今週の闇金ウシジマくん/第450話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第450話/ウシジマくん36

 

 

 

 

 

 

 

獅子谷兄弟の弟、甲児が丑嶋を連れて歌舞伎町を歩く。

今回描かれている手下たちはみんなモンモンパーカーを着ていて、はじめて駐車場で丑嶋が包囲したときに見えたジャミラ的なありえない筋肉の連中は目立たないが、それでもものものしい雰囲気だ。

丑嶋はとりあえずまだ状況を探っている感じだ。流れとしては、駐車場で包囲され、滑皮が呼んでいる、というふうに甲児がいって、ふと兄のことを思い出し、回想に入った。そこから特になんの会話もなく、ということは抵抗もなく、丑嶋は彼らに連れられている。逃げてもしかたないからとりあえず着いていって、なにがどうなっているのか見定めようというところだろうか。けっこう時間がたっている感じもするが、たぶん台湾からもどってきてまだ数日というところだろう。裏社会に生きていて自然に耳に入ってくるような情報もこの2年はなかったのだ。丑嶋の情報源の戌亥は、どこまでほんとうのことをいっているかあてにならないし、じっさいのところ丑嶋は情報がほしいはずだ。

 

 

丑嶋はのんびり用事の内容を訊ねている。ひとことでいえば滑皮が呼んでいる、付け加えればうらみがある、ということになるが、獅子谷はすぐには応えない。なにやらゲリラ豪雨の影響で下水道から追い出されたゴキブリやネズミがうろうろしている。甲児は、裏社会の人間のありようを彼らに重ねているようだ。運のない人間はひとつの場所にいられず、流れに逆らえない。抗えば死ぬ。もし彼が、じぶんの現状をネズミたちに付託しているとしたら、これを目障りとするのも当然だろう。彼はしたがいたくて滑皮のいうことを聞いているわけではないのだから。

甲児は、獅子谷兄の最期の言葉がなんだったとおもうかと丑嶋に訊ねる。「地獄で待ってるぞ」である。漫画の描写では、その直後に椚たちが襲いかかって場面が変わってしまった。最期の言葉は、当然その場にいたものしか知らず、そしてその場にいたものは獅子谷を殺したものである。大勢の人間が凶器で殴りかかったとはいっても、即死ということにはならなかったはずだ。だが、どうやら獅子谷兄は命乞いに類することばをまったく吐かなかったようである。

黙っている丑嶋に、お前の最期の言葉はなんだと思う?と、甲児が遠まわしに丑嶋の死をにおわせる。ここで丑嶋がきちんと説明する。それは逆恨みである。じぶんが聞いたはなしでは、兄を殺したのはシシックの幹部連中だと。嘘ではない。だが、無関係でもない。椚が獅子谷殺害を決意したのはたぶん畑崎が死んだからで、これは柄崎が轢き殺したものだ。そうでなくてもあのとき騒動に丑嶋は大きくかかわっている。甲児は犯人探しをしているのではない。仇を討とうとしているのである。だから、すでに椚たちは制裁を受けている。何人か殺してもいるようで、甲児はそのために10年刑務所にいたらしい。当時はまだ高校生だったから、少年院ということなのだろう。

 

 

甲児の車の場所に到着すると、支払所の近くに異様な男がいる。イヌのように鎖でつながれていて、両手がないうえに白いモンモンパーカーを羽織り、か細く呼吸しながらしゃがんで、うつろに宙を見つめている。椚なのである。首謀者ということで、ただ殺す以上の、特別な制裁を加えたのである。両腕と両耳を落とし、歯はすべて叩き折られた。次に椚とその父親の前で、彼の母と姉を輪姦した。もし椚が反抗したり、あるいは自殺したりしたら、家族全員に制裁を加えるという。おそるべき所業である。この制裁というのは、ふつうに読んだら10年前ということになるが、椚は10年もこの状態でどうやって暮らしてきたのだろう。それとも、椚だけは出所してから制裁を加えたのだろうか。だとしてもこれではただ生きていくことも難しい。ストレスと栄養失調のためか頭髪もすごいことになっている。ふつうの食事は無理だし、手術後のリハビリ期間に食べるようななにかゼリー的なものか、あるいは点滴をうたないと、すぐ死んでしまうだろう。抗生物質とかも必要かもしれない。放っておけば死んでしまう。たぶん、それを、わざわざそれなりの金をかけて生かしているのである。椚はヘッドホンと黒いマスクもしている。耳と歯を隠すためだろうか。同時に、なにかこの椚の状態を「変わったひと」に見せている効果もありそうだ。

