今週のバキ道/第143話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第143話/嚥下

 

 

 

 

オリバボール状態になって宿禰のすべての攻撃を無効にするオリバ。この技は防御だけではない、条件が整えば攻撃もできる!パックマンのように球体の内側に相手を飲み込むのである。

 

とはいえ、以前バキにしかけたときのように完全に飲み込むことは難しいようだ。手足の大半がはみだし、オリバじしんの球体表現もかなり崩れている。全員で宿禰の状態をつぶしているような状態だ。

目撃者の松永(壊された車の持ち主)が引き続き証言する。2メートルの球体が3メートルの巨人を飲み込んだのだと。球の大きさはせいぜい直径1メートル、宿禰は2メートル超だが3メートルはない。だが体感的にはそう感じてしまうのだ。

 

蛇がゆっくり獲物を飲み込んでいくように、オリバは、ひとつひとつ丁寧に、はみ出た宿禰の手足を拾い、内側にたくしんこんでいく。最終的には両足がのぞいている程度にまで飲んでしまったのだ。だがやはりオリバの球体はかなり崩れてはいる。宿禰の抗うパワーもそうだろうが、なにしろ大きさだろう。

小さい生き物を手の中に隠して運ぶとストレスで弱ってしまう、これはそういう攻撃だったとおもうが、なによりまず窒息という現実がやってくるようだ。宿禰は膝を抱えた胎児のかっこうで収まっているっぽい。それがオリバのからだに圧迫されて、呼吸ができていないのだ。嫌な技だな。

ばかげた話だが、宿禰は「消化される」という恐怖を感じたようだ。屈辱感とともにふりしぼった最後のちからで、なんとか彼は脱出に成功するのだった。開いたオリバを見て松永は人間だったのかと驚いている。

ちょっとだけサイズが足りなかった、とオリバは余裕をもっていう。そう、ただ大きさが足りなかっただけだ。技としては成功しており、宿禰も窒息寸前だったのである。宿禰は余力を計算している。けっこうぎりぎりっぽい。次の立ち合い、要するに次の衝突を決着とすると宣言する。そんなことを宣言しないでも、たたかいはいままで続いてきた。これまでのものとなにがちがうのかとオリバは問う。ちがいはないらしい。立ち合いとはいつも全身全霊で行うものだと宿禰がするのを、オリバはつまらないコメントだという。

 

言葉の通り、特に戦略があるわけではなかったようである。構えたオリバに宿禰は力士らしく頭から突っ込む。その顔面に、オリバのかためた拳がめり込んだ。すさまじい馬力に殴ったオリバがふっとんでいる。パンチで跳躍したような状態だ。ありきたりの立ち合いということだが、今宵いちばんのものだとオリバは内心讃えている。

腕がどうにかなっていても不思議ではない衝撃だったろうが、とりあえずオリバは無事だ。息をきらせながら立ち上がろうとするが、宿禰は突っ伏したまま動かないのだった。

 

 

 

 

つづく。

 

 

 

 

そろそろ決着みたいだが、おもったよりアライジュニアっぽくないというか、互いにきちんと敬意を払った結末になりそうでよかった。

立ち合いは常に全身全霊ということだが、最後の一発はカウンターをくらわせたオリバが驚嘆するほどのものとなった。どうしてこういうことになったかというと、逆に余力がほとんどなかったからとおもわれる。人間のふるまいというものは、ゲームの体力ゲージみたいに数量化することの難しいものだが、宿禰の体感的には、残りの馬力はわずかという感覚があった。これは要するに、あと1回、ぶちかましを行ったら、勝ってもも負けても終了みたいなことだろう。こういう状況だったから、宿禰は残っていたものをすべて使い切ったのである。つまり、じっさいには、1回のぶちかましプラスアルファぶんくらいの体力はあった。だが、そのわずかなアルファを残したところでどうしようもない。だから彼は底まで使い切ったのだ。そうして、結果的には「全身全霊」の一撃を超える一撃を生むことができたのである。

 

これが、オリバの拳によって受け止められ、結果として宿禰はダウンしたようである。ここから導けることがひとつだけある。彼ら力士は、覚悟を決めてさえいれば相当な攻撃も耐えることができる。だが、それも限度がある。その限度というものを定めるのが、「全身全霊」なのだ。衝突して相手に衝撃を加えるものは、じしんの身体にも衝撃を負っているわけである。つねにフルパワーで激突する彼らは、つねに同程度の衝撃をじぶんにも課しているのだ。今回宿禰がダウンしたのは、通常の「全身全霊」の一撃を上回るパワーを、彼が意図せずしてみずから引き出してしまったからである。それは、パワーおばけのオリバも驚くほどの衝撃を生み出した。だが、頭を、今回は顔を先端にして相手を突き出す相撲スタイルでは、その衝撃はそのままじぶんへと返ってくることになる。彼らのスタイルとすさまじいパワーは、彼らのうたれ強さを育みもする。しかしそれは限界ともなる。じしんが通常だしうる衝撃を超えるものを、彼らは受け止めることができないのである。

