現代のフロンド | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

もう5年ほど前に投稿した「フロンドの乱」についてもう一度投稿しようと思ったのは、今フランスでこの言葉がしきりに使われるからだった。

数年前から、「フロンド」という言葉が、オランド/ヴァルス政権の母体である社会党内部に生れた反主流派勢力を指して使われ始めた。

彼らはみな生え抜きのフランス社会党員で年齢的に若い世代が中心となり60名ほどの議員がグループを作っていた。オランド大統領とヴァルス首相の政策は社会党が伝統的に結束の軸としてきた信念を裏切るものであり、なかんずくオランド大統領が掲げた失業を減らす、右上がりで増え続ける失業率を逆転し右下がりにするという選挙公約を完全に裏切り若い層に失望をもたらした、という批判は隠しようも無く広がった。左翼の信念を貫かねばならぬというグループが台頭したのだった。


保守の「共和党=レピュブリカン」が今年5月の大統領選の公認候補としてフランソワ・フィヨンを選んだのに続き、革新の「社会党」は テレビ公開討論をなんどか行い、昨日、予選を勝ち抜いた、元首相のマニュエル・ヴァルスと短期間だがヴァルス内閣で教育相を 勤めたブノワ・アモンの間で決選投票が行われた。

 このブノワ・アモンが「フロンド」のリーダーであり、投票の結果、彼が大統領選の社会党公認候補に選ばれた。



昨夜20時30分のニュースでの選管事務局長による開票結果は、4300投票所の開票結果(全投票所の内60%の開票) の合計で:投票数 1,120,180票、白紙投票9,000票、得票率は:

マニュエル・ヴァルス : 41.35%
ブノワ・アモン :    58.65%

元首相のマニュエル・ヴァルスは、特に極右のFN(国民戦線)マリンヌ・ルペン党首に勝つために 左翼の統一が必要(で首相経験のある私にはそれが可能)と呼びかけたが、結果は「未来のヴィジョン」をまがりなりに打ち出し若い層の支持を獲得した「フロンド」のブノワ・アモンが 大きく差をつけて勝利した。

ブノワ・アモンが打ち出した「未来のヴィジョン」はどんなものかというと、ITの進展とか労働環境の変化とかいろいろ考慮にいれ 主に「サレール・ユニヴェルセル(全国民への基本給与)」と「32時間労働」の二つが中心となる。

 「サレール・ユニヴェルセル(全国民への基本給与)」とは、全国民に一律500€(金額は要確認)を毎月支給する。 これによって、働いても赤字で廃業か自殺するよりない農家の若者も最低食べるだけは保障する。

 ブノワ・アモンは社会党書記長を務めたリール市長のマルチンヌ・オーブリ(女性)の秘書だった経緯があり、労働時間の短縮による ワーク・シエアリングの考えを引き継いでいる。

もちろん、こんなアイデアを口にした途端、年寄の保守からは財源はどうするんじゃ、「働かなくてもサラリー貰えるなんて、怠けもの を奨励するようなもんじゃないか」と喧々諤々の批判が出た。

辛口の批評をすれば、何年職探ししても見つからず絶望した若者を「金」で釣ったと言えないこともない。が、ブノワのスピーチは 極めて詳細周到で、精密な思考の結果こういう政策に達したと、分かりやすく、未来のヴィジョンとして打ち出したところに成功の秘訣が あったと思う。

 「サレール・ユニヴェルセル(全国民への基本給与)」自体はブノワの独創ではなく、フィンランドで試験的に行われたことがあるらしく、 ヴァルスも「古い考えだ」と批判した。ブノワ自身もいきなりこれを実行できるとは言わず、段階的に実現に向けてゆくと、ヴィジョンとして提案したことを忘れずに強調した。

ヴァルス元首相はオランド大統領の下に政権に就くと「国」を守り維持してゆくために、企業とか銀行とか 国際金融機関とか株式市場の動向を気にせねばならなかった。そのうえ、イスラム過激派のテロと戦わねばならなかった。

これは1981年に社会党の統一に成功して大統領選に勝利したミッテラン大統領が、社会主義的な 政策を大統領令で次々に打ち出した途端、為替レートが暴落し、フランス経済が大変なことになると脅威を感じるや、すぐに180度転換して、保守でも 革新でもない「ないない」づくしの何もやらない、やったのはモニュメント(大ルーブル、バスチーユ・オペラ、デファンスのアルシュ凱旋門) 造りばっかりで国庫を空にし専制君主的な大統領になってしまった前例に見られるように政権担当者の宿命と言えるかもしれない。

5月の大統領選でブノワ・アモンが勝てるとは思わない。保守のフランソワ・フィヨンは今奥さん名義の架空の職を作ってサラリーを政治資金 したと攻撃されてるが、政治経験が豊富だし、婦人層の厚い支持がある。

世論調査では極右のマリンヌ・ルペンがトップだし、社会党からの 公認候補は誰がなろうとも4位か5位と報道されてきた。 左翼には党の予備選に出馬せず、直接大統領選に臨む道を選んだ有力候補が二人いる。エマニュエル・マクロンとジャンリュック・メランション。 世評は、マリンヌ・ルペンに勝てるのはエマニュエル・マクロンだとしているが、決戦投票はフランソワ・フィヨンとマリンヌ・ルペンに なるのでは? と大方は予想している。

極右のマリンヌがどうしてここまで国民の支持を広げているのかというと、それはエリート政治家と国民との断絶、物価高、 失業、牛乳を原価割れ価格でしか買ってもらえない酪農家の現状など、いわば庶民の生活苦をエリートたちは肌身で感じないし解らない。EU統合も エリートが自分らの理想で作り出したもので、高級官僚が決めた法律で国民が苦しむのは理に合わないというル・ペン女史の主張が支持を得ているからだ。

ブノワ・アモンはENAとかポリテクとかシヤンス・ポとかフランスの政財界を牛耳ってきたエリート養成学校を出てはない。

彼を支持した67万人の人々がいる。ここ20年来フランスでも貧富の差が拡大する一方だが、失業者、ホームレスや貧しい人々、 虐げられた人々のことを第一に考えようとする人々。フランス大革命のスローガンである「自由、平等、博愛」の平等と博愛を政策の要に 据えるべきだと考える人々がすくなくとも67万人いるという事実はある意味感動的だ。こんどの予備選でそのことだけでも明らかにされ良かった、と思っている。

ブノワ・アモンが、極左のジャンリュック・メランションやエコロジスト(環境派)に連携を訴え共同戦線をはると昨夜も選挙結果の後のスピーチで言ったようだが、大統領選の本番をどこまで闘えるか注目して行こう。