今週の九条の大罪/第3審 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第3審/弱者の一分②

 

 

 

 

懇意にしている壬生の依頼で、曽我部という男を職質から救った九条。曽我部はじっさいに大麻を運んでおり、荷物を検査されたら危ういところだったが、九条はなんなく曽我部を回収、いったん事務所に隠れることにする。そのときのふるまいで、曽我部が刑務所に入っていたことを九条は見抜いた。曽我部には仕事を指示する強者がおり、彼はこれにひどくおびえている。その電話で、曽我部は荷物をおきっぱなしにして事務所を飛び出してしまう。その姿を見かけた烏丸は、彼を知っていた。以前弁護したことがあるのだ。

 

外に出て会話している弁護士ふたり。九条はスーパーかどこかで買った明太子をそのままいきなり食べている。ちょっとこの感じはわかるなあ・・・。

九条が曽我部の前刑について訊ね、烏丸が応えていく。強盗致傷財で懲役5年の実刑。当時21歳。16歳の少年たちをつかって幾度も恐喝、強盗等を働いたと。だが、もちろん曽我部はそんなタマではない。家に逃げてきた曽我部だが、どうしてかそこには前回出てきたアゴのない男もいる。もうひとり連れもいるようだ。アゴのない男は、金本卓という。職質されたうえにマリファナを弁護士事務所に置いてきたという曽我部に金本は激怒している。まあ、九条は壬生の息がかかっているから、そこからチクられたりとかはないはずなわけだが、イジめたいからイジめるのだろう。金本は曽我部の首をつかんで親指で絞めていく。このとき金本は前回もいっていた「ボクテン入れ墨の刑」といっているのだが、これはほんと、どういう意味なのかな。

曽我部はやがて泡をふいて気絶してしまう。これを放り、金本と連れの男が会話をはじめる。運び屋の仕事はウーバーイーツと同じ金額でやらされてるらしい。どうしてそんな仕事を請けるのか? まず、金本の親はヤクザである。そして、実家が近く、曽我部の親も金本の親に恐喝されていた。いまの息子ふたりの関係に近いようである。曽我部の父親はルールもよくわかっていない「おいちょかぶ」に参加して金を巻き上げられていたと。それは、無理矢理参加させられているからである。金が払えなかったとき、強い酒を一気飲みさせられて、うんこをもらしてぶっ倒れたことがあるそうだ。どれも明らかに金本の親がムリに、あるいはそうではなくても、拒否できない関係性を経由することでさせていることだが、金本がどれも曽我部の親が自主的にやったかのような言い方をしていることは興味深い。

曽我部の顔を踏んづけながら、金本は続ける。気がおさまらない金本の父親は、爪楊枝で曽我部の父親の額に刺青を描きはじめたと。そんなふうにできるものなのかと驚いたが、なにかの拍子にボールペンの先端が手の甲とかに深く接触したときに、しばらくほくろみたいになって色が落ちないことがあるが、そういう原理なのだろう。だが、素人仕事でそんな上手くできるわけもないのである。深さもふぞろいで、医者も消しにくいのだそうだ。そして、前回見えた曽我部の腕の落書きも、そうやってつけたものだった。だが、つけたのは金本じしんである。どうも、この現場には金本も曽我部もいたようだ。金本の父親がじぶんの父親にそんなことをはじめたので、曽我部は勇敢にも止めに入ったようである。そこで、今度は息子のほうの金本がキレて、うんこ人間の刺青をいれたのだ。金本は、「コイツ等親子は一生うんこを背負って生きてくんだなぁってしみじみ思ったわ」と、また他人事のようにいう。じぶんの行いがなにか実現するのでなく、もともと潜在していて見えないものを可視化したという感覚のようである。

このはなしを思い出して、金本が爆笑する。連れの金髪の男も無責任に曽我部をイジめる側だが、さすがにこのはなしには引いてしまった。が、これを金本は見逃さない。張り手でぶっ飛ばし、俺を否定するなというのである。

 

 

烏丸の解説が続く。曽我部聡太は、見た目にはわからないが軽度の知的障害者だという。「知的障害者」はラベルに過ぎないが、げんにそうした“弱さ”のようなものがあることを、不良は見逃さない。曽我部が実刑をくらった事件の首謀者は、その16歳の少年たち、つまり金本だったのである。ということは、金本は曽我部より5つも年下ということになるか。もし出てきたばかりなら、曽我部は26歳、金本は21歳ということだ。

