「お父さん、今日はむかしの写真を持ってきたよ」
わたしは、父の中学〜大学くらいの写真をまとめたアルバムを取り出しました。
先日、入院中の母に見せようと写真を漁っていたら、父のむかしの写真が出てきたので持ってきてみました。
学校の集合写真では、
「お父さん、どこに写ってるかな?」
「前の方の列にいるね」
などと話しかけました。
父は、
「そうだ」
と答えながら、写真をじっと見ています。

ページをめくり、親戚の結婚式の写真を見せました。父は写っていませんが、父の故郷で撮られたものです。
父は、
「これはおれのおふくろじゃないか」
「親父も写っているなあ」
と言いました。
最近の父は認知症が進んできたのか、自分の家族が誰なのか、何人兄弟だったのか答えられないことがあります。
そんな父が、写真を見て祖父母を言い当てられたのは嬉しい。まだ父の記憶は、引き出せる部分があるようです。
父は写真を見ながらぽつぽつと言いました。
「この写真は、一族にとってすごくいい写真だよ」
「おふくろは、親父と一緒に写真に写れてよかったなあ」
「おふくろは元気にしているんだよな。なあ?」
父はわたしに同意を求めてきますが、93歳である父の母親が健在であるわけがありません。
おそらく、祖母はわたしが生まれる前に亡くなっています。同意を求められても困る。
しかし、父が忘れていても支障はないし「もうお墓の中だよ」と言うとショックを受けます。
「そうだね」
と言って流しました。
