内の電力需要の75~80%をウラン原発で賄ってますが、それを2050年までに50%に引き下げる。とこれも重要な大統領の発言です。ウラン原発への依存度を下げるのですね。しかし、環境保護派の批判にはやはり耳を貸さない。現実に稼働してるのだから変える必要はない、と政財界・産業界は胸を張ってます。
なにしろフランスは核保有国ですからね。プルトニウムは不可欠の産物なんですね。
使用済み核廃棄物の処理も他の国から請け負ってやってるくらいで自信満々なんでしょう。
核廃棄物をドラム缶に詰めて岩塩の岩盤の下に埋めるといった今までの処理の仕方は問題があって(地下水に漏れ出す)として見直されてる様子です。それに「高速増殖炉スーパーフェニックス」もついにギヴアップ、計画は放棄され、炉はデータを取る時だけに利用されると決まりました。