第476話/ウシジマくん62
シシックを吸収した滑皮が気に入らない竹腹は、知り合いの豹堂に泣きついた。豹堂は豹堂で滑皮をつぶしたいから、ちょうどよいタイミングだった。彼は、部下の巳池に、戌亥情報で滑皮の銃を奪わせて、それを竹腹にわたし、まず梶尾を殺させたのである。
竹腹はすでに処分されたが、いま問題になっているのはそのときの音声データである。中国に帰ったというなにものか2名とともに、竹腹は梶尾を拷問して、鹿島殺しの犯人が滑皮であるということを録音していたのだ。これを、巳池が匿名で鳩山の携帯に送ったのである。だいたい、巳池が竹腹に銃をわたして、これで梶尾をやれ、などと命令するのだとしても、そこから拷問に移行して、たぶん竹腹は名前も知らないであろう鹿島殺しの追及がはじまるというのは、ちょっとへんだ。このあたりはおいおい明らかになっていくだろう。
梶尾をしのんで、たぶん例のワンタンメンをひとりで食べている滑皮のところに、鳶田から連絡がある。鳩山が呼んでいるからむかえにいくと。鳩山の用事は、もちろん音声データである。以下あとで大事になるかもしれないから、録音されていた言葉をそのまま引用する。
『鹿島幹事長の失踪は、
理事長職を降ろされそうになった 当時の熊倉理事長が・・・
滑皮のオヤジに命じて殺させました。
死体の片付けは俺も手伝わされました』
なにか、いまそういう状況であることもあるが、鳩山くらい立場のちがう人間に向けて観念して告白しているような口調だ。
だが、なにはともあれ声は梶尾でまちがいないようだ。鳩山もそう確信しており、あとで滑皮もそういっている。滑皮は、誰がこんなもの送ってきたのかときくが、そんなことはどうでもいい。鳩山にとって重要なことは、彼が鹿島を殺したのかどうかである。
ほんとうのところは、滑皮の本音が明かされないのでまだわからないが、とりあえずこの場では否定する以外ない。鳩山は、じぶんの跡継ぎに滑皮を考えていた、と明かす。だが内輪で殺しをするようなものに任せるわけにはいかない。もし鹿島殺しがほんとうなら生かしておかないと宣言するのだった。滑皮は、表情からはほとんどなにもわからない。なんか、ちょっと丑嶋みたいな表情だ。
その後、滑皮と鳶田の会話が描かれるが、それを見てもはっきりしたことはわからない。滑皮は、まさか梶尾に売られるとはおもわなかったという。じっさいに彼が鹿島を殺していて、それを梶尾がいったとも、事実無根なのに梶尾がそんなことをいって結果売ることになったのだとも、どちらともとれる。鳶田は、梶尾の声だったのかと確認するが、これもあたりさわりのない質問だ。滑皮はなにか引っかかっているようである。
部屋にもどった滑皮のところに戌亥から電話がかかってくる。やたらビビっていてあやしいから調べろと指示した竹腹について、飛び降り自殺したとの報告だ。戌亥は竹腹の両親にあたったようだ。そこで警察からいわれたことを聞き取った。公式の理解では、不法侵入したビルの屋上から飛び降りた、という目撃情報があったようである。そして体内から薬物反応があったと。竹腹が突き落とされたのは屋上ではなかった。調べたら高さもわかりそうなものだが、もし最上階近くだったりしたら、判断もつかないのかもしれない。証言したのはたぶんあの吉原だろう。
滑皮は一拍あけてから、ビルを調べてくれというが、戌亥はすでに調査を終えている。巳池の関係者、じっさいには嫁がやっているネイルサロンが入っているビルだと。
それを受けて、ということだろうか、巳池のところに殴りこみに行く、なんてことはありそうもないが、危険が迫っていることはまちがいない。滑皮は鳶田に、例の港の武器庫から道具を三つと弾をもってこいという。道具って、銃のことかな。としたら、もしかしてあのチューボウにもたせるつもりなのか?
