11月27日朝のマクロン大統領の演説要旨。
演説前の状況
「Macron Casse-toi !マクロン引っ込め(辞めろ)!」
あからさまにプラカードに書いて掲げたり、「燃料税値上げ撤回!」をスローガンに掲げ自然発生的に始まった市民運動、黄色いチョッキ Gilets jaunes は11月16日以来10日間に渡って毎日フランス全土とレユニオン島など海外領土でもデモが続けられた。
フランス各地から市長はじめ関係者をエリゼ宮に集めたマクロン大統領は「エネルギー移転」問題に関して11月27日の朝スピーチすると発表。エリゼ宮にはこの朝150人が集まった。
黄色いチョッキデモの鎮静化を図るには代表者をエリゼ宮に迎え意見を聞く必要がある。前日だったが黄色いチョッキ運動に参加してる市民の主に南仏からスポークスマンを指名させ8人が選ばれた。もとよりこの運動は母体となる組織もなくTwitter や Facebook などSNSで呼びかけあい各地でばらばらに出来た集まりなのでこの8人が代表権を持つかも定かではない。
テレビでは大統領の演説の前に新聞雑誌の編集者、テレビではお馴染みの評論家が意見を述べた。
土曜日にシャンゼリゼのデモが暴徒化したため、評論家の多くは「燃料税値上げ」を撤回すべきだとか「代表をエリゼ宮に呼んで対話すべきだ」との意見が大半だった。
2017年5月の大統領選の演説の中ですでにマクロン候補は燃料税を上げると掲げ、公約なのだから下院議員の絶対多数を得て、国民から公認を受けたのだから撤回はしない、という基本姿勢だった。
エリゼ宮のスポークスマン、ベンジャマン・グリモーは26日「原則として政府は対話には応じられない」としていた。
黄色いチョッキデモに加わっている年寄や若者は2017年5月の大統領選挙に棄権した人々で、恩寵からか40歳の若さで大統領の座に着いたエマニュエル・マクロンが掲げた公約に賛成したわけじゃない、と思ってるのだ。
黄色いチョッキ運動は、11月に入ってからの軽油、重油の値段の急騰だけでなく、この夏の旱魃により野菜の値段が2倍に撥ね上がったこと。社会保障費の赤字による診察料、薬代の払い戻しの保険負担率が数年前から低下する一方なこと。車と道路の交通状況からいえば今まで速度制限が90㎞/時だった一般県道が80㎞/時になったこと。高速道路料金が上がったこと。クルマを買い換えた時必要な車両証が県庁の窓口からインターネットに一元化され窓口では受け付けないと変更され非常に時間が掛かること。スピード違反取り締まりのレーダーが急に増え罰金を払わさられる機会が増えたこと等々、諸物価値上がりにより購買力が低下してる上に税金や罰金が増え家計のやりくりが困難になったと低所得市民(めのおもそのうちの一人ですが黄色いチョッキはいまのところ着てません)が抱いている生活の相対的貧困化が下地にある。冬を迎え暖房と車の燃料費が上がったうえ1月にさらに引き上げられる。もう我慢の限界だ。溜まっていた不満が一挙に爆発したのが黄色いチョッキ運動の実態です。
「エリートは世界の終わりを問題にしてるけど、おれたちは月の終わりが問題なんだ。月末は年に12回ある」と黄色チョッキデモの参加者が述懐した。「月半ばに銀行口座を見て、ああ、今月も月末は赤字だ」とため息が出る。月末には財布に10€しか残らない。子供の養育費、教育費、老人の介護に掛かる費用、息子がやっと見つけた職場が100kmも離れていて電車も無く車で通勤しなければならず市役所がくれる30€の補助金じゃとても足りない。毎日10リッター、15€かかる。月450€も通勤費が掛かかってる。1月1日にもっと上がるっていうけど、どうやったら暮らしてゆけるのか」毎月、家計のやり繰りに追われて、もう限界だ、マクロンさんどうにかしてとデモに参加した中年婦人が訴えていた。
そうした背景の中でマクロン大統領は演説した。おそらく黄色いチョッキが運動として起こる前に「環境保護問題、エネルギー移転問題」として政府の方針を述べておこうと予定したのが市民の不満の爆発を鎮静化する演説と重なってしまった形になったのだろう。
大都市中心部には家賃の高騰で住めない → ならば郊外に住め → 郊外も家賃が高い → 仕方なく農村部に住む → フランスは前々政権から公共部門の合理化を進めて田舎には病院、学校、警察、裁判所などの公共設備が減少し遠くまで行かなければならない。
田舎の公共交通機関は極めて悪く自家用車が必要だ。デイーゼル車を売ってハイブリッドや電気自動車の中古でも買い替える余裕なんかない。
来年1月1日に燃料税を上げることで政府は370億€もの収入を得ることになる。
