茜空の欅 2 - 2  当たれば砕ける | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

 「セイシンブンセキだかなんかしらないけどさ。アニキはぼくの悩みをわかっちゃい
ないよ。ボクには崇高な想いがある。あのコをおもうと胸がシメツケられる。そのも
とにあるのがリビドーとかいうもんだってもサ、そのオモイがあることにカワリはな
いじゃんか。ボクがもっと美男子で、鼻筋がとおって、白い歯並びがよくってサ、そ
ういう男だったら、彼女に面と向かってスキなんだっていえるけどサ。おれ、そうじ
ゃないもんな。そうじゃないってこと、じぶんでわかるから。なんでオレはこんなブ
サイクに生まれたんだ……。
なんでオレはこんなんだって。じぶんがイヤになるんだ。わかる?ボクのナヤミ?」

 「その、理想の女性にふさわしい相手は理想的であらねばならない。その考えって、
幾何の公理といっしょじゃないか?理想的な男の顔は、鼻がスッととおり、歯並びが
いい。そうあらねばならないって思い込んでるだろ。そういうものだって先入観があ
るだろ。
 反対に、欠点のない人間なんていないって思ったらどうなのかな。
 大きさのない点、太さのない線、そんなものはあり得ないってケン坊が見破ったよう
に、欠点のない人間なんて、この世の中には存在しないんだって考えれば、楽になる
ぞ。幾何の公理のような点と線を、頭の中に想い浮かべられるってオヤジみたいなヒ
トもいれば、ケン坊みたいに、正直者で、そんなの思い浮かべられないって言うヤツ
もいる。
 オレ、理想的な女性像ってのも、抽象的な観念だと思うよ。美しいヒトってアイドル
なんだよな。人間の頭のなかにある、抽象的な美の観念像に近いと、みんな美人だっ
て感じる。そんな、できあいの観念像は打ち壊すべきなんだ。現実にはもっとすごい
美があるとオレは思うよ。観念を追い求めると、現実に裏切られ、幻滅を感じる。そ
うじゃなくて、現実をおそれずに、どこまでも直視してごらん。きっと、いままでに
ない、すごい美が現われるよ」
 
 賢二が黙ったまま、うなだれて、なにか考えごとをしてる様子なので、俊一は訊い
た。

 「ケン坊は、じぶんのオモイをどうにかしてもらいたいためにご本尊さまにお願いし
てんのかよ?」

 「それだけじゃないけど……。まあ、それが中心てとこかな」

 「スキだったら、ウジウジなやまず、おもいきってブツカッたらどうだ?男はミテク
レじゃないぞ。あたってクダケロだ」

 「そんなことしたら、ぼくのオモイがめちゃめちゃにクダケちやうじゃんか」

 「なんだ、オマエ。ジブンのオモイのほうがダイジなのか……。ひとりでウジウジ
してるより、いちど、好きなコと会って話してみたほうがいいぞ。
 それとも……、すみれちゃんに話してみるか?なにもかも。あのコはよくデキたコ
だから、正直になんでもはなしてミ。ケンジのなやみなんかサッと解消してくれるか
もしんないよ」

 「オフクロはオトウトのなやみを聴いてやれってたのんだんだろ」
 賢二はアニキが言うことはわかってるという顔を俊一に向けて言った。

 「まあ、それもあるけどね」

 「ダメなんだよな、ぼくらの親は。当事者どうしのぼくとは、ホントウのこと、シン
ジツを話合おうって気はまったくなくて逃げてばかりいる。なぜ、話したがらないの
かっていらいらしてくるよ、ホントに。
 そのくせ、社会に役に立つ人間になって、立派な仕事をして、ノーベル賞とまでいか
なくても文化勲章なんかもらうくらいの、みんなから認められる人間になって欲し
い。期待かけてるなんてことばかり言う。
 それが、イヤなんだよな、ぼく。もっと、ほんとうのこと話してくれ。なんでぼくが
悩んでんのか?そこに触れもしないで、期待かけてるなんてばかり言うだけで。ぼく
が勉強にマイシンできるワケないじゃないか。なぜ親はふたりともその話をしたがら
ないんだろう。自分たちの結婚が、その結果できた子供が失敗だった。ちょっとした
欠陥もって生まれちゃった。それが恥かしいのか?それぞれが、オマエがワルイと
か、オマエの責任だ、なんて責任のナスリあいすることになっちゃうのが怖いのか?
ぼくは、あの親はふたりとも、社会へ向けてる顔、その顔を子供たちにも向けて、ほ
んとうの素顔を見せたがらないんだと思う。つまり、見栄なんだ。見栄っぱりなんだ
よ。ふたりとも。子供たちにも親としての見栄があるから、ホントウのところを話し
たがらない。……けっきょく、愛情なのかな?愛が足りないから、そうなるのか
な?」

 賢二はそれきり口をきかなくなった。もう首を垂れて眠たそうな様子をしていた。
弟の問いかけに俊一も答えを失っていた。その夜はここまでにして、また日を改
めて話してみようと俊一も床につくことにし、ケン坊をベッドへ上げようと助け起こ
した。ふらつきながら賢二は、二段ベッドの上の階へあがる梯子に足をかけ、登ろうと
したが、足が定まらず、二段も登ると落ちそうになるので、「おまえ、今夜は下に寝
ろ」と俊一はケン坊を抱きかかえて下のベッドに寝かせた。

 (つづく)

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