少年たちは写真では5人見えるが、金本がリーダーのようだ。元ヤクザの息子で力士を目指していたという。彼らは、おそらくじぶんたちがやった恐喝などの犯罪を曽我部のせいにして、曽我部はなんの抵抗もせず、捕まったというわけだ。

刑務所に入ったら入ったで、金本から離れたはずが、そこでも壮絶なイジメを受けることになる。汚物を食べさせられ、見えないところを鉛筆で刺され、性処理をさせられた。刑務官は助けてくれない。あまりにイジメが酷くなりすぎて、曽我部は懲罰房に移され、ひとりになったが、いじめがフラッシュバックしてきて薬漬けになった。こんなむちゃくちゃなはなしがあるかってくらいひどいはなしである。

 

九条は、金本のことを知っているのだろうか。前回描写では壬生が電話していただけだったが、九条は壬生の後輩の金本から依頼というふうに理解しているようである。まあ、どこかから報酬を受け取らなければならないから、その過程で名前を知っていただけかもしれないが。曽我部が事務所に忘れていったお菓子の箱は開けていないようだが、薬物が入っていることを九条は見抜いている。曽我部は、金本のせいでなんの罪もないまま5年も刑務所に入っていたのに、またいいように利用されている。最初に捕まるのは運び屋なのだから。

 

 

金本は曽我部の部屋が嫌な臭いがするという。事故物件だというはなしだが、そんな臭いがいつまでも残っているものだろうか。だが、彼は「悪くない」という。そして、目を覚ました曽我部に対し、今度は後輩の態度で謝りはじめる。曽我部はじぶんのヘマが原因だからしかたないといい、それどころか弁護士を呼んでくれてありがとうとまでいってしまうのだった。

肉に埋もれたひだのなか、優しげな表情で金本が、「男と見込んで」曽我部に頼み事をする。曽我部の部屋をマリファナとコカインを小分けにする作業部屋として貸してほしいというのだった。

 

 

 

つづく。

 

 

 

金本の感じからしていじめの関係性だろうなとはおもったが、予想をはるかに超えて胸糞悪い展開だった。

 

今回のポイントは、金本の他責的な言い回しと、父親である。

金本は曽我部を陥れるものだが、その動機が、じしんの嗜虐癖を満たすということと、犯罪のために利用するということの、2通り考えられる。というか、どうも同居しているようである。反抗する頭脳も腕力も背景も度胸もない弱者の曽我部は、金本のような人間にとっては与し易い、道具のような存在である。ほとんど無理に運び屋のようなことをやらされ、それ以前には刑務所にまで入っているのに、失敗をじしんのものとして処理してしまうような人間なのだ。だが、金本の異様な暴力衝動みたいなものからは、たんにそうしていじめることで満足を得ている、というような感じも見て取れる。そして、この問題が非常に解決が難しく、曽我部には打破の難しい、膠着したものとなっているのは、曽我部じしんが、その弱さゆえに、いじめに加担してしまっているということである。いじめによって、いじめに加担することを余儀なくされているのである。

