買い物に行くのに車で高速を走っていると猫の鳴き声がした。
カーステでカミユについて興味ある番組を聴いてる最中だった。
BGに多様な楽器の現代音楽が鳴っていた。
カミサンが上体を傾け、後部座席を覗き込んだのでなにしてるんだろう?
と思った。「ネコの鳴き声がする」と言った。
「空耳だよ。ネコが乗ってるわけない」
「たしかに聞いたわよ。荷物を置くときに乗ったんじゃないかな」
「どっから聞こえた?」
「うしろから。トランクに乗ってるんじゃないかしら」
数年前、最初のネコのトラが庭に駐車した車に忍び込んだのに
気づかずにロックし、シートを掛け、3日間閉じこめたことがあった。
「トランクは開けなかったろ」
「座席の下かもしれない」
「ボクは聞かなかったよ。ラジオだろ。いろんな音が混じって聞こえた。
楽器の音がネコに聞こえたんだ」
「クルマ停めて調べてよ」
「ばかなこというな。ここで停められるか。ネコなんか乗ってるわけないよ」
カミサンはなおも不満げだったが、空耳だと信じて疑わないボクは
そのまま5分ほどが走った。ラジオはBGが止み、人の声も止んで
しばし沈黙が流れた。すると、遠くから「にゃお。あお」
確かにネコの鳴き声がした。それも5回聞こえた。
「にゃお。あお。にゃお。んあお」
どこかに閉じ込められて助けを呼んでる声に聞こえた。
「お。ネコだ。キミのいうとおり、ネコの声が聞こえた」
「ほら、みなさい。ひとのいうこと、頭からばかにして」
高速の待避線に停めてネコがいないか調べたりなんかしたら、
万一ネコが飛び出して轢かれないともかぎらない。高速を出た最初の
駐車場まで走り、そこで停めて後部座席、トランクを調べた。
猫の姿なんかどこにもない。
「おかしいな。たしかに聞こえたんだが……」
「車軸のうえに掴まってない? 車の下もみてよ」
「昔のジープとちがうんだよ。アクション映画の見過ぎだよ」
「アクション映画なんて観ないわよ。いいから車体の下も覗いて」
「車体の下にネコが隠れて、走ってる車から落ちないよう摑まってられる場所なんてあるわけないだろ」
「やっぱり座席のしたかなあ~?」
もういちど座席の下も隈なく探したがネコは見つからなかった。
なんだったんだろう? 空耳じゃなく確かに聞こえた。
「ちょうどお盆だから、トラの魂が帰って来て鳴いたんじゃないかしら」
「フランスはアサンプションって、やっぱしお盆みたいな祭日だしね」
「でも車が違う」
「トラは3日閉じこめられて、呑まず食わずでよく生きてたよな。
オシッコ漏らしただけでウンコはしてなかった」
「ドアを開けたとき、飛び出して、気が狂ったみたいに駆け回ったわ」
「それにしても、さっきの声なんだったんだ……? そうか。録音の
とき、だれかがスタジオに猫を連れてきてて、放置された猫が鳴いたんだ。
鳴き声が録音されたのに、だれも気づかずに放送された。それとも
わざと猫の声を流したか? カミユは猫が好きだったしな」
「ホントのネコとおもったわ。カーステの品質がいいのも好し悪しね」