第145審/承認の欲求④
冒頭、ドンキ的なところで心愛(ここあ)と姫愛羅(てぃあら)がお買い物。バブみの甚だしい、いとかわちいものを購入。
九条に深泥池を紹介して帰っていく八幡。
事務所に入る前にすれ違った薬師前が騒ぐ。薬師前の髪型が少し変わってる感じがする。八幡はキラキラ投稿のフーディ弁護士、SNS世代としてはすごい有名人ということみたいだ。八幡本人はフーディ弁護士といういわれかたを気に入ってはいないようだが、薬師前は悪い感情は持っていないっぽい。
九条への依頼で、薬師前は丸山という男をつれてきている。てっきりてぃあらが言っていたあの買春男かと思ったが、あれは村田だった。
丸山は禁止されている本番行為をデリヘルで行い、もろもろ180万請求されている。仕事だから連れてきたが、薬師前の丸山への表情は軽蔑を隠さないものだ。
お金はまだ払ってない、小遣い制だから、ということだが、よくそれでデリヘル呼んだなと薬師前がもっともなことをいう。
九条が機械的に説明して烏丸がわかりやすくひとことで伝える、という流れで、金を払う必要はないということになる。そもそも公序良俗違反で契約が成立していない可能性があるから、違約金もない。休業損害も、休業が立証されないと認められるとは限らない。もちろん、九条はちょっとはなしを聞いただけだし、これは一般的にそうだということで、しかも可能性のはなしである。
丸山がこわいのは周囲にバレることだ。払わなければ家族に言う、になどといえば相手は恐喝罪になるが、それをおそれてくれるならともかく、恐喝だと訴えたらどちらにしろ表沙汰になってしまう。
この店「ニュルルポンポン」はほかにも似たような相談があり、店長は田中、キャストはバブミというところまで一致、さらに薬師前から、そのバブミがAV女優の雫ぴえん、つまり笠置雫にそっくりだという情報が出る。これを受けて丸山が本人だと請け合う。憧れの女優と本番ができて夢のようだと。じゃあ180万払えよ。たぶん、雫ぴえんが所属してるらしいといううわさが、店からか客からか出て、行ってみたのだろう。丸山はアホだからその説明はないが、九条が田中の名前を出していることもあり、違約金目当てで店長指示で雫のほうから誘導した可能性もある。
深泥池が心愛と会う。一ノ瀬貴族の売り掛けを肩代わりするかわりに心愛を丸ごと深泥池が預かるというはなしだ。来週から海外で仕事だ。仕事というのは、ふつうに売春だとおもうが、心愛の反応は「ふひぃ なんて?」というよくわからないものだ。深泥池もそれを受けて目を見開き、よくわからない反応をしている。コイツはなしわかってるのか、わかってるはずだが、だとしたら人生なめてるのか?みたいなことだろうか。
たぶん外で待ってた貴族が、スカウトってズリーなと言っている。これから心愛が稼いだ金の2割が深泥池のものになるのだ。そこには、心愛への感情も、罪悪感もない。
心愛は言葉少なに立ち去り、てぃあらと合流。たぶん冒頭で買っていた小さくてかわいいもの机に広げて写真を撮っている。
そして、これはなんだ、わからん、なにかを握りしめ、すさんだ気持ちのじぶんにいまはバブみがないと心愛はいうのだった。
つづく
バブみとはどういう意味か。
語からして赤ちゃんっぽいという意味に思われたが、どうももとは違ったらしい。
https://dic.pixiv.net/a/%E3%83%90%E3%83%96%E3%81%BF
もとは、自分より年下のものに甘えたいと感じる母性がみえたときに使用した言葉のようである。つまり、この時点ではバブーとなるのは語の使用者のほうだ。それが誤用、もしくは転用され、たんに赤ちゃんっぽいものを指す、さらにそれに対して母性本能的なものが生み出されてしまうときに使う語になった。要するに逆転しているのである。当初は、バブ化、つまり赤ちゃん化するのは「こちら」だったのが、やがて「あちら」のバブ化を指す語になったのだ。
由来的には年下の女性キャラクターに甘えたくなる感情が出てきたときのものであるから、図像的には、この年下女性は誤用の意味でそもそも「バブみ」があったと思われる。赤ちゃんっぽいかわいさがあったのだ。おそらくそのように読み取り、さらにそこで頻用されるもとの意味での「バブみ」という表現を目にした者たちが、そのように意図せず転用していったものと思われる。
心愛らがつかう「バブみ」や雫が名乗る「バブミ」はもちろん誤用のほう、「赤ちゃんっぽい」という意味のものだ。そして、これはさらに意味を転じている。世の中に「バブみメイク」が存在することからもわかるように、いまではみずからにバブみをほどこすことが志向され、逆転した意味が一周して戻ってきているのだ。
