特養に入所した父に会いに行った時のこと。

 

 

おだやかに過ごしている父ですが、現実を認識できていません。わたしと会うのが一ヶ月ぶりなのに5年ぶりと言ったり、特養に入って一ヶ月しか経っていないのに10年経ったと言うぐらいですから。

 

 

 

父は言いました。

「そういえば、ここへ来てからおれの父親と母親に会っていないなあ」

 

父の両親、わたしからすると父方の祖父母ですが、わたしは会ったことがありません。

父が入所してから会っていないどころではないのです。わたしが生まれる前に鬼籍に入っているはずです。

 

前は「もうお墓の中だよ」などと言っていましたが、まだ生きていると思っているならそれでもいいかと思いました。

 

「(祖父の名前)さんと(祖母の名前)さんかな?」

「九州にいるんじゃないかな?」

と返しました。

 

「父親より母親の方が長生きすると思うなあ」

と父は言いました。

実際、祖父の方が先に亡くなっているようなので何となく覚えているのかもしれません。

 

 

実家で父の介護をしている時は一緒にいる時間が長かったので、たまに父が現実を正しく認識する瞬間もありました。

 

しかし、施設に入った今、限られた面会時間では違った現実を生きている父との会話しか叶いません。

 

 

わたしの母は入院中です。

Zoom面会や窓越しに面会で顔を合わせます。しかし、気管切開して人工呼吸器をつけている都合上、声が出せません。

 

わたしが話しかけても時々うなずくだけ。

わたしの言葉が届くだけありがたいと思うけれど、寂しさはあります。

 

それに比べたら、言葉を返してくれる父との面会はとても楽しいものです。会話が意味をなさなくても。