日本的生産方式、改善について その⑨ | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

フランク・ギルブレス( Gilbreth 1868~1924)は建設会社のレンガ積み職人でした。仲間の仕事ぶりを見ると、各人各様の手順と動作で、手際よく作業を進める職人もいれば、もたもたと能率の悪い職人もいます。

フランクは、レンガを積むという単純作業にも、最善の作業方法が必ず存在する筈で、効率とは雇用者と従業員の双方に利益をもたらすものと考え、17歳のときから作業研究を始めました。

個人差があるレンガ積みを、記録、観察し、もっとも効率的な方法を割り出しました。

先日挙げた、フレデリック・テーラーが、従来の親方が「どんぶり勘定」で仕切っていた、出来高払いの賃金制度に、一日の公正な作業量が客観的に存在する筈だと信じて、基準となる作業量を見出そうとし、時間研究( Time Stady )を始めたのに対し、ギルブレスは人間の、主に手の動作という切り口から動作研究 ( Motion Study )に取り組んだのでした。

この二人は、時に対立しながらも、基本的に思想が一致し、1890年に、二人で「管理科学促進協会」(後にテーラー協会と改名)を設立します。

今日IE(Industry Engineering)と呼ばれている経営工学の基礎を築いた、二人とも父ですね。

ギルブレスが最初にやったのはレンガ積みの研究で、これは僕たちが日曜大工でやる作業や、多くの主婦の皆さんが台所で働く時にも使える非常に面白く実用的なものです。誰もが普通に考える常識的なことを突き詰めてただけとも言えますが。

「カイゼン」という日本語で今や世界中に広まった考えの基本をなすものです。簡単に言ってしまうと、作業の環境を整え、材料と道具を常に最短距離に置くことによって効率が2倍にも3倍にもなるってことです。

ギルブレスは、レンガ積み作業に多くの職人が、腰をかがめ、背伸びをし、材料のレンガを遠くまで取りに行ったり、手に取ってからも裏返したり、モルタルと水の比率が一定でなかったり、といったことが作業を苦痛にし、疲労を増やし、ひいては能率が落ちていることを見て、レンガのきれいな面は貨車から降ろす時に調べ、あらかじめ一定の個数が入る小箱に、きれいな面を下に向けて並べる、とか、腰を屈めなくてすむよう足場に調整台を取り付けるとか、もっとも着きが良くきれいに仕上がるモルタルと水の割合を調べて、どの作業員も同じように混ぜたモルタルを使うとか、片手だけ使ってる作業を両手を同時に使うとか、作業改善を進めることで、一日の積み上げレンガの数を1000個から2700個に増やしました。

台所でも同じですね。まな板と包丁、材料の野菜をあらかじめ洗って並べ、切った材料を入れる容器を準備しておく。段取りや作業環境を整えるのは、単に能率だけではなく、怪我や事故を防ぐ、安全で疲れない仕事をする上で大切だと思います。

ギルブレスの研究は、今日ではあまりに古典的である故、忘れられた面がありますが、病院の手術室などでは、今日でも世界中の人が恩恵を蒙っています。それまで執刀医は自分で器具を探さねばならず、その間患者をベッドに寝かせ血が流れるままだったのを、看護師が執刀医に必要な器具を手渡し補助する方法を導入したのはギルブレスでした。

フランク・ギルブレスは27歳で、技術コンサルタント会社、ギルブレス社を設立します。

特筆すべきは、フレデリックは生涯の伴侶にリリアンという女性と出会うことで、二人は12人(男6人、女6人)の子供を育てながら、産業コンサルタントとして活躍したってことです。

特に、リリアンは当時、男性支配が強かった産業社会、マネジメント界の中で唯一女性として、いろいろな困難と闘いながら産業における人的要素の重要性を説き、「職場の心理学」という論文を書きます。このようなテーマの本を出版社は拒否しますが、1912~1913年にやっと分冊で産業技術者協会から出版されました。

二人が残した業績は今日、「サーブリック」という基本動作表として使われています。Gilbreth の綴りを逆さまにして「 therbligs」と命名したんですね。

人間の手の微細な動作を17個の基本動作に分割し、それらをさまざまに組み合わせて、たとえば組立ラインの設計とカイゼンに使います。現代ではパソコンやスマートフォンなんかの組み立てラインで使われていると思いますよ。

主に上肢が行う動作:つかむ、運ぶ、用意する、位置決め、組み立てる、叩く、分解する……などといったものと

感覚器官、頭脳で行い作業を遅らせる動作:探す、選ぶ、調べる、用意する、考える……など。

さらに第3種としては作業に不必要な5つの動作:見出す、つかみ続ける、避け得ぬ遅れ、避け得る遅れ、休む、を挙げ記号で表記し、作業研究、動作分析の際に使用できるようになっています。

テーラーとギルブレスに共通してるのは、本来連続的なアナログな人間の動作や仕事を、要素作業に分割する、分析し解析して組み合わせる方法だと思います。

20世紀に入り、科学は従来分割不可能と思われていた原子が核を中心に電子や中性子やが取り巻き、自然崩壊もするし、原子をぶつけ合うことによって違う原子を作れることを発見しました。

どれもデカルトの「精神は目に見えないから分割できないが、外に在る物質は手に触れられるし分割できる」という考えの発展だと思うのです。

実際の動作は連続的でダイナミックなので、動作分析で細かく分割し、さらに組み合わせる机上の理論を作業者が実行する段階で違いが出てきます。

ギルブレスとテーラーの研究は、さらに発展し、PTS法(Predetermined Time Stady )となり、建設会社や自動車の修理の見積もりなどに活用されてるわけですが、それは専門的すぎるので、今日は、お料理なんかで利用できる範囲で止めておきましょう。

  (つづく)


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