第1審/片足の値段
闇金ウシジマくんで一世を風靡した真鍋先生の新連載だ!
『スマグラー』などは講談社だったし、このあいだまでやっていた『ピックアップ』も月刊ヤングマガジンだったから、ひとくくりにできるものではないが、やはりウシジマくんをやっていたスピリッツがホームという感覚は否定できない。すごい久々にスピリッツ買ったよ・・・。土竜の唄が相変わらずで泣けてくる。最後に見たときもなんか船の上で、轟を追跡しながらパピヨンが活躍していたような気がするが、あれからまだ地続きなのかな。田中は今回載ってないけど、ちゃんと連載してるぞ。
『九条の大罪』も、いままでどおり内容を追う感じで書いていくけど、ほんとにおもしろかったので、まずはみなさん、スピリッツを購入して、ごじぶんの目で確認したのちに以下の記述を読むことをおすすめします。
(弁護士とは権力から人権を守るもの。
人に尽くすのが弁護士の使命。
だが・・・
いい弁護士は性格が悪い)
権力、人権、使命という具合に翻訳語風の硬い熟語が続いたあとにくるこの「性格が悪い」という語のチョイスがたまらん。「モラルがない」とかではない、性格が悪いのだ!
今回のおはなしは森田という男のひき逃げからはじまる。逃走した森田は、職場の人間と合流、ひとを轢いてしまったという。飲酒運転だったようである。ふたりは知人の自動車整備会社社長の壬生憲護というアウトロー風の男のところにやってくる。週末彼女とドライブの予定が事故っちゃったから直してほしいということのようだ。どうしていいかわからず、たよりになる先輩のところにきたようなことかとおもったが、ふつうに修理を頼みにきたらしい。ぜんぜん轢いた人間のことを考えていない。
壬生はへこみ具合だけで状況を洞察する。死亡事故の検挙率は95パーセントを超えているという。絶対つかまる。現場から採取された塗装で色はもちろん年代や車種までわかってしまうのだ。さらに防犯カメラだ。事故そのものをうつしていなくても、近くのコンビニとかの監視カメラを見るだけで、どの方向に逃げたとか、すぐわかってしまう。途方に暮れる森田に、壬生は弁護士を紹介するというのである。それが、九条間人(くじょう たいざ)である。「間人」で「たいざ」と読むの?とたまげたが、京都にはそういう地名があるそうである。ウィキペディアによれば、聖徳太子の聖母・間人(はしうど)皇后がこの地に送った名前だそうだが、住民はそのまま「はしうど」と呼ぶことを畏れ多く感じ、皇后が退座したことにちなみ「たいざ」と読み換えたということだ。九条といえば、憲法以外にも公家の名前や京都の通りの名前としても使われる。いずれにせよ、そのあたりになんらかのつながりが隠されていそうである。
ごちゃごちゃ汚い弁護士事務所に壬生と森田がやってくる。九条はヒゲを生やした教務にはあまり関心がない美術教師みたいな見た目の男だが、不潔な感じはない。事務所のなかには他にも清潔感のかたまりみたいな烏丸真司という、イソベン(事務所に雇われている居候弁護士)が座っている。
森田は九条に対しても微妙に嘘をつこうとするが、九条は正直に話せという。そうでないと戦略が立たないからだ。壬生もそうしろと頷く。飲酒運転だけではなかった、森田はスマホゲームをしながら運転していたのだ。烏丸が「いつも2時間くらいしか寝てません」みたいな顔で「中々のクズだな」とあっさり言ってのける。警察が調べたら、事故の時間にゲームをしていたことはわかってしまう。ゲームのことは話題にしないほうがいいと烏丸はいう。これは、いびきをするひとが夜つけて鼻腔を広げるやつだろうか、九条は鼻の表面に横に伸ばしたHのような形のパッチをつけているが、ひどいアレルギーがあるようである。
飲酒、脇見運転、スピード違反でもし相手が死んでいたら危険運転致死で求刑10年。過失運転致死なら執行猶予、ということになる。つまり、森田的には過失運転致死にしたい、ということだ。これは、要するに過失の程度の問題のようである。
森田は、相手が生きててくれないかなと、自己中心的にいうが、九条は死んでいたほうがいいと思いがけないことをいう。それだけ被害者の供述というのは強力なのだ。スマホは九条が回収してなくしたことにする。飲み屋のレシートもぜんぶ捨てる。アルコールを抜いたら九条とともに出頭だ。戦略としては、出頭はするけど、具体的なことはなにもいわない、ということになる。自首しておいて黙秘はおかしいので、なにかにぶつかったことは認めるが、その他の情報についてはよくわからないを通すのである。森田が事情聴取ですることはひとつだけ、「余計なことは何も喋らない」だ。
そこへ別の依頼人、郷田というヤクザから電話がかかってきて、九条の日常業務がどんなものか見える感じになっている。組長が脅迫で連れて行かれて2週間になるがどうなってるのかと。検察官が捜査のために被疑者を勾留できるのは最大20日。九条の見立てではこの件はただの嫌がらせなので、20日を過ぎれば「パイ(釈放)」になるということだ。郷田さんは逆に警察を訴えられないかと怒りだすが、郷田さんはシャブの後遺症で気持ちの上げ下げ激しいからしかたない・・・。これは、あれなのかな、アウトロー界のコピペなの?
