12 - 4 代金取りたて | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

 時子は和秋にルフェーヴルが絵を買ったことを言い、代金の残りを毎月五千フランづつ貰うことになっているが五ヶ月経っても支払いがないので、取りたてに一緒に行ってくれるよう頼んだ。

 金をダシにあたしの貞操を奪おうって魂胆かもしれない、と言いかけて時子はやめた。貞操を奪われてもみたい隠れた欲望がそれを口にすることを控えさせた。和秋はちょうどバロック・フルートやデルタプレーンが欲しかったと時子に言い、時子は地下室の改造をやってくれたお礼にデジタルカメラを買った残りの絵の代金は取り立ててくれたら全額和秋に贈ると約束した。

 「先日は民謡の夕べにお越しいただいてありがとうございました」
 和秋はまず礼を述べた。

 「ムホクがここでも狙われるようになったのは残念だ。アルジェリアのテロはますます激しく、手口が残酷になってきた」

 「あの後ボクは友だちと誘拐されたんですよ。同じテロリストとスキンヘッドとダンテクってこの街の顔役に」

 「噂は聞いたよ。キミと友だちの身にまで危険がおよび始めた。誘拐は犯罪だから君は訴えることが出来るよ」

 「警察の方はその後動いてくれてますか?ムホクは友だちのアブドラを殺した犯人を証拠を見つけて懲らしめようとしてるんです」

 「証拠が無くて警察も困ってる。ジレーという組長はアブドラにはアフリカにサジーってエナジー・ドリンクの見本を運んでほしいと頼んだが断られたとガエタンの取り調べに答えたそうだ。そのあとは手下がサジー・ジュースを飲ませる代わりに、勝手に劇物を混ぜたビールを飲ませたらしい。手下がゆきすぎて度を越したいじめをやったが、あくまで事故だった。殺すつもりはなかったと供述してる。手を下したスキンヘッド三人はいずれ逮捕されるよ」

 「ふうん。そうなのかな。そんな単純なことじゃない気がします。そんなことで殺されたとしたらアブドラが可哀想だ。だいいち、一連の数字は何か重大なことを示している。ムホクはもっと調べると思いますよ」

 「キミもムホクも危ない火には近寄らないほうがいいと思うがね」

 そう和秋に忠告して置いてからレイモンは時子を相手に話題を切り替えた。

 サロンの入り口に掛けてあるブリューゲルの「イカルスの墜落」の絵の前で立ち止まり、西洋人のイカルス的性格について語りはじめた。西洋人は自然を征服し統治してきた。新世界を発見し移住したように、現代にあっても地球が汚れ人口過密になれば、宇宙へ飛び出せばよいと考えている。

 彼はつぎにキリスト教文化圏の結婚と貞節についての偽善を批判し、東洋の自然な男女関係を羨望した。

 「西洋の十二世紀の王侯にとっては結婚が懐を肥やし、持参金として贈られる土地や遺産として相続する可能性のある土地を併合する唯一の純粋な機会だった。この取引きがうまくゆかない場合は妻を離婚するのが常道だったんだよ。限りない抗争と戦争の発生をうながすこういった悪弊にたいして宮廷風恋愛は正式の結婚とはかかわりのない、恋愛だけに立脚した節操を掲げていたんだ。そして恋愛と結婚は両立しないという宣言までもしていた。これはシャンパーニュ伯爵夫人の館で開かれた恋の法定の有名な判決だよ」

 そういうとレイモンはひろげた本のページを声を出して読んだ。

 「恋愛はその権利を夫と妻のあいだにおよぼしえないことを本文書によってここに宣言する。恋するものは何の必要に迫られることもなく相互に無償に許し合うものであるのに、夫婦は義務により、すべて相互の意志に従わざるを得ないからである。

 当判決は多数の貴婦人の意見を徴集したうえで、きわめて慎重に表明するものなれば、拒否しえない永遠の真理とみなされよ。一一七四年五月三日。第七法廷」

 フランスではこの時代から密通が公認されてきたんだといいたげだった。レイモンはふたりに、愛が枯れ馴れ合いになった夫婦生活、義務と化した性愛の不毛をなげいてみせた。

 「あなたの破綻しかけた夫婦生活には同情しますけど、わたくしは、お約束の絵の代金を頂きに参りました」


 「月づき五千フランでしたっけ」

 「ここ四カ月のあいだずっと頂いてませんが」

 「それは失礼。この前は突然お帰りになったものですから」

 「わたしは絵を売ったのですわ」

 「すると今日、二万フラン?」

 時子は黙って頷くとレイモンは苦笑いをして書斎へ入り小切手を書いて持ってきた。

 「残りは二万になります」時子は冷たく言い放った。

 (つづく)

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