千葉県にあるとおもうのでけっこう時間かかるとおもうのだけど、すぐにやってきた鳶田が、武器がなくなっていることを知らせる。即座に滑皮は事態を理解したようだ。じぶんの銃で梶尾は殺されたのだと。
なんか久しぶりな感じのする丑嶋だ。なんでかよくわからないが、ホテル暮らしをしているらしい。シシックの報復を警戒して隠れているのかもしれない。バリカンで髪の毛の長さを整えている。そこに、何の用か、滑皮と鳶田がやってくるのだった。
つづく。
丑嶋も滑皮も、大事なことをなんにもしゃべらないので、最終章はなんだかサスペンス的な雰囲気がけっこうあるな。ヤクザくんから伏線も回収されつつある。潜舵のヒゲが出たり引っ込んだり、細かいところフワッとしているというか、そういう作風なので、あんまり注目しないでいたようなところが、ふつうに仕掛けだったということが最近よくあるのだ。例の死体6人の件とか。鹿島も、そもそもここまで重要な要素になってくるとはちょっとおもってなかった。滑皮のありようを演出する小道具のようなものかと。
音声データは梶尾の声でまちがいないようだ。ただ、滑皮もいっているように、なにか、どこかが引っかかる。はなしのとおりなら、梶尾は拷問されていたわけである。どういう拷問をされたのかの記述がないのでなんともいえないのだが、なにか引き出したい証言があって、殴るなり、指を切るなりするのだとすると、相手は、それをくちにしてしまわないよう抵抗していることになる。捕まるなり聴いてもいないのに鹿島殺しは滑皮です、などと言い出したのであれば拷問は必要ないからだ。むろん、そんな男でもない。となると、梶尾は、口を割るようにいわれ、それに抵抗して、殴られるなりなんなりして、最終的にあのことばをくちにしたことになる。ぼこぼこにされて、苦しさからか、あるいは自白剤的なもののちからで証言することになった男が、こんな、はぐれ刑事の安浦さんに取り調べされてつい告白をはじめてしまった犯人のような穏やかな口調で語るだろうか。
梶尾のばあいはそれ以前に、滑皮のためなら死んでもいいというような人間であったから、くちを割るということじたいが考えにくいし、そもそも鹿島の件を知らない可能性も高いのである。自白というのは、知っていてもいなくてもかんけいのないところがあるし、意志の強さにかかわらず、自白剤は効果をもたらすものだろう。だとするなら、梶尾がこのように証言した可能性は出てくるが、同じかそれ以上、このようには証言しなかった可能性も高いわけである。
では、この音声データがにせものだとして、どうやればそんなことが可能だろうか。梶尾の生活を盗聴して、音声をつぎはぎした、というようなことも考えられるが、その準備にはけっこう時間がかかるだろう。
ヒントは、滑皮じしんが、あれをニセモノだとは断定していないということかもしれない。滑皮は、あの梶尾がくちを割るわけがない、というような違和感もこみかもしれないが、これを、ただ引っかかるものとして受けとめている。つまり、この証言のなかには、梶尾が知っているわけのない情報は、含まれていないのである。ただ、それも、鳶田の前だからそういっているだけ、という可能性はあるので、やはりこたえには結びつかない。鹿島殺しについて梶尾には教えていないが、知られていても別に不思議はない、くらいに滑皮が解釈してしまうかもしれないのだ。もし、拷問されたうえで、あの穏やかな口調が成り立つ状況があるとすれば、それは、書かれているものを読み上げたときである。ひょっとすると滑皮はそこに違和感を見出しているのかもしれない。
