一致するものだった。日本はアメリカとソ連・中共のイデオロギー的対立の橋渡し
をして、インドのように第三の道を歩み、積極的に世界平和に貢献すべきだと知識
人たちは主張を繰り返した。ところが、朝鮮戦争が勃発し、北鮮が三十八度線を越
えて攻めこんだことが明らかになると、平和懇談会の知識人たちは動揺した。アメ
リカ軍は最初攻勢に立つが、そのうち中国軍が介入し、朝鮮戦争はソ連と中共が連
携した国際共産主義の拡大路線の具体化だってことが明瞭になった。
アメリカは、日本から駐留軍が撤退すれば日本は数週間でソ連に占領されると脅
した。日本は再軍備をして自力で国を守るかアメリカに基地を提供して守ってもら
うかの選択に迫られた。ときの吉田首相は後者を選んだ。日本は再軍備に税金を注
げば国民は今後も長い間貧困から抜け出せず、そんな状態は共産主義者に絶好の口実をあたえるだけだとアメリカの再軍備要請をかわした。日本は軍備に注ぐ金を経
済再建につぎこみ経済的自立を目指すのが最優先と考え、アメリカとの安保条約に
首相が単独で全責任を負う形で調印した。
この吉田首相のやりかたを、岸首相が受け継いだ。A級戦犯で巣鴨刑務所に入れられていた岸首相はアメリカの政策転換で出獄した。そういう前歴のある首相が衆議
院で改定日米安保条約を強行採決し、可決させてしまったのだから、国民の多くが、
戦前の軍部の独裁政治の復活という危機感を抱き、国会へ押しかけたのも故なきこ
とではなかった。
「こないだのU二型スパイ機撃墜事件」小池君が続けた。
「アメリカのスパイ機がソ連領空内で撃墜された。ソ連はつぎはスパイ機が基地
として使っている民間飛行場を爆撃すると声明をだした。日本の基地を攻撃する
ぞってことなんだよな。
アメリカは日本を、ソ連、中国と北朝鮮の共産主義勢力から自由主義圏の防波堤
として防衛するって使命感を持っている。憲法改正は一朝一夕にできないから日
本は自衛隊でごまかしながらアメリカに従属して、守ってもらおうってのが安保
条約でしょう……。
ぼくらは兵役もなく自由な青春を謳歌してる。でもね。憲法もおしつけ、キンタ
マぬかれて、アンポでゆけでしょう。宦官の自由だよね。日本には、ほんとうの
意志ってものが無い。アメリカがへんなことやっても日本はいいなりなんだよ。
去勢されてすぐにさ、精力つけて筋トレやって、アメリカのガードマンやれって
わけだ。そんなら、非武装のほうがいい。無手勝流でゆこうじゃない。そのほう
が、よっぽどすっきりしていい。クエーカー教徒みたいに人は絶対殺害しない。
たとえ相手が悪人でも。なぐられてもなぐりかえさない。殺したいんなら殺せ。
そういう非暴力主義、無抵抗主義、絶対平和主義っての、観念的に、日本人の
大部分が抱いたとしても、わからないことはないよね。非現実的な理想を憲法に
掲げてる世界で唯一の国って……小学校の先生が教えたみたいに、それを誇り
にすることだってできるわけだ。でも、それって、欺瞞を隠す隠れ蓑だろ」
(つづく)
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