茜空の欅 2 - 1  平和憲法の逆説 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

 「全国統一行動ね。いくよ。ぼくは」小池君はいとも簡単にそう答えたのだが、その表情が急に引き締まったようにみえた。

 「国会は審議をつくす場なのに岸内閣は強行採決したろ。あれはゆるせない。
 六月二十二日の日米修好百周年を記念してアイゼンハワー大統領が日本に来る
ことになってる。それに日程あわせしたアメリカへのおもねりだね。国民の
理解を得ることなんかどうでもいいっていうような、なんか戦前の軍部の独裁
政治をひきずったような、権威主義的やりかただろ。アンポそのものの詳しい
内容は知らないよ。ぼくはソ連や中共の肩入れをするわけじゃないから、
ひょっとしたらアンポは日本にとっていいことかもしれない。でも、やりかた
がまずい。これじゃまるで国民大衆の反発をあおって、せっかくのアイク訪日
もおじゃんにしてくれってなもんじゃない。もう、アイク訪日阻止の、スローガンも
かかげられたし、アンポ反対のデモが毎日のように国会に押し寄せてるじゃないか。
 
 あと一ヶ月で自然成立。いよいよ大詰めだね。社会党も労組も全学連もだまっ
ちゃいない。こないだのゼネストの参加者は五百万人だ。こんどの統一行動
には、日本全国、津々浦々からわんさと人が集まってくるよ。戦後類をみない
デモになる。ぜったい見逃せない。日本の歴史が変わるかどうかって日になるね。
ぼくもジャーナリストのはしくれとして、野次馬根性を最大限発揮して、
またとない歴史的事件をこの眼でしっかり見ておきたいからね」

 俊一は小池君に尊敬を感じていたし、なによりも友情をだいじにしたかった
から小池君が行くなら俊一もデモに行こうと思っていた。
 「ぼくは、きみとの友情をだいじにしたいから、行動をともにするつもりだ」
 「ちょっとまてよ。理論も理由もなく友情から行動をともにする。それじゃ
付和雷同じゃないか。なぜ反対なのか?まず、そこから、きちんとしとかなきゃ」
 「そりゃ、そうだけど、話をとびこえて結論をいそいだのさ」
 「問答無用はむかしから日本の民主化をはばむ欠点さ。なにごとも、じゅうぶん、
なっとくゆくまで話してから行動しましょう。それが民主主義だよ。チョウさん」
 小池君は俊一の姓の長嶋の長の字をとっていつもチヨウさんと俊一を呼んだ。

 それから、この日、いまでも忘れない、小池君の長いレクチャーが始まった。
 「安保の問題って、日本の敗戦と、平和憲法の制定と、戦後の二極体制と、切り
離せないよね。憲法第九条が武力放棄をうたってるからアンポが必要だって
関係になる。逆説的だけど、いまの日本国憲法みたいに、高邁かつ空想的な
平和憲法が、いままで守れたのは、ほんとうは日本に米軍が駐留してたからなんだ。
戦争で苦渋をなめさせられ、地獄を味わった日本の国民が、二度と戦争はしたく
ないって心底思い、戦争放棄の理想を歓迎したのは自然だよね。だれでも戦争を
しないで済むならその方がいいもんね。ただ困るのは、正義や平等の理想をかかげ
て武力で他国を侵略する国が現実には存在するし、日本がその対象にならない
保証はない。その場合に、わが国は戦争放棄をしてますってなんか意味がある?
侵略してくるやつらは、なんにも抵抗がなけりゃ、はい、ありがとうって植民地に
しちゃうよね。

 アメリカは朝鮮戦争が勃発するとすぐ、日本に再軍備を要請した。でも、日本は
経済的自立を優先したんだ。吉田首相が、日本の基地を提供する条件で、アメリカ
に軍事的に日本を守ってもらう安全保障条約に調印した。一九五一年のことさ。
単独講和条約と同じ日にサンフランシスコで調印したんだ。
 その前に、日本はポツダム宣言を受諾して、連合国司令長官マッカーサーの支配下でアメリカに占領された。いまの憲法もさいしょ大日本帝国憲法を改正したものを
出したら、はねつけられて、GHQの草案を押しつけられたそうなんだ」
 「うっ、それ、ほんと?ぼくはてっきり、幣原内閣がつくったんだと思ってた」
 「教科書ではそういうことになってる。けど、じっさいはそうじゃないんだ。
日本人が作った草案ははねられてしまうんだ。
 第九条で日本は永久に戦争を放棄することをうたうよね。軍備をもたない、
交戦権ももたない、つまり自衛のための戦争すらできないって宣言だよ。
 幣原内閣はこれを見てびっくりした。けど、占領下でアメリカのいうことを
すすんできいてしまうんだ。
 いってみれば、アメリカに、コレされちゃったわけだよ」
 小池君は右手で手刀の形を作り股の前で振り下ろして男根を切り取る仕草をした。

 (つづく)

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