鹿島殺しの犯人は滑皮なのではないか、ということは豹堂のセリフにもあったし、ずいぶん前からいわれていたことだが、熊倉の指示、という情報は作中初だろうか。まあ、この証言じたいの信憑性があやしい状況なので、とりあってもしかたのない可能性はあるが、滑皮の落ち着きとあの反応からして、たぶん真実そうなのだろう。滑皮の立場からするとつらいものがある。現在の彼が身内殺しにかんしてどう考えているかはよくわからない。豹堂のように仁義を語るタイプではないし、なんでも吸収してトップに立とうとするその貪欲さを考えると、いまの彼なら、どうしても必要ということなのであれば、身内殺しもいとわないかもしれない。だが、当時の滑皮はどうだったろう。彼のうえにはまだ熊倉がいた。熊倉は、鼓舞羅の件以降さえないヤクザになってしまい、決して「かっこいい兄貴」ではなかった。だが、少なくとも当時の彼にとっては、げんに熊倉にどれだけの「かっこよさ」の要素が宿っているかは、あまり重要ではなかった。あのとき重要だったのは、そのように先輩をみなし、立てる、その姿を、梶尾たちに見せることだった。ヤクザくんぜんたいに鈍い痛みとして流れていたものは、世知辛さである。ヤクザはもう稼いでいけない、アウトローとして一流のふるまいを持続することはできないという、あきらめと絶望の感覚が、ハブたちを含めて、砂漠の砂が精密機械の内部に入ってダメにしてしまうみたいに、侵食していたのである。滑皮がそのうえで見出したものが美学である。金がなくて腹が減っていても高楊枝でいること、その姿にあこがれて、後輩たちはついてくる。そういう確信が彼にはあったわけだが、なぜそのように確信したのかというと、彼がそうだったからである。熊倉の時代はまだそのような絶望感はなかっただろうけど、いずれにしても、滑皮は熊倉の粋なふるまい、甲斐性、服のきこなし、そういうものにあこがれて、巳池akaハナクソ先輩のハナクソにも耐えて、ヤクザ社会を渡ってきたのである。だから、ちからを失ったヤクザ社会を生き抜くために、彼はまずかっこよくあることを優先させる。だが、梶尾がそれにあこがれているだけでは、この美学は伝わっていかない。滑皮もそのようにして熊倉にあこがれていて、それをじぶんは受け継いでいるのだということを梶尾に伝えなければ、これは滑皮と梶尾との関係だけで閉じてしまうだろう。熊倉にもあこがれの先輩がいたのかどうかということは不明だ。滑皮はたんに洞察力に優れて、この構造を見抜いているだけなのかもしれないが、ともかく、滑皮には、じぶんにとっての熊倉はかっこよかったのだということも、梶尾にいわなくてはならなかった、ばかりではなく、敬意を払っているさまを見せなくてはならなかったのだ。
こうした関係性のなかで、熊倉から鹿島殺しを指示されたのである。ここで彼は、ふたつの違法性に引き裂かれたはずである。身内殺しは外道であるということと、熊倉の命令には逆らえないということである。熊倉への敬意は、彼固有のものであり、身内殺しを外道とするみかたはより一般的なものだろう。だから、これはともに、「良心」と「法律」のように言い換えてもいいだろう。ふつうに考えて(法律)身内を殺すのはアウトである。しかし、熊倉の命令(良心)に逆らうことは、彼のありようそのものにかかわる重大事項である。だが、こうした経験は、滑皮には馴染みのあるものだったはずだ。つまり、ハナクソ先輩のくだりだ。若い滑皮は、熊倉の迎えに行かなくてはならなかったが、それを巳池はとめて、アイス買ってきてというのである。巳池は熊倉のように直接関係のあるヤクザではおそらくないので、彼の命令に逆らってはいけない、という側面は、身内殺しは外道であるとする「法律」側の、より一般的な命令である。こうして、ヤクザ社会はつねにダブルバインドの状態にある。こうしてみると、なぜそのようなことになるのかということの原因が、この、「先輩の命令は絶対である」などというときに、「絶対」とついてしまうことだとわかる。そういうなかで、熊倉は、少なくとも対滑皮においては自由に動いてしまうわけだから、「絶対」に応えられない場面というのは必ず出てくるのである。たとえば、夜中の住宅街で大声で叫ぶことはふつうはばかられるが、「絶対」ではない。なにか犯罪を目撃したり、空き家が燃えているのをみかけたりしたら、大声を出さなくてはならないだろう。ヤクザ社会のルールは、通行人に「夜道で大声をあげてはいけない、絶対に」と告げてくるものなのだ。そこで通行人は引き裂かれることになってしまうのである。
