しかも、東電にはその数時間前にベントを行うよう督促していたのだから、対応が遅れたのは東電内部の事情で、放射能を含んだ水蒸気を大気中に放出するという未曾有の処置をすべきか揉めたのだろう。首相が来たらほっとけばいいのだ。お伴の数人で見て回れば済むことだ。首相のアテンドのために緊急即刻必要な対策を後回しにしたとすればもってのほかだ。
「想定外」の事態にどう対処するかで人間の真価が決まる。
東電にも「マニュアル」はあるだろうが、「想定外」と何度も繰り返してるのを見ると、今回のような大地震、大津波が襲った場合にどう対処するかについてのマニュアルが無いということなのだ。
マニュアル通りにしか頭が働かない人間を大量に作り出したのは戦後の文部省の「人造り計画」。決められたことをマル吞みして覚える頭の良い規格人間を大量に作ることを目的とした、日本の受験制度。
「想定」の範囲内なら、この種の規格人間は良く働くし機能する。しかし「想定外」となってしまうと、途端に想像力を失い、おろおろして体調を崩して入院とか、現場を逃げ出すような腑抜け人間となってしまう。
めのおの家のお隣は養老院↓
しろたゑの下で昼寝した時めのおの胸を去来したふたつめの悲しみは、こんどの震災と原発事故で海外で日本の評価が著しく低下するだろうという思いにあった。昨日まで海外が日本へ向ける眼差しには憧れに似た熱い思いが込められていた。寿司や日本レストランの盛況ぶりにもそれは表れていた。これから、当分の間火の消えた状況が続くだろう。
放射能の排出量が「レベル7」と評価されたことで農・海産物はおろか工業製品まで放射能検査をしたうえで安全証明書を添付しなければ輸出ができない現状になっている。
「日本的生産方式」を学んできた海外の若い人たちは、一世代前の懐疑的な大人たちに、「それみたことか」と言われる。「在庫ゼロ」とか「ジャストインタイム」とかひと世代前が批判してきたトヨタ生産方式が「インフラが完全なところ」でしか通用しない条件付きのものということが明白になった。
ワインやシャンペンや在庫が命の製品を売って来たフランス人には「ゼロストック」と「ジャストインタイム」は先祖が長年かかって築いたカルチャーへの挑戦だった。
部品が入荷しない。部品の生産がいつ回復するか分からない。トヨタの北米工場は500種の部品が調達できず14工場が生産停止。日本でも3月14日から愛知、福岡でプリウスなどハイブリッド車を除き、完成車の生産を全面停止せざるを得なくなっている。約26万台の減産になるという。
「真理」なんだからやれよ、やらせろとフランス人が懐疑的なのを嘲笑っていた上司が思い出される。ヨーロッパの人間は先祖からの経験で在庫が大切なこと、「綱渡り的」なことや「自転車操業」を避け、たとえ在庫に税金が掛かっても、余裕をもって生産を続ける方が良いと本能で知っていた。
「ゆく川の流れは絶えずして……」鴨ノ長明の「無常」思想は人生観として理解するのが良く、生産現場にも当てはまる「真理」と言い切るのは、現場を知らない雲の上の経営者や、学者先生の「机上の空論」でしかない。
天災や事故によるリスクを最小限に抑えるよう、普段から備えをしておくべきだし、世の中は常ならず、水が流れるように時々刻々移り変わり、奢れるもの久しからずが実相だから、と運命論から説き起こして海外の人々に日本の生産方式が優れているから真似よとこれからは言えなくなる。いままで築いたものが瞬時に無に帰したなら、また初めからやり直せばいいといった無常論は無限地獄を受け入れよというようで余りに悲しい。
「シュージュポスの神話」をカミユは書いた。ギリシャ神話にある。坂を転げ落ちる岩をシュージュポスは両手で支え坂の上に押し上げる。岩はまた転げ落ちる。シュージュポスはこれを無限に繰り返さねばならない。
百数十カ国から差し伸べられた支援に感謝し、甘えてはいけないことを銘記すべきだ。地震や津波の天災に人々は見舞いの手を差し伸べたが、放射能を大気や海に撒き散らしたことに対しては厳しい非難の眼が向けられるだろう。「想定外」でした。天災ですからで許されるわけがない。
こんどの災害を「国難」と表しても大袈裟ではないと思う。敗戦で何もかも失い、焼け野原から立ち直った時と比べれば、この国難はまだ復興への手段が残されている。山の上から転がり落ちた岩をしっかりと支え、もう一度坂の上に押し上げねばならぬ。
脚注:当初、ここには海水放水と書きましたが、首相が現場を訪れたのは、水素爆発の前で、東電には早くベントを行って格納容器の圧力を下げるよう要請していた。
(つづく)
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