座礁しかかった改善をめぐる議論 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

  山本の提案がすべて使えなかったので週末の会議は一波乱ありそうだった。
ストップウオッチ計測の失敗にしろ、改善後の時間が改善前より長くなったことにしろ、改善そのものを継続か中止かの瀬戸際に立たせてしまった。

デユポン夫人は賭けの失敗の予感からか、暗く沈み不安を隠せない様子だった。シャブロル工場長、スゴンザックに加え、アミエルという若い副工場長が出席した。宮原が彼女の暗澹とした気持ちを察してか、いきなり時間について切り出した。

「コワレックさんという時間の専門家がいますね。彼はPTS法でMTM系のモダップスを数週間前から他の工場で組合が受け入れ使えるようになったと言っています。彼が改善チームにモダップスを教育訓練すれば、改善の続行は充分可能だと思いますが」

宮原はルノーのためと思うのか、お払い箱の前に言うべきことを言って置きたいのか思い切ったことを言った。モダップスを使うとなればもう山本の出る幕は無い。すべてルノーのやり方になる。山本はその点つらいに違いない。物も言えず黙っている。

「山本は時間の陥穽に嵌ったようですね。ベテランなら予測してしかるべきだが。製品多様性の問題を避けてしまうなどプロと言えませんね。素人にしては法外な値段じゃありませんか」スゴンザックが攻撃を開始した。

「彼らは原理を教えたのです。時間に焦点を合わせながら設備と製品の改善を同時にやるという。原理には高いロイヤリテイを払わねばなりませんわ」デユポン夫人は防御しつつも声に威厳を失わない。

「現場は実際的で技術的問題と日々格闘しています。原理原則で車は造れませんよ。彼らが組織だった体系か、コンピュータソフトを売るなら別だが」

「コンピュータに改善は出来ないわ」

「全員で知恵を出し合いカルチャーを変える。物の考え方や人間まで変えるのが改善ですか。われわれが考え方を変える事は出来ないし、すべきではない。われわれの方がずっと科学的な仕事のやり方をしている。人間まで変えるなどフランス文化の破壊です。文化侵略だ」
スゴンザックは眼に涙を浮かべて叫んだ。感受性豊かで興奮し易い性質なのだ。

「ボザールを出たあなたには、フランスの文化が大事なのね。文化は創ってゆくものというのが私の考えです。日本人の自己否定にフランス人は大いに学ばねばならないわ。私達もクロコになるべきじゃないかしら」

「具体的成果が出なければあなたの責任ですよ」

「今までなぜ成果が出なかったのかしら」

「操業しながら改善活動をする時間的余裕がないからですよ。日本の企業は、会社のために無償で奉仕する前近代的社員をいっぱい持っている。今、問題は彼らが一度立てた筋書きを状況次第でくるくる変えて行く。そんな方法とも言えないものに高い報酬を払えるかという事です」

「民営化した以上は市場動向に応じられる柔軟性を身につけねばなりません。日本人に学ぶべきは柔軟性ですわ」

「柔軟性というより曖昧なだけなんじゃないですか」

「上司の言う事を良く聞く。会社の利益を個人個人が経営者と同じように考える。伝統をひきずりながら、現代的だわ。アメリカにない優れたもの、われわれと共通でいて違うものがある。その違いを吸収するんです。われわれは近代という病気にかかっている。そこから脱出できずにいる。プリミテイヴな風習を残している文明にこそ本当の活力、創造力があると思うの。東洋人はそんな活力を保持しているから私は好きなの。あなた、最近、おなかが出過ぎたんじゃない?」
デユポン夫人はスゴンザックの腹のあたりを横目で見ながら言った。


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