すっぴんマスターおすすめ本④-2 その他いろいろ | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

前のつづきです

 

⑪『私とは何か』平野啓一郎 講談社現代新書

 

 

小説家・平野啓一郎が作品を通して提唱してきた「分人主義」についての、散文による探究だ。「分人」とは、individualの訳語である「個人」の反対概念として立てられたものである。ひとことでわかりやすくいえば、「私」というものにコアを想定しない、もっといえば、よくいう「素のわたし」というようなものは存在しない、それぞれの関係性においてあらわれる表情すべてが分節された私の「分人」であり、それは、コア、「素のわたし」に仮面をかぶせている、というようなものではなく、そのどれもがほんとうのわたしなのではないか、というおはなしだ。「素のわたし」に仮面をつけている、という図像が現代社会人にストレスを呼び込んでいるということはじっさいあるだろう。嘘をついて生きていると。でも、そうではないんじゃないか、ということだ。

 

 

 

 

 

⑫『本の読み方』平野啓一郎 PHP新書

 

 

同じく平野啓一郎の新書で、原則的に速読、速くたくさん読むことが「善」とされる状況で、スローリーディングを提唱した、ぼくにとっては非常に勇気づけられる一冊だった。速くたくさん読むことが必要なときも人生にはあるけど、深くしっかり読もうとしたら、スローリーディング以外ありえない。平野啓一郎は本書で、その結果としてどういう読解が可能か、ということを実例つきで示している。『小説の読み方』という続編もあります。

 

 

 

 

 

⑬『たばこ喫みの弁明』本島進 ちくま文庫

 

 

これはまあ、個人的なおもいもあるが、公平にみてもおもしろい本だったとおもう。けっこう古い本なので、いまは愛煙・嫌煙ともに見解が更新されている可能性もあるが、「たばこはからだに悪い」というのは、ひとりの喫煙者としては「まあそりゃよくはないよな」ということで納得するものではあるが、科学的には疫学といって統計学的方法で示されているだけなのだ、というのが基本的主張である。しかるにここまで一方的に攻め立てられるのはどうした事情かと。マナー違反が問題なのはもちろんそうなのだが、それは嫌煙運動とはちょっと方向性がちがうだろう。こんな本もあるよと、知っていただけたらうれしい。

 

 

 

 

⑭『「空気」の研究』山本七平 文春文庫

⑮『一下級将校の見た帝国陸軍』山本七平 文春文庫

 

 

学者でもないのにものすごく博識で、つねに鋭い見解を示されているひとって、いまもいますよね。極東ブログのかたとか、物語三昧のかたとか。山本七平にもどこかそういう「市井のインテリ」みたいなところがある。ある、といっても、それが極まったものということになるだろうが。『「空気」の研究』は非常に有名なので読んだことのあるひとのほうが多いだろうが、下の本も、⑨の流れで読んだのかな、とても勉強になった。

 

 

 

 

 

 

⑯『ある明治人の記録』石光真人編 中公新書

 

 

のちに軍事参議監にまでのぼりつめた会津人・柴五郎が、激動の半生を語ったものだ。311のときに、なぜ東北地方には原発が多いのか?という、素朴な疑問に対して内田樹が示した1冊である。要するに戊辰戦争の敗北がはじまりなのだ。⑨の流れでいえば、歴史は勝者が描くものだとしたとき、しかしそれでも生きなければならない敗者はどうなるのか、という問題が、当然出てくるのである。

 

 

 

 

 

⑰『猫だましい』河合隼雄 新潮文庫

 

 

一時期このかたにはまっていた時期があって、そのころどこかでやっていた猫本フェアみたいので見つけたんじゃなかったかな。ユング派の心理療法士・河合先生。前の記事でも参照したけど、人間を「心」と「体」にわけて考えることはできるが、「心」と「体」を合わせても人間にはならない、というラインは本書からのもの。そのとき失われているものを、ここでは「たましい」と呼んでいる。だから、それは指差して存在をいうことはできない。なくならないと、そこにあったことが判明しない。猫がそういう「たましい」のあらわれとして文学作品などに登場していることを示した、一種の批評である。

