今週の九条の大罪/第98審 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第98審/生命の値段⑦

 

 

 

白栖雅之医院長が検察に逮捕されたところだ。取り調べるのは九条の兄、鞍馬蔵人である。

内容としては、ファクタリングということで、またややこしいが、支払われる予定になっている診療報酬を債権にしてファクタリング会社に買い取ってもらい、先にもらうということのようだが、そのことじたいは違法ではないという。ただ、その際に架空の請求書を発行してしまったようなのだ。つまり、債権を発行した時点では存在していなかった売上を捏造したということだろうか。期日までにファクタリング会社に振り込めばよいと考えてついやってしまいがちらしい。ファクタリング会社としても、期日に同じ金額が支払われることになる。だが、その行為じたいは詐欺ということになる。

雅之はすぐに弁護士の相楽を呼ぶようにいう。どういう戦略なのかよくわからないが、蔵人は電話番号を聞いたり、調べてかけろといわれてから黙ったりする。白栖はこういう状況に慣れているということなのか、蔵人の拒否を見越すように、腕に書いておいた電話番号を見せつけて電話するように改めていうのだった。

 

蔵人が書記っぽいことをやっていた部下に白栖病院のこれまでを解説する。80億もの累積赤字を抱える病院を、医院長は徹底的な効率化と人事戦略で復活させた。アメリカで学んだスーパードクター、長男の正孝を中心にして呼吸器、消化器を得意分野として打ち出して医療資源を集中させた。だがじっさいは資金繰りにおわれて今回のような詐欺もやっている。ファクタリングより前に描かれた病床数の詐欺でコロナの補助金をもらうメソッドにかんしては、そのやりかたを他の病院に提供してなんらかの利益を受けていた可能性があるとまで蔵人はいう。蔵人は部下に、相楽に電話するようにいい、外でタバコを吸うのだった。

 

正孝は友人の山根と会っている。ぱっと見さえない感じで、正孝の友人というより金をたかる小学校の同級生みたいな雰囲気だが、医者らしい。

山根は、奥さんへの傷害で捕まり、離婚でもめていると、泣きながらいう。もとは嫁のいいなりで勤務医だったが、給料も悪いしきついから製薬会社の査定をする医者になったのだという。9時5時で帰れるのはよかったが、家事をおしつけられ、自分の時間がなくなっていった。そういうなかで否定的なことを毎日言われ続け、スーパーで軽く小突いたらわざと派手に転んで通報されたと。山根はストレスでハゲてしまっている。奥さんの心配をする正孝に、「山根のことも心配してるだろ?」と、急に山根がギャルみたいなしゃべりかたになる。いや、ギャルは名字で自分を呼ばないか・・・。

用事というのは、離婚の弁護士に払うお金である。気前よく封筒にいれたお金を預かり、山根は、いい弁護士の電話番号は記憶しておけと正孝に忠告する。山根は学生時代から正孝と知り合いらしいが、正孝は医師免許の性格判断試験で2回落ちているらしい。彼は、人の気持ちがわからないという。正孝はそれを、感情を学ぶ時間に勉強していたからだと解釈している。なぜ相手が不愉快になるのかが理解できない。だから、なにがダメかをパターンとして公式にして、生活を送っているらしい。そんな彼を知っているから、山根は弁護士のことをいうのだ。いつか必要になるということである。

 

そして、山根が国選からかえて無事不起訴にしてもらったという「いい弁護士」というのが、九条である。傷害の件を不起訴にしたのだ。離婚も引き続き九条が担当するが、裁判にするより和解して示談がいいのではというはなしである。そばには烏丸がいて、九条の不健康な食生活を指摘したりしているのだった。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

白栖のもとにはさっそく相楽がやってきているが、ほかの弁護士をふたりも連れてきているので、3倍の金がかかることになるようだ。いちいちお金かかる感じにもっていくのだな。

 

ともかく、山根を経由して、正孝と九条とのつながりができつつあるわけである。

だが、もともと正孝と九条はつながりがあった。第1審の交通事故で足を失った少年の裁判を、正孝は追っていたのだ。あちこちの病院をたらいまわしにされ、最終的に弟の幸孝の病院で足を切除することになったことを、正孝は後悔している。これは、弟の拝金主義的なものと対立する考え方として、病院の理想像を述べる過程で出てきたはなしだ。それは、現行の医療システムの瑕疵への怒りと、じぶんなら切除させずに済ませることができたかもしれないという、技術的不足の瀰漫への怒り、それに、その少年の足を奪った犯人側の弁護士・九条への怒りがごちゃごちゃになったものだったのだ。

ふつうに考えると九条と正孝は対立しそうだが、いろいろなぶぶんで似ている。だが、決定的に異なるぶぶんもある。おそらく、九条と正孝は、互いに相対化するしかたで、システムへのアプローチのしかたを浮き彫りにする関係性になるとおもわれる。

似ている部分とは、以前(といっても休載の関係でずいぶん前のはなしになり、ぼくじしんあんまり覚えていないのだが)書いた「創出」と「対応」の、ふたつの取り組み方に関してである。これは、今回のはなしでいうひとの気持ちがわからない正孝のありかたともつながる。「創出」とは、患者や依頼人、つまり、病院や弁護士の客を作りだす、という意味である。「対応」とは、まず患者や依頼人が出現し、しかるのちに、医術や法律が誕生するという順に行われるものである。「創出」サイドは、現実の厳しさもあって病院経営を効率的に行う白栖医院長、次男の幸孝、そして医院長から火種をたやさないよう注意する相楽弁護士がいる。彼らでは、まず医者や弁護士がいる。そのために、患者や依頼人を作りだすのである。「対応」サイドにいるのは正孝と九条、それに壬生である。彼らはどちらかといえば原理主義的で、医術や法律の本質からものごとを見つめなおそうとしている。まず、患者や依頼人が現れる。そこに、技能をもつものとして自分達が駆けつけ、なんとかする。彼らの考える仕事の原像はそういうものだ。「対応」することが仕事である以上、彼らに定時勤務というという概念はない。患者があらわれたときが仕事のはじまるときなのだから、当然そうなる。すると、必然的にプライベートというものが失われることになる。かくして、妻をないがしろにする正孝、職場に住む九条という状況が生じるのである。ここに壬生が入るのは、壬生のような不良も、そういう生きかたを強いられるからだ。いつヤクザにさらわれるかわからない状況に定時などない。17時を過ぎたから今日はもう京極の手下が襲ってくることはないな・・・なんてことはないのである。

そして、原理主義的な彼らが、その手続きにしたがうとき、感情は無用となる。九条がこころのもっともやわらかいところにあるべき両親にかんする記憶をトラウマとして処理し、思考の道程からはずしていることからもわかるように、彼も感情を意図的に排除して仕事をするものだ。正孝は、ある種の症状として、そうした感情が欠けているようである。このぶぶんも、似ているといえば似ているが、いま意図的かどうかを記したことでわかるように、似ていないといえば似ていない。そしてその理由も明らかである。九条は、システムにしたがうために、手続きを守るために感情を捨て去る。たほうで正孝は、システムへの怒りとともに、現行の状況を嘆くとともに仕事をするものなのだ。

 

こういうわずかなちがいが、両者がもし接触することがあれば、浮き彫りになるのではないかと期待できるのである。むしろこの点については、正孝は、悪法を変えようとする烏丸に近いのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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