1961年4月にアメリカはキューバのピッグス湾へ上陸を仕掛け失敗。ケネデイーはダレス長官を更迭。10月には「キューバの共産主義を転覆させる為の秘密作戦」を検討するよう指示した。一方、マクナマラは独自に統合参謀本部と「シンクラント0プラン」作成に取り掛かった。そして1961年11月には「キューバ共産党政権転覆計画」が起草された。アメリカという国家がキューバという主権国家を秘密裏に転覆させる作戦が展開された。作戦名「マングース」。
マングース作戦は、1962年10月を目標に開始された。宣伝活動に始まり、キューバ国内でレジスタンス運動を組織するため、亡命キューバ人による工作隊が次々と投入されていった。62年1月から、製油所、鉄道、製糖工場、映画館、デパートなどで破壊活動が行われ数百人の民間犠牲者が出た。8月までに6000件の破壊工作が行われた。
「マングース」作戦の要は「カストロ暗殺」。62年8月10日、ラスク国務長官の部屋でケネデイー政権の閣僚・高官による秘密会議が持たれた。この席上マクナマラ国防長官は「カストロを排除するのなら、殺す以外に方法はない」と発言した。
マングース作戦の心理作戦・挑発行為はアメリカ軍の直接的な介入を正当化するための口実作りであったのは言うまでもない。
「マングース作戦」で侵攻しカストロ暗殺を狙うアメリカに対し、ソ連は核戦力の均衡を狙い、キューバに中距離弾道弾の基地を作りミサイルを配備した。10月14日、キューバを上空から偵察したアメリカのU2型機がキューバ西部にミサイル発射基地を発見。ここに「キューバ危機」と呼ばれる恐怖の2週間が始まる。
ケネデイーは「エクスコム(国家安全保障会議執行委員会)」を設置。「キューバからのミサイル撤去と持ちこみの拒否」をめぐり空爆を主張するタカ派と海上封鎖を主張するハト派に分かれ、威嚇か譲歩か、外交方針で対立が起こる。
実際の展開は威嚇と譲歩の両方が使われ、いくつかの誤解が重なり、あわや核戦争という瀬戸際、これもフルシチョフの誤解から出た決断でキューバからミサイルが撤去され、交換にアメリカが大統領の指示でロバート・ケネデイー司法長官とドブルイニン駐米ソ連大使とが深夜のワシントン市内の公園で秘密裏に会談した結果、トルコから中距離弾道弾「ジュピター」を撤去した。
結果的に核戦争による第三次世界大戦が避けられたのだが、米ソの交渉中いくつかの際どい誤解があり、「すわ、核ミサイルの発射ボタンを!」という場面が何度かあって、米ソ両国の核管理、戦争危機管理が、万全のものではなかったことが後日明らかにされた。
10月24日、U2型機がキューバでソ連製地対空ミサイルにより撃墜され、アメリカはデフコン2を発令し臨戦態勢に入った。デフコン2の指令の下、世界中の米軍戦略要員が(もちろん日本も含む)24時間非常待機状態に入り、B-47とB-52 戦略爆撃機合わせて672機と空中給油機381機が空中待機もしくは24時間出撃態勢を整えた。搭載された核兵器は1,627基。ソ連も国内とキューバの核ミサイルを発射準備態勢下に置いた。、
『暗黒の土曜日』と呼ばれるこの日、アメリカ中のマスコミが『全面核戦争』による第三次世界大戦の可能性を報道した。世界中が核戦争の勃発を避けられない現実として覚悟した。
核弾頭を積んだミサイルがニューヨークやワシントンに落下し、大陸間弾道弾がモスクワに向けて発射される光景を戦慄とともに想像した。核が炸裂し太陽よりも明るい光線が一瞬のうちに人々を蒸発させ熱風が建物を破壊する。
もし核戦争が起こっていたら、1億人のアメリカ人、1億人以上のソ連人、数百万人のヨーロッパ人が死んだといわれている。
キューバ危機は渉を恐怖で戦かせ、核兵器を開発した科学者を憎悪するようになった。地球をなんども破壊するほど核兵器を所有し、核の脅威に対し核の脅威で応える国と権力者は、なんの権利があって罪もなく平和に暮らす市民を恐怖に陥れ、おれたち若者から希望を奪うのか?
「暗黒の土曜日」、渉は、父親の長年の協力者Yさんの実家が静岡県にミカン畑を持っていて、招待された父親についてミカン狩りに行った。父親の運転する車のラジオが、ソ連かアメリカかどちらかが核弾頭を積んだミサイルを発射することが、もう避けられない、 という一触即発の危機を世界が迎えていること、今にも核戦争による世界大戦が勃発する危機的状況にあることを伝えていた。
車の窓から見える野山の風景が荒涼とした無人の核爆発により人類が滅亡した後の地球の風景のように渉には見えた。すべてが虚しく、生きる気力を奪ってゆくように感じた。目標に向かって努力することなど意味が無くなったように感じられた。どうせ、世界は滅んでしまうんだ。結婚して子供を作ることすら、否定的に考えられた。核の恐怖に脅かされる毎日。放射能に汚染された地球。生まれてくる子が奇形かもしれない不安。こんな世界に子供を生みだすことは犯罪的ではなかろうか? 子供にとってそんな世界は生きてゆくに値しない、不幸ばかりに覆われた世界ではなかろうか?
(つづく)