スゴンザックが複数のプロジェクトを掛け持ちで受け持ち過重労働を耐えながらこなしている現状を訴えた。
「たとえ今回損でもブラジルで取り戻せるでしょう」
デユポン夫人は、取締役の視野の広さを匂わせた。
「負けるが勝ちという諺がある」
黙ってふたりのやりとりを聴いていた副工場長のアミエルがおもむろに口を開いた。
「僕は根本的な技術革新に賭けます。ミヤハラはフランスはアキレスだと言ったが僕もそれを信じる。今、ギュイヤンクールに建設中の研究所は必ず世界をあっと驚かす技術革新をやってのけます。時間に関してわれわれはMTMを保持したい。ルノーの大事なカルチャーだからです。山本が完全でなかったとしても見逃してやりましょう。些細なことで相手をあげつらうのはわれわれの伝統ではない。報酬も全額払い、寛大さを示してやりましょう。今、負けても、二十一世紀に再び世界をリードするルノーになった時、日本人からも感謝と尊敬という何物にも代え難い報酬が返ってくると僕は信じます」
シャブロル工場長とデユポン夫人はしばらく顔を見合わせていたが、「コワレックに来週からモダップスを教えるように言いましょう。あなたがたは改善チームが怠けないよう見張りをして下さい」とデユポン夫人が三人に向かって言った。
コワレックはポーランド系の移民だ。痩せ身で首が長くキツツキのような顔をしている。田代をみてはときおり「きいえっー」とか「やおーっ」とか奇声を発する。空手をやっているのだ。「日本人は動作も完璧を志すから」と解ったことを言う。三週間の予定が四ヶ月になりそうだとこぼした。フローランスもパリの下宿を借りたまま、オンフルールのホテルに部屋を借り二重生活を今後何ヶ月も強いられるとぼやいた。
新しい作業編成はコワレックの訓練が改善チームにある程度浸透する十一月以降にやることになった。それまでは手順の改善を中心にやる。合わせて、設備、製品を改善する。それらを演習室で行うことになった。ラインからオペレーターを少しずつ引き抜いて演習用ドアの前に集まり、改善手順を練習し、慣れた段階でラインへ戻し実行する。
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