「デッサンいかがですか。5フランです。クロッキーいかが……」カフェーのテーブルの間を縫って売り歩くがデッサンは一向に売れない。そのうち、モジの額には汗が流れ、眼が霞んで来る。いよいよ最後と眼を付けたモレルは後をつける。
夜霧の街灯が照らす敷石道でモジは倒れる。行路病者として警察病院へ担ぎ込まれ、独り喘ぎながら息を引き取る。画家の死を見届けた画商モレルは、その足でジャンヌが待つアトリエへ行き、そこにある絵を全部二束三文で買い取る。
「芸術家に必要なのはお金じゃないんです。励ましなんです。長い間、ほんとうに長い間、認められず貧乏と闘ってきました」
札束を両手に拡げて見せるモレルにジャンヌがいう言葉だ。
現代人の多くは、モジリアニの子供の様な純真さを笑うであろう。せっかく友達がアレンジし、絵が好きな富豪が買うと言ってるのに。香水のラベルに自分の絵が使われるのが許せない。「美への冒涜」と考える。子供じみた自尊心。みなさんは如何ですか?
モジリアニのような純粋な芸術家はこの世では生きて行けない。画商モレルの冷徹さこそ現代を生き抜く強さだ。若くしてこれからという画家が、死んだあと絵の値段が急騰する。19世紀のパリの憂愁美を版画にしたメリヨンは心の病気から自分の手で原版を傷つけた。その為、彼の版画の値段は4倍にも撥ねあがった。それ以後、版画はある部数を刷ると原版を傷つけるのが常識となっている。
愛するモジリアニの死を知り、独りで生きて行けないジャンヌは翌朝、アパートの窓から身を投げ自殺してしまう。8か月の胎児を抱え20歳の純情なジャンヌ・エビュテルヌ。モジリアニは35歳の若さで死んだ。モジリアニを演じた不世出の名優ジェラール・フィリップも36歳の若さで死んだ。
「モンパルナスの灯」ふたたび
(終わり)