ドイツではデイーゼル車の都心侵入が禁止され、クルマを買い換える援助金が最高1万€まで国が出してくれる。車を換える国家的政策が必要だ。
さらに住宅の防寒、窓ガラスを二重にし、壁の防寒対策をするなどリノベに援助を出すべき。
石油の代わりに水素燃料への変換を推進すべきだ。フランスは水素燃料に対し1億€の予算しか出さないが中国、日本に後れを取っている。
大統領を待つ間、批評家たちは大体こんな意見を述べていた。この間もマルセイユに近いCiota では高速道路の料金所の横木を挙げ通行する車を無料で通過させる黄色チョッキの姿が映った。
料金所の近くで焚火を囲んでる黄色いチョッキの人にマクロン大統領の演説を聴きますか? と質問すると男は「マクロンはおれたちを軽蔑してるから聞く必要はない。演説はボイコットだ」と答え、なかなか手に負えない頑固さ、固い決意を見せた。
ある評論家は「政府は出だしで誤った。黄色いチョッキの人たちの怒りの深さ、それに共感を示す民衆の広がりの広さを見誤った。20万人が黄色いチョッキ着てデモに参加し、それを80%のフランス国民が支持している。
いま必要なのは大胆で筋が通った長期的な戦略を打ち出し示すことだ。
COP21をパリで採択した。USAもダメ。中国? フランスがやるべき。今が革新的政策を打ち出す時だ。筋道通った抜本的な政策を打ち出すべきだ。
エネルギー移転と資本主義体制下の大企業の利益追求経営とは基本的に相容れない対立する矛盾を抱えている。
毎月半ばに銀行口座を視て、今月も月末には赤字だと暗い思いをしてる人たちが黄色いチョッキを支持している。
マクロン大統領のスピーチ
さて、予定より30分ほども遅れて演台に立ったマクロン大統領。
マクロン大統領は持ち前のエリートテクノクラート流の話し方を急には変えられず、めのおのように外国人にはありがたい「pédagogie 教育」口調でスピーチを続けた。
30年後の2050年フランスは化石燃料から完全に脱出しているだろう。
排ガスで死亡する人の数は48000人/年も居る。
温室効果の原因の70%は化石燃料。さらに化石燃料は外国、具体的にはロシア、サウジアラビア、イランなど外国に依存しなければならない。
解決策は3つ
① 通勤の移動を減少させる
② 自動車の燃費を良くする技術改良を進める。クリーンな移動
③ 建物、住居の暖房。暖房方法を検討し改良。断熱効果を高める
2022年には火力発電を廃止しゼロする。火力に代わり風力、太陽熱、地熱、バイオ、水力、潮力など脱カーボン、低カーボンエネルギーを推進してゆく。
2030年には風力を3倍、太陽光を5倍にする。
原子力 : 2035年には今の半分、50%に減らす。14基を廃炉にする。
フッセンハイムの2基は停止する。
原発削減のリズムは再生可能発電の発展の仕方次第だ。EU加盟国との関係にもよる。
このように原発ゼロは現実的ではなく現状との妥協が必要とのマクロン大統領の見解が明らかにされた。
フランスは既存の原発を新世代原発に替えてゆく。
電力のストック技術を向上させ水素電池技術開発に力を入れる。電気自動車、バッテリーの開発が 現在中国と韓国に頼っているので自立の必要がある。
最後に黄色いチョッキ市民運動に触れ、「怒りは解るし、正当だ。毎月末に10€しか残らないようでは車の買い替えなどできない。私たち行政の責任者は、この毎月末の問題と世界の終りの問題に両方ともに取り組んで解決策を見いださなければならない。私の役目も見つけることにある。言葉だけでは解決しない。」
具体的には
「いまから3か月間、市民は各市町村の市長や組合と新しい方法を見いだすために協力し合ってください。それぞれが主体となり、具体的な解答を、プラグマテイックな解答がある筈だからそれを見いだそう。住宅と自動車の問題を底辺から変える必要がある。
COP21の目標(Cap)は変えない。
解決策と保護政策の日程表を作る。民主的な移転計画を作ろう。首相と環境大臣がまとめ役になる。
市民の怒りを解決策につなげよう。燃料税は原油価格の変動に応じて変動させる。
これが最終的解決ではないし、一回のスピーチで解決するものではない。
環境大臣のド・ルジ De Rugy 氏(ニコラ・ユロの後任で元衆議院議長)の許へ今日午後 8人の黄色いチョッキ代表が招かれている。
と、まあ大統領自身今のところ具体的な解決策は見つかっていない、と正直に告白したうえで、解決策を見つける仕事を首相と環境大臣、それに黄色いチョッキを着てデモに立ち上がった市民に丸投げしたのが今日の演説だった。
初めの20分だけ聴いて、こりゃダメと判断しスイッチを切った黄色チョッキは「睡眠薬みたような演説」と酷評した。
以上