 

 

 

 

 

⑱『ノラや』内田百閒 ちくま文庫

 

 

猫本関係では本書を欠くことはできない。これは、とても読むのがつらい本なので、おすすめというとなにかちがうが・・・。漱石の弟子だった百閒は、知っているひとは知っている文豪である。そして猫好きでもあったようだ。日記形式なので、でれでれしている様子が描かれているわけではなく、奥さんもいっていることだが、ほんとうにこのひとは猫が好きなのかな、とおもえるくらい。時代もあるだろう。性の枠組みはいまよりはるかに強固だったにちがいないから。で、百閒先生の家には、隣の家からやってきたノラという野良猫が、住み着くでもないが、とにかくいた。それが、あるときから急にこなくなってしまう。思い出してもつらくなる。百閒先生は、ありとあらゆる方法を駆使してノラを探すが、見つからない。恥も外聞もなく取り乱す百閒先生。もともとからだが弱いのに、ほとんど寝ない日々が続き、泣きすぎて視力も落ちてしまう。なにかを愛するということがどういうことなのかがよくわかる、とても痛々しい本だ。

 

 

 

 

⑲『アートにとって価値とは何か』三潴末雄 幻冬舎

 

 

会田誠や山口晃などを輩出したミヅマアートギャラリーの三潴氏による、それまでの苦闘の記録。であると同時に、現代アートに対して批評、といって意味が狭ければ、鑑賞しつつそれにコミットする非アーティストができることはなんなのか、ということが追究されてもいる。多少の図版もあって、ぼくは本書を通じていろんな作家を知ることもできた。

 

 

 

 

 

⑳『自然界における左と右』マーティン・ガードナー 紀伊国屋書店

 

 

もうまったく内容については覚えていないが、小学生のころにむさぼるように読んでいた、網羅的な科学読物。科学はやっぱり日々更新されていくものだから、古いものを読んでも、ひょっとしたらしかたないのかもしれないが・・・。でもなにもかも小学生のころには想像もしたことのないような着想ばかりで、スリリングだった。

 

 

 

 

21『選択と誘導の認知科学』山田歩 新曜社

 

 

気づかなかったけど、ぼくってけっこう新曜社の本読んでるんだな・・・。

これはほんの少し前に読んだ本だから、読者のかたも記憶されているかもしれない。認知科学の、とりわけ「選択」にかんする考察。これまた考えたこともないような着想ばかりで、目からうろこだった。

 

 

 

 

22『企業不祥事を防ぐ』國廣正 日本経済新聞出版社

 

 

ぼくが紹介するにはビジネス書の経験が少なすぎるが、せっかくなのでもっと雑多にしていきたい。じっさい、ぼくは本書で多くのことを学んだ。タイトルが示すほど実用面を意識したつくりではない。ビジネスパーソン必須のコンプライアンスの知識が、ごく初歩的なところから親切にしめされており、あたまでしっかり考えていくことをとにかく良しとする姿勢が頼もしい。ぼくはこれを「おもしろい読み物」としておすすめします。

 

 

 

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23『どくろ杯』金子光晴 中公文庫

 

 

これでおしまいにしよう。金子光晴はお気に入りの詩人で、常に一冊はお守りのようにカバンに入れていた時期があった(いまはカバンが重くなってしまったので入れてない)。どくろ杯は随筆か紀行文ということになるのだろうが、このひとの場合はそういうことはあまり重要ではない。最高品質といっていい日本語で、混乱したあたまが整頓されるようなへんな心地よさがある。あとあの固有名詞の使い方ね・・・。日本語の質を高めたい、みたいな、俗でもなんでもいいけど、そういう欲求がもしあったら、ぼくは金子光晴を推します。

 

 

 

 

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