署に用があるという烏丸も乗せて、九条と森田がスバルに乗って出発。途中で目に入った「日本一のたこ焼き」という看板をめぐっておもしろいやりとりがある。烏丸は、何をもって日本一としているのか、定義がはっきりしていないときもちわるいと、いかにも法律家っぽい反応だ。九条は、そういっている以上、味がついてこないと淘汰されてしまうから、その結果がいずれ定義になると。定義(言葉)からはじまるのか、言葉をあとから事物に付与するのか、おもしろい相違だ。余裕で雑談をかますふたりに森田は心配になるが、最終的にはじぶんで決めなければならない。森田はしっかり九条にお願いをするのだった。
事情聴取では森田はうまくやったようだ。被害者は35歳の父親と5歳の息子。欝で仕事を休んでいた父親が送り迎えをしていたようだ。父親は死亡。だが、決定的に気になる点があった。森田のドライブレコーダーにうつっていたのは、轢かれる前から倒れている自転車だった。出血もあまりなく、轢かれる前にすでに死んでいた可能性が高いのである。死体は物ということで、過失致死にならない。調査の結果、どうも父親は心臓に疾患があったらしいということがわかった。アル中気味で現場にも酒の缶が転がっていたという。アルコールと心臓の薬の併用で事故の前から倒れていた、もしくは死んでいた可能性が高いと。
5歳の息子の命は助かった。しかし、左足切断。あまりにもひどい事件だが、母親が病院で絶叫するいっぽう、森田は留置所でふがふがいいながら寝ているのである。
判決は禁錮1年8ヶ月、執行猶予3年ということになった。3年間、実生活でどのような罪も犯さなければ、森田は自由の身である。
解放された森田はのんきに焼肉の話とか、たまったLINEの話とかをしている。彼の脳裡には、ほんの一瞬も、死んだ男のことや、足を失った少年のことは浮ばなかったのだろう。
父親の遺影を抱える車椅子の息子と母親。母親の表情はすさまじい。母親は弁護士、つまり専門家をつけなかったせいで、保険会社にいいように言いくるめられたようである。なんだかよくわからないが、ちゃんとやっていれば7500万くらいはとれたところ、1000万で呑んでしまったのだ。もし今回九条が被害者側についていれば、報酬10パーセントで700万。烏丸にいわせれば割を食っているのだ。
ネットでも今回の事件は大荒れだ。世間では九条はすっかり悪徳弁護士である。検察は世論を煽って控訴審で危険運転致死にするつもりのようだ。
ネットでのひどい言われようを受けて、九条はいう。
「思想信条がないのが弁護士だ。
私は法律と道徳は分けて考えている。
道徳上許しがたいことでも
依頼者を擁護するのが弁護士の使命だ」
つづく。
弁護士が、つまり法律がテーマになると知って、やはり考えられるのはこういう感じのストーリーかな・・・などと思い描きはしたが、なんというか、ウシジマくんのあの綿密な作りこみと粘着的な細部描写のことを忘れていたような気がする。予想をはるかに上回るおもしろさだった。道徳とはべつのところで法律を駆使して、むなくそわるい連中を救う弁護士を描こうと、決心することはできるんだけど、こうして新しい漫画の地平がばっと開けたような感覚は久しぶりである。こういうのもあれだけど、「社会」を描こうとしたとき、『闇金ウシジマくん』って、もうなんでも描けたわけですよね。格闘を描こうとしたときのバキのように、どんな人物も、出来事も、盛り込むことができる世界だった。だとすると、ウシジマくんのあとにくる作品は「社会」を描くものではない可能性もあるのではないか、みたいにも考えていたのだ。いや考えていた時期が俺にもありました。
どうしてそういうことが可能になったのかというと、その世界の最小単位はなんなのか、というはなしになる。闇金ウシジマくんでそれは「お金」だった。それは、主人公の丑嶋社長がそう決意した、そうすることがアウトローの世界で成り上がる最良の方法だと考えたということでもあるが、ここでは物語が展開するうえでどのようにそれが働いていたか、というはなしにしぼることにする。お金は、欲望と交換される。というか、厳密にいえば、誰かの欲望が達成されるためにお金を経由する必要があるということになるが、ウシジマくんには貨幣そのものに価値が宿っているかのような感覚が強く流れていた。たとえば食欲は、お昼ごはんを求めさせるが、それを手に入れるにあたっては、お金を経由する必要があるわけである。欲望が、いったんお金を最少単位とする世界に翻訳されるのだ。ところが、ウシジマくんにおいては、お金がゴールであるかのような手つきが強く想起されるのである。お金に関するスタンスは人物ごとに異なっており、たとえばそれは、自己顕示であり、選択肢であり、明日を生きるための、死を回避するためのものでもあった。いずれにしてもお金は本来中継地点でしかない。この独特の、欲望がプールされた空間、そこを描いたのが闇金ウシジマくんなのである。丑嶋社長はその世界を支配していた。まさしく、お金の運動そのものを扱う金融という仕事を通してだ。結果として彼はひとの欲望を支配することになった。それが、彼が金融業に価値を見出したポイントである。欲望によって駆動される人物によって構成された世界は、お金で勘定することが可能である。これが丑嶋の全能性につながっていた、というはなしはウシジマくん感想で50回くらいはしているので、いまはしない。
