今週のバキ道/第140話 | すっぴんマスター

すっぴんマスター

(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第140話/目線

 

 

 

オリバの宿禰へのリベンジマッチ開始だ。

当初は特別乗り気にも見えなかった宿禰だが、再び三角形・逆三角形のはなしを持ち出され、相撲と実戦を対比的に持ち出されたりして、やる気になったようである。

 

いきなりオリバの左アッパーが決まる。すごい迫力の絵だ。1秒前まで会話していた感じだったのもあって、少し不意打ち気味なのかもしれない、宿禰はこれをまともにくらう。おでこでオリバの拳を砕いた彼だが、これは効いたようだ。

続けて流れるように右の拳が宿禰の顔面にめりこむ。アッパーで少し浮いているせいか、宿禰はほとんど水平にふっとび、背後の車に激突、半壊させた。宿禰も重いしオリバのパンチもすごいしで、駐車場でやるのはまちがいだったんじゃないかな・・・。ああいうのって光成が弁償してたりするのか?

歩みよるオリバを、まだ回復しきっているようではない宿禰がタックルのような動きでうけとめる。彼のばあいは低くかまえる必要はあまりない。アバラ投げがあるからである。ただ、手の触れたところをつかみさえすればよい。今度もやはりオリバの肋骨を捕る。だが、もちろんオリバは対策を考えてきたようだ。両腕で宿禰の腕を包み込み、脇ではさんだのである。その拍子に手ははずれてしまった。相撲ではこれを閂というのだろうとオリバがいう。その体勢のままロック、背後に向けて宿禰をぶん投げる。顔が地面に激突してはいるが、ダメージはどうなのか、宿禰は身軽に跳躍して回転、向き直っている。

ビキビキに血管を浮かせてパンプしっぱなしのオリバがそっと右手をさしだす。手四つで力比べをしようというのである。握力でダイヤモンドをつくるちからびとの宿禰である。なめた行動としか思えなかったろう。かなりあたまにきているっぽいが、表面上はおだやかに、これを受ける。体重では倍近いじぶんに力比べを挑む拠り所はそのバカげた筋量か、などといっている。

 

どちらも力ではバキ界屈指といっていいかもしれない。だが、どちらかというとまず宿禰が衝撃を受けているようである。なんか、おもったのとぜんぜんちがう感触みたいだ。オリバは「力士」というわりには非力だと、まだ残っていたらしいちからを加え続ける。手首の傾きにあわせて徐々に宿禰のからだは下がっていき、手首を守るためか、宿禰が逆の手を手首にそえたあたりで、ついに宿禰の目線がオリバの下になってしまうのだった。

 

 

 

つづく。

 

 

 

 

なんか、「こういうのが見たかった」という回だった。最初のアッパーの絵、いいなあ。

 

前回の三角形のくだりを踏まえて、このたたかいは攻めるものが強いのか守るものが強いのかというはなしになるのではないか、ということを先週書いた。オリバはアバラをつかまれた状態でちからをこめたことを「手違い」としていたが、これじたい、オリバ的にはけっこう事件だったわけである。というのは、人間が強くなろうとするにあたって手にする技術、もっといえば「パワー以外のもの」をパワーで塗りつぶすスタイルがオリバのものだったからである。肋骨をつかまれた状態でモストマスキュラーのポーズをとって、背中の張りで宿禰の手を弾き飛ばすことができるなら、このスタイルは貫かれる。けれども、もし指がはずれなかったら、オリバの背中が発したエネルギーはじしんの肋骨に返っていくことになる。けっきょく、それが彼の肋骨を砕いたのだ。この行動が「手違い」だったということは、あの局面ではじぶんの「パワー」だけでは危機を乗り切ることはできなかったということを認めることにほかならなかったのである。

もちろん、そういう意味もここにはこめられているとおもうが、あるふたつの行動の同一の面を比較しようとするときに、条件を考慮しなければ、これは当然おこりうることだともいえる。無双の腕相撲チャンピオンに、それなりに腕力にじしんのあるものが挑むとき、ふつうはノーマルな腕相撲をすることになるとおもうが、「強いんだったら小指でやってよ」というはなしなったら、チャンピオンは受けざるをえないかもしれないが、試合としてはあまり意味のないものになる。背中の張りとしっかり握りこんだ握力でどちらが強いのかというと正直よくわからないが、直観的には、「ふつうに考えて無理」というものではないかとおもわれるわけで、要するに、あのときは「背中の張り対決」をしたわけでも「握力対決」をしたわけでもなかったのである。こういうふうに読みかえれば、「筋肉はすべてを解決する」オリバの哲学は、あるときには成り立たないときもあるが、それは腕相撲チャンピオンが小指で試合をせざるを得ないような状況をも含むものではなくて、暗黙に了解される条件のようなものが、ほんらいは前提としてあるべきなのである。腕相撲チャンピオンが「じぶんはもはや生涯誰にも負けることがないだろう」というときは、当然にノーマルな腕相撲の試合が想定されているし、不慮の事故で半身不随になった将来を含む発言ではないし、弱りきった死の直前の体調は「生涯」には含まれないのである。

