銅版画について - その② | 雷神トールのブログ

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ボードレ-ルはその「画家と腐食銅版画家( Peintres et aquq-fortistes )」(1862年)で
こう書いています。

「エッチングは奥が深い、思いがけない落とし穴がたくさんあり、作者の精神の長所と同様に欠点を暴露してしまう
危険なアートだということを忘れてはなりません。そしてすべての偉大なアート同様、見かけの単純さの裏に非常な複雑さを持ち、完璧に至るには長い犠牲的な修練が要るのです。」


また銅版画家シャルル・メリヨンにつき、こう書きました。

「そのデッサンの苛烈さ、繊細さ、確実さによって、メリヨン氏は、昔の極めて優れた腐食銅版画家たちを思い起させます。巨大な都市のもつ自然な荘厳さが、これ以上の詩情(ポエジー)を持って表象されたのを、私は、稀にしか見たことがありません。」

エッチング協会が設立されたのは、一八六二年五月のことで、ボードレールは、ふたつの小論を発表して協会の活動を擁護しました。

協会は、それまで大衆的な複製手段に過ぎなかったエッチングを芸術作品として評価する先駆的な役割を果たし、エッチングの地位を向上させました。

シャルル・メリヨンはパリの憂愁を帯びた風景を幾つも版画に残しました。

フランスの田舎暮らし-メリヨン


ボードレールは、その代表的な詩集「悪の華」の挿絵をメリヨンに依頼したいと思っていました。ですが、……。

ボードレールは同じ小論の中でこうも書いています。

「メリヨンの版画集『パリの銅版画』は癇癪を起したメリヨンが版画集の原版を破棄した為に、作品の価格が四倍から五倍に跳ね上がった。」

ボードレールはメリヨンの「不機嫌の発作」が原因で原版を破棄したと書いていますが、原版の破棄は十九世紀の後半には、版画の芸術性を保証するために作者が行う、ごく普通の行為となりました。

メリヨンは版画に精神を使いすぎて精神病になり、友達の勧めでシャラントンの精神病院に入院しました。ボードレールがメリヨンに会ったのは、版画家がシャラントンの精神病院から退院したばかりの時でした。なのでボードレールは「不機嫌(狂気)の発作」によって「パリの銅板画」の原版を破棄したと書きました。


版画家が原版を傷つけて破棄することは、今日では常識となっていますが、メリヨンの時代には、珍しかったのです。だから、版画の値段が四倍にも五倍にも跳ね上がったとボードレールもニュース性を認めてこの小論に書きました。

版画の原版を作者自らが傷つけて使えなくするという行為は、ロマン派芸術の狂気と死との関係を象徴していると理解することもできます。

どんな関係があるかといいますと。……小説のヒロインのアンナの説はこうです。

「まだ刷れる原版に傷をつけて、破棄するのは、若い盛りで、創作活動がこれからってときに自殺して、芸術家としての生涯を全うするロマン派の神話と重なってるわ。死を劇的に演出するってこと。」

アンナの話は啓は三十五歳で死んだモジリアニを、……それと、も少し歳を取っていますが浪漫派精神を失わなかった三島由紀夫を思い起こさせ、現代作家にもロマン派的な芸術家神話があるのだなと思いました。

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