第11話/久方ぶりの闘技場
鎬昂昇とジャック・ハンマーの対決がはじまる。
鎬のセコンドは花田である。花田は、今さら言うと前置きして、ジャックは嚙みつきだけに特化したファイターじゃないと、なんか当たり前のことをいう。ジャックのことを知っているふうだが、花田は、たたかってもいないし、なんならジャックに視認すらされてないよね・・・。鎬は最大トーナメント出場者だしピクルのときも顔出してたからジャックもぎりぎり知ってたけど。なに言ってんだコイツ。
鎬昂昇は優しいので、今さらだねとしつつも、噛みつくだけの猛獣がいないように、地下闘技場には単純なファイターなどいないと一般化する。この前フリは、たぶんたたかいの様相を暗示するものとおもうが、とすると、嚙みつきがなんらかの方法で封じられるような状況がくるのだろうか。
地下闘技場のお客からすると鎬は久々みたいだ。通常、拳を鈍器と化す空手を斬撃術へと進化させた逸材である。拳や手刀で「切る」ということは、独歩もやる。つまり、ある段階をこえたところで、鈍器はやがて刃物になるということだ。この煽りは、逆に直前のジャック評にかかるものかもしれない。つまり、鎬は鈍器としての拳も当然もっているはずなのだ。
なんのつもりだか、鎬は右足を前蹴上げのように垂直にあげる。柔軟性とバランス感覚を見せているようだ。とはいえ、まあ、これもたぶんみんなできる。
そこへジャック登場。鎬のほうに視線をやっている。こういうことは、意外と珍しい感じがする。ジャックは、じぶんの強さに興味があるのであって、相手はどうでもいいからだ。興味があるのか、それとも、鎬昂昇という記憶のあいまいな人物がじぶんのおもっているものにちがいないことを確認しているか、どちらかだろう。
両者が向かい合う。鎬昂昇177センチ84キロ。ジャック243センチ211キロ。身長差70センチ近く、体重は倍以上ちがう。見下ろしている、と実況は騒ぐ。それは、身長差があるのだから当たり前のことだが、ジャックはひざに手をおいて身を屈め、大人が子どもにするように視線をあわせる。正しく見下ろしたわけである。
開始とともに仕掛けるのは鎬。両手足が閃く。空中からの連撃が、ガードしたジャックの腕や肩を、まだ浅く、裂くのだった。
つづく。
なぜか渋川剛気が声をあげて感心している。渋川はかつてジャックと対戦した人間だが、なんだろう、ガードをしているのが珍しいのかな?
ジャックが嚙みつきだけに特化したファイターではないというのは、そんなの当たり前だろうというはなしなんだけど、これは宿禰戦でも言及されていたことで、ポイントのひとつなのかもしれない。で、当然鎬昂昇も、斬撃拳だけの空手家ではないというはなしになって、たとえば眼底砕きみたいな打突系の秘技も彼にはある。そういうはなしだろうか。
じっさい、嚙みつきだけに特化したのでは、嚙道は成立しない。宿禰はねりこむという上手い表現をしていたが、まずジャックならではのフィジカルと格闘技術があって、そこに自然に、強力な攻撃技術としての嚙みつきが馴染んでいる状態を作り出す、それが嚙道なのだった。決め技が嚙みつきである必要も、最終的にはない。もっとも強力な技は嚙道では嚙みつきだから、自然とそうなる場合が多いだろうが、そうでなくてもよい。そして、いかにそのたたかいの流れの内に、嚙みつきを自然にのせるか、そこに相手を誘導するかということが要諦ということになる。だから、おおざっぱにいって嚙道はカウンターの技術になる。象徴的に肉食獣のポージングがとられることも多いが、肉食獣のかまえは、「これから噛みにいきます」ということを相手にわかりやすく伝えるものだ。それは、技術ではない。そうなったら、相手はまわれ右して逃げたり、バキみたいに顎を打ちぬいたり、いろいろ、対策できるようにもなる。そうではないのが嚙道の特長なのである。
こういうふうにみると、鎬昂昇はどうなのだろうということになる。同じように単純ではない地下闘技場ファイターなら、斬撃拳ではない拳を彼はもっていることになる。じっさい、もっている。だが、もし彼が、あまりにも斬ることにこだわりすぎてしまえば、ジャックにおくれをとるかもしれない。ジャックのスタイルは、嚙みつきが決め技である必要がない。なんなら、使わなくてもいい。しかし鎬昂昇はどうだろうか。そこで、彼は後手にまわってしまうのではないか。板垣作品でよく描かれる、凶器をもってしまうと、それ以外の行動をみずから制限してしまうという、人間の心理なのである。
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