なかでもこの週末に起こった事件が注目を引いたので、久しぶりにフランスの世相をちょっぴり……。
フランス南西部のタルヌのシヴェンス(Sivens)では、灌漑用ダム建設のため森林の伐採が9月に機動隊に守られて始まり、エコロジストたちがテントを持ち込み泊りがけで座り込みなど抗議行動を繰り広げていた。そうした中、25日(土)から26日(日)にかけての夜、過激派と機動隊との衝突があり、21歳の青年が死んでしまった。
死亡したのはレミ・フレッスという名のツールーズ出身の青年で、いつもは温和な平和主義者で決して過激な行動をとることはしなかったのが、ガールフレンドに誘われるまま火炎瓶を投げ、伐採の機器などを破壊しようと現場に乗り込んだ過激派の行動に加わり、機動隊が発砲した催涙弾の打ちどころが悪かったのか明け方死体で発見された。
検察の調べでは青年の衣服にTNT火薬の跡が見つかった。催涙弾にはTNT火薬が微量に含まれているらしいが、反対派は、レミが即死したことから機動隊が使用した催涙弾に戦闘用のTNTが多量に含まれていたのではと疑惑を表明し、内務大臣の辞任を要求している。
ヴァルス首相は、このプロジェクトは県が決めたもので県が継続か中止かを決めるべきと発言したが、県議会の議長は、国が承認したプロジェクトなのだから国に責任があるとし、プロジェクトの中止の可能性を示唆した。首相自身も、プロジェクトの不必要な規模を指摘し、専門家の再検討に委ねるとしたが、このダムの恩恵を受ける農家は、エコロジストによればわずか19戸、専門家は40戸、
県は81戸としている。
反対派のエコロジストの主張は、このダムにより水没する13ヘクタールの湿地帯、森林地帯は動植物の宝庫であり、そこに棲む94種の絶滅寸前の保護すべき動植物が失われるという。
オランド大統領は私が責任を負うとスピーチしたが、この社会党政権というのはなんとも形容しがたい鵺的な存在で、首相のマニュエル・ヴァルス自身が社会党という党名を変えた方が良いなどと言い出す始末。エコロジストたちが左翼の中の左翼として政権への批判を強めている。
失業が350万人を超え、いつまで待っても景気が回復せず、企業倒産が後を絶たず、またまた失業者が増えるばかり。フランスはついにイタリー、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、アイルランドと並んでGDPの3%を超える赤字国に転落してしまい、赤字解消のための財政緊縮を2017年まで繰り延べるとイタリーと落第生の連帯を示した。社会保障費は大幅な赤字を膨らせるばかり。国の赤字は天文学的な数字だ。社会主義的な経済政策などない、不可能を証明するような政権だ。企業に競争力をつけるため税と社会保障負担を減らし、社会党を支持して投票した庶民から税と社会保障費を取りたてる、ニューリベラル寄りの社会民主主義の無様さを曝け出している。
日本とは新しい兵器の生産で協力すると言うし、新世代の原発と銘打って第三国に日仏協力して売り込むというし、ダッソーなどの戦闘機、ブイグなどゼネコン、アルストムなど原発メーカーを政府が尻押しするわけだ。ヴァルス首相は、9月のヴァカンス明けのフランス経団連を前にして「企業大好き」企業に頑張ってもらわねばと企業賛歌の演説を打った。
「千頭の牛」とかいう名前で広大な土地に大きな建屋を建てて養牛を大量に効率よく行う農場が出来て、小規模農家の反対のデモの対象になっているが、これもTPPでアメリカの大規模農業に対抗するための農法ではないかと思う。
こんな風にして農業が効率重視に傾くと、味や栄養価の低い、早く成長して大量に出荷できるだけがメリットの農業の破壊に行き着いてしまう。
社会党に投票した庶民が失望するのは当然で、彼等の多くは極右のマリンヌ・ルペン率いるFN(フロン・ナショナル)に鞍替えをした。ヨーロッパ連合を離れてフランスの利益を守るべきだというナショナリスト、元はと言えば、父親のマリ・ルペンはナチスのガス室はなかった、ユダヤ人迫害は第二次大戦の些末なエピソードに過ぎないなどとファシズムを擁護する発言を行った反ユダヤ主義者なのだ。
2017年の大統領選にマリンヌ・ルペンは出馬するだろうが、第一回投票では社会党候補を抜いて首位に立つかも知れないと下馬評が出ている。極右翼を勝たせる責任はオランド大統領の無能にあると世評は厳しい。支持率12%という大統領は共和国始まって以来のことだ。
