第30話/牙をむく
もう明日には次のはなしが掲載されてしまいます。いつも更新が遅くなってすみません。駆け足で書きます。
ジャーマンスープレックスでピクルの倒したジャックがマウントをとり、顔面に鉄槌をくだす。
ここでは鉄槌は最強の手技ということになっている。当たる面積が広く、また拳頭よりやわらかいぶん、グローブや掌底のような、脳に直接届く圧力を備えつつ、手刀ほどシャープではなく重い、そういう技だが、いちばんのメリットは、なんというかやはり、「手で殴る」となったときいかにも理にかなっているということだろう。肩の動きだけでコンパクトに動き、通常の正拳のように地面を蹴り込まなくてもそれなりに強力という、とても平均点の高い攻撃方法なのだ。正拳が弾丸なら鉄槌は金属バットである。
そして、その手軽さと機動性ゆえ、マウントポジションからの手技として鉄槌以上のものはない。ジャックの巨大な拳がいくどもピクルの顔面にめりこむ。花山スペック戦でみられた試し割りのトリック、後頭部が地面に打ち付けられる現象も起きているようである。
ピクルのダメージは大きい。あのピクルが、脳震盪的な感覚になっているっぽい。
そのすきに、チタンの歯を光らせたジャックが噛みつく。顔にである。ピクルの左目の下、頬骨の張った、あまり肉のないところだ。このときには、角度的にジャックはマウントをはずしているっぽい。あのまま延々殴り続けていたら勝ちだったかもしれないが。
損傷は下瞼にまで及び、筋肉が露出している。目つきをかえたピクルが反撃に出ようとするが、刺すようなジャックの蹴りがそれを封じるのだった。
つづく
ピクルがいまいちまだ本気になってない感じがする。いまのところ、会議でなにか言おうとすると邪魔されて言えない声が小さいひとみたいだ。しかしピクルにはひとことで全員だまらせる体力がある。としたら、ジャックの戦略は、そうさせない、というところになるだろうか。
鉄槌は非常に強力で、ピクルにすらダメージがある。ところがジャックは、特に抵抗があったわけでもないのにわざわざそれを中断し、噛みつきに移行している。要するに、メインは噛みつきなのだ。鉄槌がいかに強力でも、ジャックは噛道のひとで、その文脈でたたかっているのだから、決着はそこでつけなければならないと、そんなことだろうか。
宿禰の言を借りれば、噛道は複雑な近代格闘技の打撃のなかに強力な噛みつきを練り込んだものだ。だから、必ずしも噛みつきで決着するというものではない。だれもが見ないふりをしてきたオンナコドモの技としての噛みつきを、量的な合理性と、「エエカッコしい」、なんなら家父長制への無意識の批判精神によって選び、他の技術に並び、また超えるほど洗練させたのが噛道なのである。そう考えると、今回わざわざせっかく奪ったマウントをはずしてまでして噛みつきをしたことには、闘争の合理性以上のものが感じられる。相手がピクルという文脈もあるだろう。エエカッコしいから逃れ出たただふたりのファイターにとって、噛みつきは象徴的な技となる。ジャックが非エエカッコしいを肯定しようとしたとき、特に相手もまたそうであるなら、どうしてもそれを選びたくなってしまうのだろう。
たほうでピクルには、いかに噛みつきが象徴的であっても、実情はただたたかいと食事を連続させる手段でしかない。ないが、たぶんそれは変わっていく。ことばを使い始めたことがその始まりだ。言語は世界を分節し、最後には価値判断を生む。「噛みつき」もまたいくつものたたかいに関する動作から分離し、独自の意味価値をもつようになる。しかもそのタイミングで異様に噛みつきにこだわる男とたたかっているのである。それを洗練と呼ぶべきか弱体化と呼ぶべきかはあとになってみないとわからないが、ともかく変わることはまちがいないだろう。
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