 

 

獅子谷は丑嶋に車にのるよう命令する。続けてホテルにいる滑皮の描写。いつものコーヒーを飲んでいる彼のところに獅子谷から電話がくる。滑皮はそのまま丑嶋を連れてくるようにいうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

つづく。

 

 

 

 

 

 

 

 

久々にトラウマレベルの描写がきてすごいびっくりした。甲児が椚たちのことを放っておくかな、とはおもっていたが、なにかこう、もっとセリフとかでさらっと流れるかとおもっていた。

 

 

回想ではあまり描かれなかったが、当時の甲児のポジションというのはどんな感じだったのだろう。海老名は彼を兄と同列に語っているぶぶんがあった。高校生じてんで甲児はすでに巨漢で、ボクサーなのに絞っている様子もなかった。とするとヘビー級なのかもしれない。日本のボクシングだと、ヘビー級は層が薄いので、なかなか伸び悩むぶぶんもあったとおもうが、そういうはなしはともかく、甲児は丑嶋もじぶんより強いと半ば認めるほどの腕っ節だった。兄は泣く子も黙るシシックの社長で、そのうえどこでキレるかわからないこわさもある。厳密には「どこでキレるかわからない」は、あの兄をもった、裏社会で上に立つもののエクリチュールではないかとおもわれるが、描写からわかるのはそんなようなところである。

シシックは獅子谷兄の暴力によって制御されていたが、これがいつか決壊するものであることは火を見るよりも明らかで、兄じしんが、悟りきった顔で死を受け容れていたことからして、それをよくわかっていた。創業当初はともかく、あの段階で、不良としての獅子谷を無邪気に尊敬したままシシックに所属し続けていたものは、ごく最近に入った新人とかでないかぎり、いなかったのではないかとおもわれる。じっさいに店舗を任されているものはみんないつ耳を切られるか心配しながら営業していたわけで、それが海老名たちのようなものの行動につながっていたわけだし、獅子谷の側近とおもわれた椚をはじめとした連中でさえが、仲間の死をきっかけに暴動を起こすほどにうらみをためていたのである。

この状況で、兄は死んだ。そうなると、甲児はどうなるだろう。椚などのメンバーが厳密には甲児のことをどうおもっていたかは、わからない。しかし海老名の言い方からすると、やはりよくはおもっていなかったのではないかとおもわれる。付き合いの長いものであれば、案外小さいころから面倒を見ていたとかで親しいこともあるかもしれないが、目の前で海老名の耳が落とされてもまったく動じなかった甲児の様子からも、やはり距離はあったのではないかとおもわれる。だが、重要なことだが、シシックは暴力によって制御されていた。椚たちが獅子谷に襲い掛かったのは、獅子谷がケガをしたからだ。このあたりの心理は説明が難しいが、獅子谷も名のある不良で、当然喧嘩を強かったろう。そのうえあれほどの鍛えである。甲児のように格闘技をやっていなくても、おそろしく強い男であったことはまちがいない。しかし、数人で襲い掛かって倒せないかというと、そういうこともない。やろうとおもえば椚たちはいつでも獅子谷を殺せたはずである。なぜそれをしなかったかというと、「こわかったから」なのだ。4人以上で凶器をもってかかれば、五体満足でも獅子谷を倒せないことはない。しかし、もし倒し損ねたら?もし、別の仲間を呼ばれて、そいつが「恐怖」から獅子谷についたら?最悪甲児があらわれたら? また殺人というタブーを破る恐怖も彼らも人間なのであるだろう。椚たちは「引金」を必要としていた。それが、兄の骨折なのである。暴力によって支配されているものは、暴力の有効性を知っている。というか信仰している。だからこそ、暴力に訴えて兄を退ける。そして、残る甲児も、兄の威光がなくても、「暴力的にいって」おそろしい存在であることに変わりはない。こうしたわけで、彼らがお礼参り的なことをしたとはおもえないわけである。

