今週の九条の大罪/第99審 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第99審/生命の値段⑧

 

 

 

 

逮捕された白栖医院長が弁護士の相楽を呼び出したところだ。

相楽はほかにふたり弁護士を連れてきているので、タイムチャージ制で実質3倍お金がかかる。1時間8万だという・・・。

 

ファクタリングは診療報酬を担保にして前払い的にお金をもらう。ファクタリング会社は当然そのことで利益を得るわけだから、利子もあるらしい。ファクタリングじたいは詐欺ではなく、診療を見込んで多めに申請して、架空請求するのが詐欺になるというはなしである。詐欺という認識はない、ちょっと架空請求しただけだと、雅之はこたえをいっている。

相楽についてきた弁護士のなかには女性がいて、朝倉優子という。キツイ感じだがキレモノっぽい。雅之は、例のコロナ給付金の不正受給から淫行、さらに今回の詐欺と、明らかに油断している感じがある。常軌を逸していると朝倉はいう。なぜか朝倉は淫行のことをいう。自粛したほうがいいと。

あんな恥ずかしい写真が出回ったのに、雅之には別になんということもないらしい。SMプレイは中毒だと。詳細について語り始めたので、朝倉がさすがに怒って「もう黙れ」という。しかし雅之は「良い女王様になりそうだ」とまったくこたえない。ただ現在は、写真がばらまかれて家族にも知られたことで、なぜか禁断症状は抑えられているという。

相楽がはなしをもどす。これだけ騒がれたら息子の正孝に病院を継がせるのは厳しいだろうという見解だ。しかし雅之は譲らない。正孝がだめなら(げんに正孝は断ろうとしている)婿養子に出ている幸孝に継がせるつもりである。

 

 

前に出所祝いをしていた屋上で、九条、烏丸、薬師前がくつろいでいる。九条はラジオ体操だ。烏丸に健康についていわれたことを気にして運動しているらしい。

薬師前が面倒を見ている笠置雫について語る。もうすぐ出てくる時期らしいが就職先が見つからないと。九条が最終的には雇うみたいなことをいっていたから心配はないだろうが、じぶんが女だからなめられているのかもと薬師前はいう。

 

 

 

「人を舐める人間は許容範囲が狭いから、

こんなもんかって思ったら、

まあこんなもんかって思えますよ。

 

理解させるのは犬に六法全書教えるくらい難しい」

 

 

 

さっぱりと「他者」をあきらめている九条の態度に薬師前もおもうところがあったらしく、烏丸とともにラジオ体操に参加するのだった。

 

 

雅之は、じぶんの不在中のことにかんしては、射場事務局長というコンサルに任せている。その射場に、相楽が連絡をとる。逮捕されたことも射場は知らないらしい。だが、なにかみょうな感じだ。債権回収会社のものがきているからと射場は電話を切る。射場の横には正孝がいて、部屋には黒服の男がたくさんいる。明らかにカタギのものではないが、ヤクザというふうでもない。正面にいる男は事件屋・有馬剛。雅之の借金5000万円を今日中に返すか、病院の権利を売ってくれと迫るのだった。

 

 

 

つづく

 

 

 

事件屋というのははじめて聞いたことばだったが、もめごとにわりこんで利益を得るものの総称らしい。流れからして、ファクタリング会社に雇われたのかもしれない。だから、カタギではないのはそうなのだが、有馬の表情の描きかたはどちらかといえば会話ができるタイプの人間のものだ。ヤクザや、交渉不可能な人物の顔はもっとこう、爬虫類みたいな顔をしている。それに、「有馬」といえば、烏丸の自殺した親友の名前である。たまたまか関係しているのか?いずれにしても、まだまだはなしは複雑になっていくようである。

 

 

雅之にとって、白栖病院は男根的な価値をもっている。病院が大きく育ち、そして持続することそれじたいに意味があるように考えるのもそのためだ。しかし、現実の病院経営は自転車操業で、うまくいかない。そこに見栄が生じる。それが、幽霊病床や架空請求という、存在しない「大きさ」である。

そうした見栄のはりかたには無理がある。それがおそらくあのSM趣味につながっているものとおもわれる。強く、大きいことのみを志向し、げんにそれを実現し続けるために、雅之は弱く小さいじぶんをどこかで表現しなければならなかったのだ。それを、彼は、虐げられる役割を演じるプレイを通じて達成していたのだ。

病院が男根的価値をもつものであるとして、では、彼が死んだあと、それはどうなるだろう。そこで、じぶんの血を引く男性の子どもにどうしても継がせたいというはなしになるのである。雅之は、白栖医院を一代で築き上げたわりには、妙に「一族」という文脈で語ることを好む。それは、結局のところ「白栖家」というよりはじぶんのものであるということなのだ。死後、もしくはじしんの現役引退後も、男根的価値を保持するために、彼はそれをじしんの分身たる息子に継いでもらわなければならないのである。

 

 

不在時の病院を間かさている射場という男は、案外たよりにならないっぽい。それに、こんな状況で相楽からかかってきた電話をあわてて切るというのもよくわからない。お金がかかるからだろうか。それとも、弁護士が関与する前になんとか解決しようと考えているのだろうか。

この場には正孝もいる。正孝は、父親の経営方針には反対であり、現在の白栖病院の姿を好ましくおもってはいない。かといってこんな病院いらないということにもならないだろう。ともかくそこには医療がある。患者がいて、助けを求めている。しかもそこはじぶんが実力を発揮できる場所だ。経営方針が気に入らなくても、それがなくなっていいはずはない。つまり、正孝は、好むと好まざるとにかかわらず、事件屋・有馬によって、「見栄」を含むマチスモ的なものに巻き込まれることになるのである。

 

今回は久々に笠置雫の話題が出てきた。闇金ウシジマくんでは、エピソードごとに時間の断絶が起こって、前後関係すら不明のものが多かったが、同様に副題をつけてくっきりテーマを呈示するスタイルにしつつも、時間的にはひとつの方向にはなしが進んでいく内容になっているようだ。

薬師前と笠置雫の図像が宿すものは当然女性というありかたの弱さである。どんなに正義を貫こうとしても、薬師前の前にはたんに女性であるという事実に基づいたガラスの壁や天井が出現することになる。これに抗うものとして亀岡という弁護士も登場したが、九条と亀岡は考えかたを異にしており、九条は、今回見えたように、ともかくあきらめるスタンスである。あきらめたところで見えない壁に阻まれて前に進めないという状況にかわりはないわけだが、気休めにはなるかもしれない。というのは、薬師前のように、非常に弱いものたちを救う立場のものには、むしろあきらめない気持ちが重要だからだ。笠置雫をあきらめないために、道を阻むものを納得させたり排除したりすることをあきらめる、それが九条のいっていることである。

そして、薬師前や笠置雫の行く道を阻むものとは、大きいことをよしとするマチスモである。大きいこと、強いことをよしとする男根主義は、相対的に弱い女性、また女性でなくても、ハンデのあるものが前に進もうとすることを拒むのだ。むろん、九条はどちらの味方でもない。性格的にはまちがいなく彼は雫の味方であり、仕事が見つからないときは事務所にこいということをいうくらいであるが、弁護士として手続きを守ろうとする彼は、どちらに与するものでもない、ゆえにどちらの味方でもありうるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

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