長編小説 飛龍幻想 1 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

                           第 1 章  

 東野
渉は、正門から通りを一つ隔てた土手の上の霜解けのやわらかい土を踏んで、輝く銀色の枯草の群れを見つけて腰を下し、前庭を従えて聳え立つ大学の建物を見た。建物は、冬の灰色の空を背景に、水平の巨大な城砦のような教室棟と、垂直の細長い研究室棟とが奇妙なコントラストをなして隠然と佇んでいた。
 
 校庭から直接階段を昇った部分と、緩やかな石畳のスロープを登りつめた部分とが重なり合って、建物の入り口をなす空間に、机面をきちんとこちら向きに揃えた学生机が筋目正しく組み上げられ、中世の堅固な城門さながらにバリケードが築かれている。

 今朝、渉が試験の準備をして、正門まで来てみると、入り口がバリケードで塞がれていた。腕章を巻いた学生が熱心にストライキの説明をしていた。

「僕にはストライキの意味が良くわからない。授業料値上げ反対というが、僕らの授業料が上がるわけじゃない。それに僕は勉強がしたい」
 渉の脇で眼鏡をかけた学生が顔を紅潮させてスト派学生に噛みついていた。スト派学生は、冷笑的な蔑みを顔に浮かべながら、君はエゴイストだと眼鏡の学生に言った。

 諦めきれない様子で眼鏡の学生は言い返した。
「ストライキが悪いというんじゃない。ただ半数で投票が成立し、そのまた半数の賛成でストが成立するという規約自体、ナンセンスだ」
 するとピケの学生は訊きかえした。
「君は新学期に自治会規約を検討する総会に出席したのか?」
「出なかった」
 眼鏡の学生が答えるとピケの学生は、呆れるほど間抜けな奴だという表情を露わに「総会に出席もせず、そんなことを言う資格はない」とやり返し、「異議申し立ての機会を持ちながら、君はそうしなかったのだから、賛成したことになるんだ」と付け加えた。

 今、渉が腰を下している土手は穴八幡へ登る道で、渉の周りにはすでに数十人の学生が、野外劇場の観覧席さながらに、それぞれ場所を見つけ腰を下したり、立ったままで、道路の向こうの正門を見下ろしている。

 正門を五・六メートル入った位置に、白地と赤と黒の大きな字で「試験ボイコット貫徹!」と書かれた大きな看板が立っている。看板の上部に背後に組み上げられた椅子の骨組みが見え、その上に、大型のスピーカーと共に、黒いスエーターを着た男が、マイクを右手に摑んで立ち、身を屈めて演説している。

 仄白く光を放って輝いている冬の河原のようなスロープの途中に、ストライキを知らずに登校してきた学生が右往左往している。五・六人ずつ集団を作って、左右の石の縁に腰を下ろして話をしたり、遠くから演説の様子を伺い見たり、彼らとは完全に孤立して、本を顔に伏せ、寝転んでいる学生もいる。

 突然、正門の後ろ学生の演説が止んだ。看板の下に、ひとりの眼鏡をかけた教授風の男が立ち、学生に向かって何事か叫んでいる。二人の間に口論が始まった。しばらく下を向いて、受け答えしていた学生は、やがて後ろを向いて台を飛び下り、前に回って来ると、腰に手を当て、残った手で男を糾弾するように語気を強め、指で空間を激しく突く動作を繰り返している。そのうち、いきなり学生が力を籠めて男を突き飛ばした。男が音を立てて看板にぶつかった。看板の後ろの椅子が轟音と共に崩れ落ちた。

 守衛が正門脇の守衛室から走り出てきた。ピケの学生がスロープから駆け下り、看板の近くにいた学生が二人を取り囲んだ。やがて正門は人の波で埋め尽くされた。


 (つづく)

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