オペレーターの作業の仕方を班長と本社から来た製品設計担当のエンジニアが観察して改善点を見つけ、新しいやり方をオペレーターに依頼してやらせてみる。オペレーターがある程度慣れた段階で今度は作業を連続してやってみて時間をはかる。改善後の時間は当然改善前より短くなければならない。
オペレーターのミシェルはどんな作業でも楽々とこなすベテランだ。動作改善も二三度試してみて、すぐ身につける。ミシェルがパネルを持って改善後の手順で作業する時間を山本が測った。田代が助手をして五回測った。どれも改善前より長くなってしまった。
「改善後の方が時間が長くなっちゃったんだよなあ。こまったなあ」
山本は狼狽を隠せず、ちょうど通りがかった宮原に小声で言った。
「そりゃ、動的時間と静的時間からくる差ですね」宮原は即座に判断した。
「ロケット工学を学んだ人がそんなことも解らないんですかね。ラインで動きながら連続的に作業している作業者のスピードは停止した模型の前でシミュレーションした時より速いはずじゃありませんか」
宮原は山本の代わりに電話でスゴンザックに時間計測が失敗し、改善後の時間の方が長くなってしまったので改善マニュアルを訂正させてくれないかと頼んだ。
時計を持って計測を積極的にやったダニエルの姿が印象的だったので、田代が休憩時に話しかけると彼は静かに語り始めた。
「僕は十八の時に大学入学資格試験に合格したけれど、親の財政状態が許さなかったので、出来たばかりのこの工場へ入社した。オペレーターを二十年やって十二年前に班長になった。僕は人生の半ば以上をこの工場で働いて来たよ。入社してすぐ、五月革命が起こった。僕等は工場を占拠し、催涙弾や放水車で攻めてくる機動隊と戦った。催涙弾を投げ返し、ボルトを武器に抵抗したもんだ。今でも組合活動をやっているが、組合は僕の人生に意味を与えてくれている。ピッポは、工場が改善をやり、少なくとも変化に対応する能力を示さなければ閉鎖すると脅している。僕達は子供やこの土地の人々が将来も職を持てる様に閉鎖だけはさせない積もりだ」
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