今週の刃牙らへん/第12話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第12話/あの頃より

 

 

 

また更新が遅くなり、月曜になってしまった。すみません。駆け足でいきます。

 

ジャック対鎬昂昇の試合がはじまり、開始早々、鎬の斬撃拳が炸裂、ジャックは上半身の全体にわたってあちこち切られてしまう。とはいえ、傷じたいは浅そうだ。筋肉の厚さのせいなのか、頭蓋骨ごと切ってるんじゃないかというほど深く猪狩の顔を裂いたシコルスキーの斬撃も、ジャックではせいぜい切り傷程度のものになっていた。皮膚の下の肉がかたすぎて弾かれてしまうのかもしれない。

 

観戦しているバキの評価では、鎬昂昇の拳は以前対戦したときより鋭利になっているということである。あれって最大トーナメントよりも前のことだもんね。ドイル戦であれだけ強かったんだから、そりゃそうだろう。

鎬の構えはこれ、紐きりかな。視神経に指をひっかけて切り、視力を奪うというおそろしい技だ。

ジャックからすればたいした傷でもない。脱力をきかせながら構える。そうして、試合っぽい攻防がはじまる。ジャックの猛烈なジャブをかわし、風圧で試合場の土が舞うようなローキックも飛んでかわす。その足で、鎬はジャックの顎を打ちぬく。少し効いたっぽいが、ジャックの攻撃は止まらない。攻撃の嵐のすきまを狙い、鎬の親指一本拳がジャックの眉間をうがつが、特にダメージはなさそう。するとジャックは、あいている鎬の左手をしたから握手の要領でつかみとる。サイズはけたちがいだが、とことん指を鍛えている鎬は握力もそうとうあるはずだ。部位鍛錬もずいぶんしているだろう。だがジャックはその手をやわらかいという。

 

次の瞬間、鎬の貫手が閃き、ジャックの左目から光が失せる。紐きりが決まったようだ。とほぼ同時に、それを待っていたように、ジャックの嚙みつきが鎬の左肩に入るのだった。

 

 

 

つづく

 

 

 

やはり嚙みつきはカウンターの技術だな。これをカウンターとは呼ばないかもしれないが。

 

ジャックの考え方は計画的なものではない。この試合に勝てれば、今夜を乗り切ればそれでいいという刹那的なぶぶんがかなりあるのだ。

よく似ているしジャックじしんあまりちがいを区別していないようなのだが、「勝利」を求めることと「強さ」を求めることは異なっている。両者の様態が異なるからだ。極端なことをいえば、常時強くなくても、その瞬間だけ強さを引き出せれば、勝つことはできる。また、勝利数が少なくても、本部のように、じつはとても強いファイターというのは存在する。「勝利」は、観測可能な事実の説明であるのに対し、「強さ」は、通時的であり、観測したり手に取ったりするものではない、物事の形容文句なのだ。

試合前の御手洗さんとのやりとりでは、ジャックはやはり今夜を乗り切ること、つまり「勝利」を求めているようだった。その意味で、紐を切らせて嚙みつきを敢行するというのは、理にかなっている。おそらく、切られた紐はもとにもどるのだろうけど、しかしこの戦略は、「強さ」という点においては、疑問が残るものとなる。かつて大山倍達は、日本刀とのたたかいにかんして、片腕を捨てろといっていた。だが、大山総裁自身は、無傷で完勝したのである。つまり、「片腕を捨てろ」というのは、気の持ちようのはなしであって、戦略ではない。片腕を切らせているあいだ、相手は無防備であるのだから、そのとき必殺の打撃を加えろと、こういうはなしなのだが、じっさいには「片腕を切っているつもりにさせているあいだ」でじゅうぶんなわけである。そして、もしじっさいに片腕を差し出せば、その勝負に勝つことはできても、次の勝負には負けてしまうだろう。「勝利」のために「強さ」を手放す、それが今回ジャックが実行したことなのである。

 

ジャックが確立した嚙道は、「勝利」のための技術なのか、それとも「強さ」のための技術なのかというと、くりかえし体系という言葉が使われていることばから分かるとおり、「強さ」を導くものである。「体系」とは、その確立に関与していないものもなんらかのかたちでコミット可能な、またなんらかのかたちで読み取ることができるデータで表現可能な全体をいう。「勝利」のための技術、つまり、じっさいに片腕を切らせる技術というのは、普遍化不可能である。誰もが片腕を切らせるほどの胆力をもっているわけではない、というはなしだけではなく、そうした状況が、想定としてはふたしかすぎるからだ。しかし、むしろはなしを具体的なところから遠ざけ、淡くすることで、これは「体系」に組み込むことが可能になる。つまり、「片腕を切らせるつもりで立ち向かえ」というようなことだ。もちろん、これだけでは精神論かもしれない。だが、そうして新しい回路を開くことで、技術的な明度があがり、道は拓かれるのである。

 

だが、ジャックは「勝利」を望むものである。そう考えると、嚙道はいうほど普遍的ではないのかもしれない(当たり前だが)。試合開始前に、両者は規範意識から逸脱するという点で似ていると書いた。武術家でありながらかまわずウォーミングアップをする鎬昂昇と、オンナコドモの技術である嚙みつきを真顔で駆使するジャック・ハンマーなのだ。ひょっとすると「体系」の意味も、ジャックでは微妙に異なってくるものなのかもしれない。

 

 

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