これは、よく批判される「いじめられる側にも原因がある」というようなはなしではない。金本のはなしはこびによるものである。そもそも、運び屋の危険な仕事は、金本がやらせていることであって、やらせてくださいと曽我部が頼んだものではない。だが、曽我部には「やりたくない」とはいえない。金本も困ってるだろうし・・・というような正当化の理由を、彼はきっと探し出す。結果として、曽我部はまるでみずからすすんでこの仕事をやっているかのような状況になる。このことが、金本の激怒を成立させもする。すすんでやっていることを失敗したら、他人の怒られてもしかたがないということだ。そしてそれがまた曽我部を縮み上がらせ、金本の行為を肩代わりするかのような曽我部の言動を誘発するのだ。まさしく九条のいう負の連鎖である。曽我部は、ほんとうはそうしたくないのに、金本への恐怖から、金本へ同一化することを自ら選んでしまい、みずからの不届きこそが原因だとすすんで認めてしまうのである。調べてみたら、これを「攻撃者への同一化」という。テロリストとかに誘拐された被害者が、犯人に感情移入してしまう「ストックホルム症候群」にも近いものがある。調べてみたら、これは一種の生存戦略ということのようだ。金本の暴力は恐怖だが、曽我部がもし「その先」を想像するようなことがあるとすれば、それはストックホルム症候群ということになるかもしれない。つまり、「殺される」というレベルの恐怖を経験していれば、そうされないために、現状の「いじめ」の関係性をみずからすすんで保持しようとするのである。今回なんかはじっさいに絞め落とされているわけだから、そういうことでも不思議はないが、事態はもう少し複雑にも感じられる。つまり、みずからが虐げられる状況に、ある種の合理性を見出してしまうのだ。じぶんはこのようになにをやらせてもダメな人間なのだから、こうやっていじめられてもしかたがない、というふうに考えることで、彼がなにを得るのかというと、金本の動機への理解である。むろん、そこで思い描かれる金本の像は、ほんもののアゴがない姿とは似ても似つかないだろう。だが、正体不明の恐ろしいものがわけもなく攻撃してくる現状を説明することはできるようになる。攻撃が襲いかかってくるたびにびっくりはするかもしれないが、それを後付けで説明することが可能になるのだ。

これが、金本に見られるあの他責的な言い回しを呼び込む。金本ももちろん、曽我部がそういう男で、利用しやすいからしているという「したたかな半グレ」の意識でいるのだろうが、この曽我部の同一化に同意することで行いを正当化しているぶぶんがあるのだ。なぜ金本は曽我部をいじめるのか、それはまずアウトローとして「利用しやすい」ということがあるわけだが、加えてこれを積極的に持続させるのは、曽我部が生存戦略的にやむをえずとった態度なのである。だから、金本にとって曽我部はいつも勝手に殴られてるし、勝手に仕事をしてくれるのである。爪楊枝で刺青というきわめて能動的な行為に対しても、金本はまるで、ミケランジェロが彫刻に関して言ったようなつもりで、本来そこにあるべき姿が浮かび上がってきた、くらいの感覚でいるのである。となれば彼は、虐げられる曽我部の姿を、客観的にはおそらく「あるべき状況」と考えているにちがいないのである。だから、悪意もない。爆笑もする。金本にとって曽我部は、虐げられるべき人間、虐げられることで完成する人間にちがいないのだ。

 

曽我部は軽度の知的障害者ということだが、彼が金本に完全に屈服し、自己欺瞞ののちに同一化をするようになった原因のひとつには、やはり金本が語った父親の件は無視できないだろう。大便をもらしてぶっ倒れる以前から、曽我部の父親もまた弱者だった。ふたりの父親の関係は、おそらくはいまの息子ふたりの関係とよく似たものだったにちがいない。通常、偉大なもの、絶対的なもの、聖なる天蓋などと形容される父性が、曽我部の経験のうちにはなかった。ないばかりではない、徹底的に無価値なものとして踏みにじられたのである。曽我部では、じぶんの行動にあてがうものさしとしての超自我も成り立たないし、現実的に、最後にすがるような逃げ道、避難所も残されていない。ここで逃げ道というときには、じっさいに問題が発生したときに父親がなにをできるかということはあまり関係がない。心理的な余裕の問題なのだ。こうした事情が、彼に金本への同一化をさせている可能性も高い。つまり彼は、金本から逃れるために、金本にすがる以外の道を断たれているのだ。

 

あまりに曽我部がかわいそうで、ちょっとカッとなってしまったが、果たして本作はこれにどういう結末をもたらすのだろう。金本は痛い目をみるのだろうか。それとも、徹底的に曽我部は損なわれていくのだろうか。初期ウシジマくんなら後者だし、後期なら前者を経て再生の道が示されるだろう。九条の様子をみると、第1話であんなことを言いつつも、曽我部のあまりにむごい人生になにかを感じているようではあるが、弁護士としてはどうだろう。そもそも、どうやって彼に関与していくのか。「法」は、なにをどう解釈するのか。事実としてあらわれる以前の空気のような人間関係は、明文化することも難しいだろう。しかしいきなりものすごいはなしが始まったものだよな・・・。

 

 

 

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