いつも書いていることなので詳細は省くとして、滑皮はあるふたつの矛盾した命令を共存させて、新しい段階に止揚させる弁証法的方法をとる。ヤクザ社会でトップをとるということは、そうした、「絶対」が基本の世界で自由な生き方をすることであり、その面で彼は丑嶋を必要とした、というのが僕の見立てだ。滑皮は、丑嶋が熊倉を殺したことを知っている。「法律」は身内殺しを許さないが、身内を殺したものも許さないだろう。だが、彼は丑嶋を引き受けることで、これ以上は考えられないという矛盾を背負い込むことになる。そのうえで、次の段階にすすむために、滑皮は丑嶋の丑嶋性のようなものを剥ぎ取りにかかることになる。これは、端的に柄崎のことだ。だから、あの陰湿ないじめのような、SNS攻撃を彼は行ったのだ。
原理的にはそう考えられる。しかしどうだろう。なんでも吸収しようとする滑皮は、たしかに、すべての矛盾を引き受けようとするかもしれない。しかし、具体的にはどうやるのか。巳池のアイス、「身内殺しは外道」、「身内を殺したものはカタギであっても殺す」などという、「絶対」ということばがかたちづくる「法律」がもたらす命令は、無視されたあとどこにいってしまうのだろう。丑嶋にかんしては、滑皮は彼を「丑嶋ではなくする」という方法で解除しようとしている(と考えられる)。巳池のアイスは溶けてしまうからいいとして、鹿島殺しは、どうすれば「鹿島殺しでなくする」ことができるだろうか。
鳩山はあのようにいったが、現状、彼の鹿島殺しを証明するものはなにもない。なぜなら、鹿島そのものが、この世にはもう存在していないからである。彼は、マイクロ波だかなんだかで粒子にされ、氷にされて海の底に沈み、溶けたのちに海底の砂に混ざってしまった。これを見つけることは絶対に不可能であり、したがって、そもそも鹿島の死それじたいが、証明不可能なのである。このように考えると、ふたつの矛盾した命令は、そのままに保存されることで滑皮を大きく育てはしたが、じっさいには、いっぽうの命令があとかたもなく消滅することで、緊張をほどかれていたのである。
対立するヤクザ的「法律」と熊倉に敬意を払うというふるまいにあたる「良心」だが、では、それでも、丑嶋は保存されるべきなのだろうか。もちろん、殺してしまえるならそうしたほうがいいだろう。だが、滑皮としても複雑である。丑嶋が有能であることは疑いないし、関係も長く、だいたい、あの甲児でも殺せなかったのである。露骨に殺意を向けることは、あまり賢いとはいえないのかもしれない。だが、それよりも、そもそも丑嶋は熊倉を殺してはいない、というみかたも可能だろう。熊倉は、鼓舞羅以降すっかり変わってしまった。もはや、滑皮が熊倉に敬意を払う理由は美学以外にない。だから、彼の払う敬意は、想像のなかの、厳密には過去のなつかしい姿の熊倉に向けられたものなのである。それは、滑皮じしんもくちにしていることだ。熊倉は、いまもじぶんのなかに生きていると。生きているのだから、死んでいないのである。
滑皮は丑嶋になんの用事だろうか。いや、用事はたくさんあるだろうが、このタイミングでわざわざ会いにくる理由はなんだろう。おそらく滑皮は、竹腹の死に巳池が関係しているらしいと踏んで、鳶田に銃をとりにいかせた。それがない。ひょっとすると、以前預けた銃のことをようやく思い出して、それを返せといいにきたのかもしれない。あの銃がどうなったのかはずっと不明だったのだが・・・。ついでにお前もこい、みたいなことになるのかな。
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