オランダが勝っていたら、ここまで共感できなかったろうと思う。勝つために、無骨な反則を繰り返した。身体的優位を見せつけ、あきらかな反則を止めなかった。審判は許容の限界を超えたと判断したのかようやくレッド・カードを掲げた。
オランダ勢と比べ、スペインの選手は小兵だし痩せて虚弱にさえ見えた。しかし柔軟で俊敏な点で上回っていた。ドイツ戦の時は、身体的対照がさらにありありと見え、ドイツの速攻と長い正確なパスを封じての圧勝だったから、小兵でもチームワークと技、状況への即応性という天性の才能で勝てるのだと感じた。
決勝で固くなったのか、ミスを犯すまいと慎重さに縛られドイツ戦でのような好プレーが見られなかった。だが小兵の中でも一番小さなイエネスタがゴール前のオフサイドの危険をかわしセスクから受けた浮いたパスを見事に捌いて決勝の一点を決めた。

ダヴィッド・ヴィジャがやや精彩を欠いた。代わって入ったトレスが可哀想だった。ゴール右前デフェンスのオランダが一人しかおらず、絶好のチャンスだった。長い空高く上げられたパスを受けようと見上げながら走るうち、のけぞって地面に倒れた。
数分地面に伏せたまま頭を腕で抱え苦しんでいた。栄光を分かちあえる瞬間、治癒したかに思えた背中に激痛が走った。地に伏せたまま、激痛に苦しむだけでなく降りかかった不運に泣いているようだった。
今までの強豪のブラジル、アルゼンチン、フランス、イタリーに代わってドイツ、スペインの若い世代のチームが生まれた。若く俊敏で粘り強い動きと、素早く正確なパス。一人一人が技を持ちながら、チームプレーを優先する試合運びが勝利をもたらす。
スペインとドイツチームのサッカーは見ていて美しい。とりわけスペインには騎士道精神が生きている気がする。美しいサッカーを最後まで貫いて優勝したスペインを祝福したい。
美しいさは価値の問題だ。ただ勝ちさえすればいいのではない。勝てばボーナスが貰えるとか実利的な損得の問題でなく、さまざまな実利的価値を超えた美意識という人間の文化的価値の問題だ。
反則を重ねるオランダにじっと耐え、最後まで自分たちが決め誇りとする価値を貫いてプレーするスペイン選手の姿勢は見ていて美しかった。スポーツの良さはこういう美しさ、無償性にあると思う。
サッカーはチームを育て上げるのに10年かかるという。チームワークでは世界一と思われる日本の選手に、世界の強豪への道は開かれている。体力をつけ、技を磨き、動きを生みだし、動きの中で即応性のあるアクションができる選手を沢山養成して欲しい。
しぜんに出るアクションは訓練だけでは得られず、結局は才能とか天性に負うのかもしれない。日本の若者の間には、いるはずである。侍の伝統。武士道の美意識を現代サッカーに活かす。そういう若者を見出し養成してほしい。
ツイートしてますか↓