今週の刃牙らへん/第15話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第15話/噛み合い

 

 

 

首筋を噛み切られ、うえから首を踏まれ、さらに腕の太い血管まで切られた鎬昂昇。

血の軌道からして、ジャックは本気で噛み切りにいっているようだ。両目の視力を奪われた直後、まだ脳裏に残像として残っていたであろう腕を嚙んだ感じだったので、じっさい余裕はなかったのだろう。ここでとらなければ終わりだった。

独歩と克巳が腕のダメージの大きさを語る。最初の首筋のやつももちろん大きいが、ナイフ戦闘術では四肢の付け根をねらうのは当たり前のようだ。

 

ジャックが目をおさえて視力がないことを確認している。これで相手が倒れなければまずい状況だ。しかし、特に警戒しているようでもないので、確信もあるようだ。

じっさい、鎬昂昇は倒れてしまう。勝負ありだ。特に意外なこともなく終わってしまったな・・・。

 

すぐに担架が持ち込まれ、鎬昂昇が運ばれる。ジャックのところには光成がきて噛道を讃える。そして、視力がないことも指摘する。が、運ばれつつある鎬が意識を取り戻し、ジャックに声をかける。視力がじきつながると。1週間もあればもどるのだそうだ。そうなの!?初めて聞いたんだけど・・・。

ジャックの手を、鎬昂昇が握る。ジャックは、見えないのもあって当惑しているようだ。握手は、ファイト中にも見られた動作だが、今回のこれは、相手を幻惑するものではなく、こころからの敬意を含んだものだ。鎬は、嚙道を「天下一」の「史上最高の武術」だというのだ。

そして、耳をもう少し寄せるようにいう。見えないのもあって気持ちの面でも無防備なジャックがいわれるがままにするので、鎬はジャックの耳を甘嚙みしてからかうのだった。驚いたジャックはファイト中にも見せたことのない反射的な動きで叫んで離れる。恥ずかしかったようで、ばつの悪い感じのうなり声をあげている。恥ずかしいけど、悪い気持ちはしないジャックなのであった。

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

鎬はけっきょくなんの対策もしてこなかったのか。親切にもジャックは「嚙みつきます」ということを示してくれているというのに・・・。これと、例のウォーミングアップとを矛盾なく同居させるのは「準備」以外なかったのだが。それとも、これでもいちおう準備してきたのかな。嚙まれつつも紐を切る動作には、たしかに覚悟が感じられた。そういう意味では、こころの準備はしてきたのかもしれない。

 

「刃牙らへん」の意味するところは、『バキ道』最終部からのつなぎにあった本部らの発言を拾うと、ポジティブな響きのものではない。それは、ジャックと比較したとき、バキたちはけっきょく「エエカッコしい」だ、という文脈で使われていたのである。

 

同時に、バキ作品を『グラップラー刃牙』から続く物語としてとらえたとき、この語は中心の不在もしくは遍在を暗示するものでもあった。バキがいて、勇次郎がいる。絶対者・勇次郎に、それに告ぐバキが追いつこうとする物語。これが『範馬刃牙』で結ばれたとき、中心は失われた。その結果が、『刃牙道』冒頭にみられた作中人物たちのあくびである。物語世界は中心を失った。そこに、宮本武蔵、そして宿禰という、もはや神仏のたぐいであるような中心が仮に据えられもしたが、現在、こうしてどこにも中心はな状態になっているのである。だが、これはあくまで物語目線のはなしだ。この世が野球の漫画なら、この世界の主人公は大谷かもしれない。しかし、ぼくの人生はぼくのものだし、あなたの人生はあなたのものだ。誰にとっても、世界の主人公はじぶんである。そういうことが、中心を欠いた世界ではあぶりだされてくる。しかし、物語は紡がれる。作者を超越しつつ、物理的にはモノローグ的なところに収束していくものとしての物語が、紙のうえを、もしくはスマホやタブレットのうえを、直線的にすべっていく。するとどうなるかというと、中心がどこにでもありうるような世界になっていくのである。それが群像劇というものだ。

そして、バキではたたかいというコミュニケーションが描かれる。バキ世界に魅力的な人物たちがたくさんいることは明らかだったが、その描かれかたが変わってきており、それは、彼らが闘争を通じてコミュニケーションをとるさまが、これまでとはちがった角度で触れられるということなのだ。今回の謎にほのぼのとしたふれあいはそういうことの帰結だろう。「刃牙らへん」が描かれるということは、そういうことなのだ。

 

そして、直観的には、おそらくこのことと、もとの意味、「エエカッコしい」を意味するものとしての「刃牙らへん」は、そう遠い意味ではないのである。もっといえば、これは「刃牙らへん」ではなく、「ジャックらへん」の可能性があるのだ。なぜなら、エエカッコしいばかりのこの世界で人目を気にしない唯一無二の存在がジャックだからだ。と、そのいっぽうで、本部たちの見立てとは別に、ジャックはけっこう観客の反応を堪能しているし、鎬昂昇のからかいにも人間らしい反応を見せている。つまり、なんというか、ジャック的ありようが、ファイターどうしの止揚によって到達すべき「至高」として描かれてはいないのである。本部たちの口調はむろん「ジャックすげー」だったが、それは、それが最善である、というようなはなしではなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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