特養にいる認知症の父に会いに行きました。
父は眠そうに目を半分閉じているし、
「あんたもこれから色々用事があるんだろう?」
などと言い出しました。
眠いから帰って欲しいのでしょう。

帰る前に、父に握手を求めました。
父はわたしと握手をした後、
「ちょっと待って」
と言って、わたしの手を両手で握りました。父はわたしの手を父自身の顔に近づけ、ほおずりをして別れを惜しみました。
「お父さん、ヒゲがチクチクするよ」
気恥ずかしさもありましたが、本当にヒゲがチクチクでした。
父がようやく手を離してくれたので、立ち去ろうとすると、
「電気を消してくださーい。電気を消して行って」
と頼まれました。
電気のスイッチは父のベッドから離れたところにあるので、消してあげました。
父は、
「ありがとーう」
と言って、目を閉じました。
