包括的核実験禁止条約についてのデベート ⑩ | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

 休憩の後、ペルグランに代わって左の控えから立った男はジョンという名で、赤毛で肌の白いアイルランドか英国人のように見えた。

 「私はさきほどのペルグラン氏の話に基本的な疑問を投げかけたい。捕鯨にしろ、工場廃棄物にしろ温室効果ガスの排出にしろ放射性廃棄物にしろ、いま、われわれ地球市民が抱えているさまざまな問題の根源にあるのは、科学技術と産業の発展ですが、人類に先立ってこれらの技術なり産業なりを開発した先進社会は自分達の技術なり産業を温存するために、いったん獲得した自分たちの技術と産業から得る利益、ひとことで言えば既得権益を後退させたり一部を放棄したりすることは断固として拒む。そのくせ、後から技術や産業を必死で獲得し、それによって経済的発展を望む後進社会がこれらの技術や産業を発展させ続けることにはストップをかける。われわれと同じ道を辿ることは、人類のために有害だから止めなさい。自分達の権利を保持したままですよ。自分たちは先発の危険を冒し、投資をし、その結果、人類の文明の発達と技術的進歩に貢献した。おれたちの祖先やおれたちがやったことは正しい。だが、もう限界だ。これ以上続けると地球の将来と人類の存続に危険が生じるから止めなさい。後から技術的経済的発展を望むことは人類全体のためには悪だからみんなで規制しよう。

 こういった論理はいったい何にもとづいてなされているのかという基本的な疑問をペルグラン氏に投げかけたい。

 私はその答えは明白で、言うをまたないと思う。先進国、つまり白人がマジョリテイーを占める先進工業国のエゴイズムに他ならないと言うことです。先進工業国は前世紀に広大な植民地を支配し収奪した。その富で築き上げたものが科学技術文明と今日の産業経済です。

 自由と法治国家、民主主義を守るために、フランスと英国の核実験が必要だとペルグラン氏は言われました。しかし、工場廃棄物や温室効果ガスをこれまでたれ流し続けてきたのは利益の獲得をほしいままにしようとした民間企業だったではないでしょうか?取り締まるべき国は義務を怠ってきたのではないですか?

 放射性廃棄物に至っては国が犯罪を犯しています。いったい半減期が三十年、百年、二百年、長いものでは一万年といった放射性物質を海底や岩塩の下に捨てて、誰が未来の地球に対し安全を保証できるのですか?ガラスづめにして深海に捨てたり、岩塩の層の下に貯蔵したり、核爆発しなくても先進工業国は毎日、放射性物質の危険な集積を増やし続けているのですよ。それでも足らずに核爆弾の実験をして放射能の灰と雨を降らし、美しい珊瑚礁を破壊し、南洋に住む魚を汚染するのですか?南太平洋で漁業で暮らしている漁民たちはどうすれば良いのですか?

 一九六五年にNATOを脱退したフランスは一九六六年からムルロワ環礁で核実験を行って来ました。六〇年代は毎年五・六回、七〇年代は毎年平均して十回、八〇年代は毎年八回、九〇年と九一年に六回行い、九五年までの三年間だけ行わなかった。それが九五年に入り再開されるのです。

 (つづく)

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