特養にいる父に会いに行きました。
認知症の父は、わたしが誰か忘れがち。
どこに住んでいたのかも、もう思い出せないみたいです。
眠いからもう帰ってと言われたので、とりあえず握手くらいはしていこうと思い、父の手を握りました。
父「おー、あんたの手はあったかいねえ」
娘「じゃあ、お父さん。わたし今日は帰るね」
父「ちょっと待って」
真剣な顔で父が言いました。
「『鮮やかな別れは、よくないことを運んでくる』と言うからなあ」
父は格言のように言いますが、わたしは聞いたことがありません。
とりあえず「まだ帰るな」ということのようです。

「おれの家までは、タクシーでいくらくらいかかるんだろう?」
と言い出しました。
「お父さんの家、どこにあるの?」
と問いますが、それは無視されました。
父は、
「5万円くらいかなあ?」
と、とんでもない金額を言います。
「今は、まだ昼間だからもっと安いんじゃない?」
とわたしが返すと、
「じゃあ3,000円くらいかあ」
と大幅なディスカウント。
「3,000円くらいならおれの財布に入っているはずだから、タクシーで帰ろう。でも、タクシーで帰ったら近所の人に『(父)さんはタクシーで帰ってきたよ。お金持ちだねえ』なんて噂されちゃうよ。アッハッハー」
と、ごきげんでした。
父の財布は空っぽだし、帰る家もないんですけどね。
父の財布は、わたしが昔プレゼントしたポールスミスのもの。お金は入っていないけど、今も大事に持ってくれています。