連載小説 「異土に焦がれて」 74 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

 啓は、それから計画の細部を練った。ロロザの手からあの絵を取り戻すには、啓独りでは出来な

い事だった。青山の手を借りる必要があった。


 青山には最初彼の手に渡ると信じ込ませ、ルルーに渡せるよう計画を練り直した。


 ロロザの家の近くの公園には柘植の植え込みがあり、大人一人が隠れても決して気付かれない

ほど濃い繁みを足元から茂らせていた。そこにルルーに隠れて貰い、必要な準備もすませておこ

う。最後は警察に捕まるだろうが、そのときは絵はどこかへ消えている。本来の所有者の手元へ

戻ったのだ。


 啓は青山にまた手紙を書いた。


                * * * *


 こんどパリにお見えになる時、ご面倒ですが、抹茶の道具をご用意くださるようお願いします。簡

単なもので構いません。安物の茶碗一個と、茶筅、抹茶をご用意ください。これは、ロロザ家に絵

の鑑定に招かれた午後、ロロザの息子と奥さんに茶を点てて頂くためです。息子が先日私にそう

依頼したのです。ロロザ夫人を、その場に居合わせることが、私たちの計画を首尾よく遂行するた

めに不可欠なのです。それともうひとつ最近の歌謡曲を集めたカセットを二・三本お土産に持って

きていただければ息子のフィリペが喜ぶでしょう。


 万事うまく運んだ後、荷物を持って、すこし運動して貰います。茶道具が邪魔になって走れないと

困ります。本物の絵のお礼にロロザ夫人とフィリペに土産として差し上げられるのがいいですね。

多少値が張る物でも、藤田の本物の絵と交換できるなら、それに見合ったお土産としてロロザの奥

さんに贈るのもよろしいんじゃないでしょうか。その辺のご判断は青山様にお任せします。



                * * * *


 青山に手紙で茶道具の用意を頼んだ後、啓はロロザに息子と奥さんの都合を調整して貰い、青

山に訪れる日取りを連絡しなければならなかった。


「御子息と奥様とが日本の茶を所望されています。青山がお茶の道具を日本から持参しますの

で、奥様とフィリペ様の御都合がよろしい日を、お知らせ下さいませ」


 数日後、ロロザから息子と家内の都合を調整し、この日の午後なら家に居るので、青山にはその

日の午後、拙宅に来るよう伝えてほしいと連絡があった。


 啓はその連絡を受け取ると、地味でどこにもありそうな茶色の革カバンとデッサンを丸めて入れ

る紙筒を二つずつ買い、それぞれのカバンに筒と額の留め金をこじるための小さなドライバーを入

れて準備を整えた。



   (つづく) 



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