力士の頭をぶつけあうたたかいかたがそのまま打たれ強さにつながっているのだとすれば、この方法がまちがっているとはいえないだろう。突きを行うものは拳を鍛えるし、キックボクサーはスネを鍛える。同じように頭部や首が非常に鍛えられている力士は、ふつう考えられる以上にタフネスについても仕上げられているのである。だがこれは、ある種の制限ともなるわけだ。空手家が、じしんいままで引き出したことのないパワーをもって突きを放ち、拳が壊れてしまったとしても、ダウンするということはない。だが力士は、限界を超えた衝撃を生み出すことに成功した瞬間、彼自身もそれを受け止めなければならないのである。

 

相手を倒すためにみずからの身体もさしだす、いままでよく見えすぎていて逆に認識できなかったことだが、相撲にはそんなところがあるのだった。そう見ると、これは格闘技的な考えからは遠いものとなる。格闘技術とはなにかということをひとことでいえばそれは、いかにして「じぶんの強いところで相手の弱いところを叩く」かだからだ。だがこれはある種のコミュニケーションである。コミュニケーションとはメッセージの伝達である。メッセージや表現は単独で成り立つことはできるが、コミュニケーションは必ず相手を必要とする。今回の宿禰のダウンは、体重差によりふっとんではしまったものの、しっかりとその衝撃を跳ね返すことのできるオリバという人物の拳があってはじめて生じるものだ。そして力士としての「顔面を差し出す」というスタイルである。ここからはもはや「格闘技術」のもつ合理性は感じられない。あるのは、圧倒的出力による鍛えられたじしんのタフネスへの信頼と、見たことのないその先の景色への賭けである。それを可能にするためには、オリバという相手がいなくてはならなかったのだ。

宿禰じしんは、出自もあって、孤独にひとり相撲などで鍛えてきたものだ。彼は、250キロの膨張する力士を相手に、丹念に技術やパワーを練ってきた。しかしそれはけっきょくのところイメージである。じしんの経験や記憶にない超越を、輪郭もくっきり、具体的に想定することは、人間にはできない。だが、これまでのその経験に支えられた「自己」というものの、いまだみぬ出力を、「相手」がいるときには、引き出すことができるのである。

 

これまでの三角形/逆三角形の図象はすべて格闘技術的な、相手を屈服させることを目的とした文脈のなかでのものだった。三角形の安定したスタイルで聖地を守る宿禰は、そこから敵を追い出すことを目的とする。聖地は、襲撃の前と後とで変化していないことが重要である。たほうで逆三角形の狩猟者は、相手を飲み込み、じしんの糧とすることが目的である。たたかいの前と後とで、吸収・消化しているぶん変化はあるが、相手が消滅しているという点では三角形のものと同様である。これは、二者の対話を、いかにして独白にするのかという問題と似ている。どこかでも最近書いた気がするが、プラトンの書くのソクラテスの「対話」は、じつのところソクラテスのモノローグである。登場する名士や賢者は、ソクラテスの議論に必要な質問者のようなものでしかない。結果的にそれらはただ、ソクラテスの考えがいかにすきのないものであるのかを見せるかませ犬的なものでしかにのだ。そうして、ソクラテスは複数人による彼のモノローグを成立させる。格闘技にも似たところがある。要するに、「誰がこの試合の主語なのか」ということを争って決める、それが格闘なのだ。オリバのパックマンは、球体という形状を通して、上下の意味を損ない、「大地」を失わせた。今回の宿禰の動作はその先にあるものかもしれない。「大地」を失ったとき、闘争における三角形と逆三角形は等しいものとなった。宇宙空間でその三角形が上を向いているのか下を向いているのか議論してもしかたないのだ。これは、考えてみれば攻めなのか守りなのかということを議論しても意味がないということを導いた可能性がある。宿禰は、聖地を守って敵を追い払う。オリバは、相手を食って吸収する。けれども、両者はともかく「相手をなきものにする」という点で同一なのだ。オリバボールは闘争というものがどんなスタイルであれこの点で等しいということを匂わせた。その先に、相手がいなければ成り立たない闘争のようなものを宿禰が見せた(かもしれない)とすると、おもしろいのではないだろうか。

 

 

 

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