この詩集の中で最も有名な詩「初恋」は、こう始まる。
まだあげ染めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
めのおはこの詩の季節を春の初め、林檎の「花」が咲く頃、と思い込んでいた。
それは、冒頭しか諳んじなかったからで、第一節を読む限り、「花櫛」と「花ある君」という二つの言葉で、 「りんご」のもとに現れた「君」の容色、色香ある君に魅せられた詩人の心を唄ったと理解できるからだった。
しかし、第二節目に進むと、季節は秋になってしまう。
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたえしは
薄紅の秋の実に
人こひ初(そ)めしはじめなり
ここで詩人は初めてはっきりと「初恋」をしたと告白する。恋を自覚するのは春よりも秋なのかと思ったりもする。
藤村は長野県の出身だから、「りんご」の産地。都会生れで、温暖な田舎育ちのめのおは、りんごの花を見たいと、長年思ってきた。六年前に、北ブルゴーニュのこの地に家を買ったが、その庭に古い林檎の木が植わっていた。手入れもされぬまま、リラの木と枝を絡み合わせて大きくなっている。
買ったのは夏から秋にかけてだったので気づかなかったが、翌年の春、古い木が満面に花をつけたには驚いた。寒く薄暗く長い冬が明け、周りがぱっと明るくなる。大袈裟だが、ああ、ひと冬を生き延びることが出来たとほっとする。生きていることを実感できる。これが、その林檎の花です↓
ピンク色なので一見サクラのように見えるけども、林檎。じつは、この林檎、実をつけない、花だけのリンゴなのです。だから、容色美人が木の下に立って、心を奪われても、実を白い手で差し出してくれることはないから「初恋」には至らないね。
花リンゴのアップの絵↓
「花より団子」のめのおは、実がなる林檎が欲しいので、翌年二本植えました。
フランスのリンゴで美味しいのは、小ぶりだけど香りが良く、実が引き締まって、嚙むとシャキッと歯ごたえがあり、クルミやヘーゼルナッツに似た味がするレンヌ・レネットであります。
春になると、さくらんぼ、しろたゑ、洋梨、リンゴの順で咲いてくれる。
実のなるリンゴの花↓
もちろん「しろたゑ」の清い華やかさには敵わない↓
「しろたゑ」はほぼ純白で、フランスに来るまで白い桜があるとは知らなかった。
パリのノートルダム寺院のセーヌ側の狭い公園に2・3本、真っ白な花を咲かせる桜が植わっているのを見て初めて知った。
今年は花見を楽しみにしていたが地震でその気にならず、一日だけ満開のしろたゑの下でウイスキーを飲んで昼寝をした。
リンゴが満開になってからも晴天は続き、こんどはリンゴの下でヒルメシを食べた。
日本では「さくら」でないと「お花見」と言わないらしいから、満開のリンゴの花のしたで、飲み食いしたところで、自粛を呼びかけた慎太郎さんも大目に見るだろう。
りんごの花を唄った民謡はこれ↓ 「カチューシャ」の名がどこかにでてくる。
「♪りんごの花ほころび~川面にカスミ立ち~
キミなア~き里にイも、は~るは忍び寄りぬ♪」
昔、新宿にも歌声喫茶というのがあり、集まった客みんなで唄い合った。
なかでも一番人気があって良く唄われたのがこのロシア民謡だった。
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