連載小説 「異土に焦がれて」 40 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

 チラシをポートフォリオに入れ、啓はその足でダニエルのアトリエを訪ねた。夕方の六時を過ぎ

ていたのでアンナも来ていた。

 啓はチラシをダニエルとアンナに見せた。そこには概略つぎの様に書いてあった。

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「一九四二年七月十六日と十七日の一斉検挙は中でも最大のものでした。その後、一斉狩り出

しは、マルセイユ、ボルドー、リヨン、ルーアンなどフランスの大都市で次々と行われ、初めは外国

籍だけだったのがフランス国籍を持ったユダヤ人も連行され、大量虐殺の設備が機能し始めたア

ウシュヴィッツ、ビルケナウなどのガス室で裸にされ地獄の苦しみを味わいながら殺されていった

のです。なんの罪もない。ただユダヤの血を引くというそれだけの理由でです。重要なのはフラン

スで、ナチスがやったのではなく、フランス人が自らの手でユダヤ人を大量にナチスに引き渡した

ということです。一九四二年にフランスからアウシュヴィッツに送られたユダヤ人の数は四万二千

人に上ります。そのうち、生き延びた人は、たったの八百十一人でした」

                    *

「その、道端でマイクで訴えてた女性は、ベアットでしょう。セルジュと夫婦でナチス戦犯の追跡を

やってるわ。あたしたちの間じゃあ、有名よ」

 ダニエルはその女性を知っているらしく補足的な説明をしてくれた。

「ヴェルディヴの一斉検挙を計画し、実行させたのは、ピエール・タヴェルだわよ。タヴェルはオー

ヴェルニュの中流の旅館とカフェの息子だから若い頃は急進的左翼だった。独学で弁護士の資格

をとってから金持ちになり、出世してパリの北の郊外のオーベルヴィリエの市長に選ばれたり、上

院議員になったり、平和主義者として、アルスチッド・ブリアンとも親交を深め、大臣を何回か務め

たわ。今のフランスの社会保障制度の前身となる法律を作ったのが唯一の業績だわね。あとは、

実業家として、新聞やラジオやマスコミに事業を広げて財産を蓄え、シャトーを買うほどの大金持

ちになってから、どんどん悪くなってったのさ」


  (つづく)

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