ややこしいので番号をふる。まず第①の意味たる「バブみ」は、相手に母を感じ、じぶんが赤ちゃん化する。これの誤用の②は、赤ちゃんっぽいものをみたり、そうした傾向を見たとき感じるものだ。冒頭、なにか小物を買っているときの心愛たちがいうバブみは②である。そして③、わたしたちはその赤ちゃんっぽい、かわいいもの、守られるべきものになろうとする。これが「バブみメイク」的なものである。最後に心愛が、すさんだ気持ちのまま、じぶんに「バブみない」としているときは、②と③をあわせたような、②を感じるときのあたたかな気持ち、満たされた気持ち全体を指しているようでもあり、「バブみ」はもはや感情のベクトルだけを指すものではなくなっている。それは感じ、感じられるもので、瞬間的な関係性全体のことなのである。こうした「状況のタイトル」としての「バブみ」は④としておこう。
相手の母性により赤ちゃん化してしまっていたものが、その過程で赤ちゃんのかわいさを再発見し、そのかわいい赤ちゃんにみずからなろうとするようになっている、というのは実におもしろい現象だが、意味変化の原因などにはこれ以上踏み込まず、彼女らが③もしくは④を望むものであることがわかればここではじゅうぶんである。それは、庇護される赤ちゃんでいたい(③)、また、赤ちゃんを愛でるような平和な環境にまどろんでいたい(④)という欲望にほかならない。深泥池が目を見開いていたのはこの欲望である。
こう書くとわかることだが、この欲望じたいは特段目新しいものでもない。現代人の症状としてはありきたりともいえるかもしれない。つまり、③や④のような衝動は、誰であれ強度のちがいはあれ、抱えているものだ。
②から③への経過というのは、言葉にしてみれば自然なものである。バブみがあるものを愛おしく感じるのだから、愛されたくばバブみを宿せばよい、というのは、かんたんな理屈である。
問題、というか、問題でもないかもしれないが、注目すべきは、③や④のような欲望が、外形的には②であるということだ。つまり、たんにちいさいもの、かわいいものを見て感極まる、という、たぶん太古の昔からある人間の感情・ふるまいが、本人がそうなりたい、またそうした小さく弱いものが無条件に存在できる空間にいたいという欲望を覆い隠しているということなのである。だがそれはあくまで転用であり、一体のものではない。しかし、心愛らの言動を見る限り、これらはアナログに連続している。ここに理屈は用いられていない。つまり、バブみのあるものを持つ、また愛でることそれじたいが、じしんのバブみに直接つながっているのだ。
これは、「消費の産物」でも描かれた、モノを通じた自己のプライシングだ。
「家」をもたない現代人は、消費を通じて自己を飾り立て、自他両面から何者かであることを強制される世界に対抗する。「家」は、そうでない場所のことだ。これは物理的なものばかりを意味するのではない。だから、八幡のような強者ですらがモノを通じて自己を形成する。それは外形的なものにとどまらない。プライド、つまり自己認識の面にまでこうした自己暗示は作用し、安心をもたらす。それほどまでに「なにものでもないこと」、つまり「社会的に無価値と評価されること」への不安が人間には深くあるのだ。ここで価値とは、計測可能な数量的なにかであるのではない。「無価値」と書くと誤解が生じるかもしれない。もっと厳密には、「評価不可能と社会から告げられる不安」といったところだろうか。
それほどまでに現代人はうつろなのだろうか。そうなのかもしれない。しかし個人的には、自己生成的に、「家」を取り繕う行為そのものがさらに内面を空家化しているように感じられる。それは、何度か書いたが、主語/述語、原因/結果のうち、述語的結果のみがフォーカスされる時代だからだ。これは心愛らの刹那的感受性からも見てとれる。経過ではない。物語はわずらわしい。一ノ瀬貴族の売り掛けは心愛が原因だが、瞬間的にはただ貴族が店に金を払えていないだけなので、深泥池が立て替えてくれて「良かった」。だから彼女は、わからないのか理解を拒否するのか、含みをもたせた深泥池の依頼にあのような反応をする。
またこれは、そうしたい主語/述語のいわば責任関係とは無縁の赤ちゃんとも裏側でつながる。刹那的感性はまさに赤ちゃんのものだ。これへの憧れと、何者かでなければならないことへの不安を同時に解消するのが「バブみ」なのである。
雫はどうやら悪い方向にすすんでしまっているらしい。九条は彼女にその「家」を提供するつもりがあることを示していた。それではあってはならないということなのか、いまはまだわからない。その生き方でなければならない理由が雫にはあるのかもしれないし、もしくは自罰的なものかもしれない。はやめに九条と会ってもらいたいところだ。
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