 

だが実戦ではむしろ「小指で腕相撲をしなければならない」という状況はあらわれうるし、むしろそうした状況を作り出すのがたたかいの上手いものということになる。じぶんの強いところで相手の弱いところを叩くのがたたかいの基本だからだ。そう考えると「じゃあけっきょく『筋肉はすべてを解決する』は実戦的思想ではないのでは」ということにもなるかもしれないが、それこそが手違いというものだろう。あのときのオリバは、劣勢であったこともあり、ちょっと虚勢を張ってしまったぶぶんがかなりあったのだろう。腕相撲でいえば、相手が冗談ぬきで強そうだという点を見抜いたうえで、自ら小指でやってやると提案してしまうような状況だったのだ。相手の弱いところを見つけだすのが基本なら、じぶんの強いところを押し出すのもまた基本である。みずから小指での腕相撲を申し出る必要は、ほんらいない。それは相手が挑発などで引き出すものだ。これが「手違い」の真意であろうとおもわれる。

こういうことがより鮮明にみえるのは、手四つの展開である。バキでも餓狼伝でも、手四つは「力比べ」の展開に典型的なやりかただが、ここで重要なことは、右手と左手のちがいはあれど、ほぼ完璧に条件を等しくできるということである。相撲でも四つに組むという言い方があるが、考えてみればこのように完全に条件を同じくするたたかいかたというのは、この2種類の「四つに組む」以外に、案外ないのである。

 

アバラ投げはオリバに致命傷を与えたが、見たようにじっさいにはじぶんでじぶんを損なってしまったぶぶんがあった。条件が常識的なものであればやはり「筋肉はすべてを解決する」はずであるということを、オリバは今回示す必要があった。それが「閂」という方法だった。ここにはいくつかの意味が潜んでいるが、ひとつにはそれが相撲にもある技だということが大きい。相撲的な発想でつかみかかられているものなのだから、相撲的な発想で、なおかつじぶんのパワーの文脈でこれを突破しなければならなかった、そこで「閂」なのである。

さらにここには「攻め」の姿勢が見て取れる。しっかり食い込んだ指を、くいこまれた箇所の筋肉で正面から突破しようとしたのが以前のたたかいだった。これは、いま考えたようにあまりにも「手違い」が過ぎたわけだが、同時に、そもそもこれはオリバのスタイルではなかったのである。侵食するものをうけとめ、押し返す、これは守りの、三角形の哲学において行われるものなのだ。では逆三角形のものはこのときどうすればよいかというと、攻める以外ないのである。もちろん、たとえばここでは、宿禰のつかみはぜんぶ無視して、親指を目玉にめりこませるとか、そういうことをしてもいい。だが行動者はオリバである。あくまで「筋肉はすべてを解決する」を実践するしかたで攻めなければならない。そこで、都合よく脇のしたにさしこまれた腕を抱え込むのである。それが食い込んだ指をはずすにあたってどれほど効果的かというと、よくわからない。引き続き宿禰は指をくいこませ続けるかもしれないし、もしそうなったら、オリバは宿禰の腕を抱え込むみずからのパワーをまたじぶんの肋骨に逆流させてしまうことになる。だが、前回と異なり、この条件ではたがいに「肋骨」と「両腕」を相手に預けることになる。宿禰は指をくいこませ続けることはできる。だがそれは、同時に閂のダメージを受け容れることも意味するのだ。

 

このようにして、オリバはみずからの逆三角形のスタイルを改めて点検することで、また「条件」というものを自明とせずみずから獲得するものとすることで、攻めの姿勢を貫くことになった。これがついに呼び込んだのが、今回の手四つでの圧倒である。逆三角形スタイルは、攻め、相手を屈服させるものだ。図像的にも今回オリバの目線が宿禰を超えたのはきわめて逆三角形的なのである。

 

 

 

↓板垣先生の自衛隊漫画!旧作も新作も収録!超おすすめ

 

 

 

 

 

 

 

管理人ほしいものリスト↓

 

https://www.amazon.jp/hz/wishlist/ls/1TR1AJMVHZPJY?ref_=wl_share

 

note(有料記事)↓

https://note.com/tsucchini2

 

お仕事の連絡はこちらまで↓ 

tsucchini3@gmail.com