そうしたわけで、お金を最小単位とする世界で、欲望の世界は完全に描くことが可能になった。これをもってして「社会」がすべて描かれたと考えるのも、たんにぼくがあさはかということなのだが、冷静に考えてみれば、世の中には丑嶋社長と交わらない人生のもののほうが多いのであった。竹本優希みたいな、欲望からかけはなれたところにいる特殊な人物を持ち出さなくても、それは自明である。そして、世の中が欲望だけで動いているのかというと、一概にそうともいえないのである。それはなんなのか?この流れでいえば、『九条の大罪』での、物語の最小単位は「法律」ということになるだろう。「ウシジマくん」は、お金≒欲望によって世界を解釈しなおすことで、ある種の異空間が生じたわけである。そして、好むと好まざるとにかかわらず、文明社会に暮らすものは、生活をし、お金を財布からとりだすときに、わずかにこの空間を通過する。今度の物語はその異空間が法律の文章や解釈、判例、弁護士の「性格」や依頼人の法意識によって構成、もしくは縁取りされているということなのである。法律は、改正や判例などを通じて、日々成長している。それは世界の変容に比例するものだ。げんに存在しているこの世界の凹凸や濃淡のうえにかぶせて均質にならしたやわらかな粘土のように、変容しつつ、それを個人の主観を超えたものとしてとらえることを可能とさせるのである。その、世界に覆いかぶさっている無機質の薄い明文化された空間、それが法空間であり、『九条の大罪』はおそらくウシジマくんにとっての「お金の空間」のように、法律を通じて世界を再解釈するのである。では、だとすると法律は、なにの媒体になるのだろうか。それは「比較不能な価値の迷路」(長谷部恭男)である。森田は、罪もない父親を殺し、息子の足を奪い、父親のいない家庭を作り出した。これをどう扱うのか、というところで、個人の価値観は持ち込まれるべきではないのである。そうした、事物を無機質な「言葉」に組み替えてしまうのが、法空間の異質の空気であるとおもわれる。
また、ここには「人の支配ではない」ということも含意されるものとおもわれる。このあたり、長谷部恭男の本や、新しく法学の本など読んで勉強しなければならないが、ともあれ、九条はそうして世界を法空間を通じて読みかえることを意図的に行っている。印象的なのは「法律と道徳は分けて考えている」というところだ。これは、どう考えても見つかるはずがない状況なので確認しないが、『闇金ウシジマくん』1巻、第1話における社長の、「奪う方を選ぶ」というあのセリフに対応するものだ。位置的にもまちがいない。そして重要なことは、彼が「分けて」いるということだ。つまり、道徳心は、九条にもあるのである。じっさい、被害者のことを一顧だにしない森田や母子を見る表情には、人間らしさが見られる。しかしそれとこれとははなしが別なのである。これからそのあたりは詰めていかなればならないが、九条は道徳心は法空間を歪ませると考えているのだ。
九条だけではなく、烏丸や壬生など、いきなり魅力的なキャラがぼこぼこできてきて鼻息もあらくなるが、今度の人物の名前はどういうルールでつくられていくのだろう。九条からは見たように京都が感じられる。調べたら、烏丸も京都にある通りの名前であり、平安京の小路のひとつということだ。そして平安京には九条大通というものが存在する。壬生大通もあるようだ。また、平安京の美福門という門は、壬生氏が監督して作ったことが名称の由来になっているそうだ。これは朱雀門の東側にあり、壬生の喉には鷹かなにかと蛇が戦っている入れ墨があるが、東は青龍であるから、そうしたものの表象であるのかもしれない。名前の由来は平安京ということでどうもまちがいなさそう。ということは、逆にいえば、平安京由来のキャラはレギュラーとみてもいいのかな。壬生はハブサンみたいでかっこいいから出てきてもらいたい。
そういうわけで、法学と平安京に取り組むことが決まったわけだが、おそらく読んでいるかたも、ぼくのテンションのあがりかたを不気味に感じておられることだろう。ほんとう、こんなに気分が変わるものとはおもいもしなかった。ひょっとして最近ツイッター愚痴ばかりだったのは真鍋先生不足だっただけなのでは・・・。
そういうわけですから、今後ともよろしくです。
掲示板をつくりました!予想、感想などご自由にどうぞ。
https://9200.teacup.com/suppinkujo/bbs
管理人ほしいものリスト↓
https://www.amazon.jp/hz/wishlist/ls/1TR1AJMVHZPJY?ref_=wl_share
note(有料記事)↓
連絡は以下まで↓ 書きもののお仕事お待ちしてます
↓寄稿しています