しかし、そうすると、甲児は単独であの時代に取り残されたことになる。こんなことを書いているのは、彼が椚の母や姉を輪姦したといっているからである。輪姦するからには、甲児のほかに何人か仲間がいたことになる。それはいったい誰なのか。

おもえば彼はもとモンスター連合の総長ということだが、これはいつの時代のことなのだろう。殺人で少年院に入ったのが10年前ということだから、彼はあの件からすぐ行動に出ている。そして、最近出てきたのだ。20代後半で総長ということはまずないから、そうなると、彼はあの高校生の時点で暴走族だったことになる。たしかに、兄はアマチュアボクシングで優等生的な生き方をする弟を誇っていたが、ふつうに暴走してそうな雰囲気もあったし、そこは違和感はない。となると、そのときの連れを使って椚たちを襲ったのだろうか。

もうひとつの可能性は、やはり椚は出所後に襲ったのではないかということである。椚があの状態で生き続けるには、それなりのケアが必要である。きちんと病院に通って、ふさわしい処置をすれば、まともに生きていくこともできるだろうが、いまの様子をみると最低限のこと以外はしていないようであり、この環境で10年、彼は生きられるだろうかということがあるのだ。襲われた家族もそうである。10年というのはなかなかの年月だ。いい加減誰かが警察に通報したりしても不思議はない時間が過ぎ去っているのである。

以上のようなことから、やはり椚だけは、出所後に発見して襲ったのではないかとおもわれるのだ。つまり、甲児は、ひとりか、あるいはモンスター連合の仲間を連れて、あの事件の直後、関係者を暴行し、殺害に関わったものをすべて聞き出した。そして、順番に殺し、また再起不能にしていった。そこでいったん捕まる。出所した彼がどうしたのかはまだわからない。すぐに兄ゆずりのカリスマ性を発揮して仲間を集めたのかもしれないし、兄が残した金をつかって会社をたて、巨大化させたのかもしれない。ともかく、そこで椚を見つけてこのようにした。なんとなく、椚のありかたや、それを語る口調に新鮮さが感じられるのも、最近のはなしなのではないかとおもわせるのである。

ただ、そこまで強いうらみの感情に突き動かされているわりには、丑嶋に対してそれほどでもなさそうな感じもある。椚への拷問はふつうの神経ではとうてい不可能だ。つい最近そのようなことをした直後、関係者である丑嶋に対してここまで冷静でいられるだろうかという疑問もある。

 

 

甲児にかんしては滑皮への感情もよくわからない。けっこうすんなりヤクザに屈服することを認めてそうな雰囲気もあるのだが、戌亥の言い方ではけっこう抵抗したようである。このままだと滑皮が丑嶋をどうかしてしまって、復讐を果たせずにおわりそうなのに、そのあたりも冷静である。

 

 

今回は滑皮のイレズミだけでなく、陰影鮮やかな前面の筋肉も描かれることになった。彼は自重トレでからだを鍛えている描写がある。最近手に入れた本で『プリズナー・トレーニング』というものがある。作者はもと囚人で、監房で行っていた自重トレーニングを、広告に洗脳された健康産業との対比で浮かび上がらせ、非常に有効なものであると提唱する、監獄内で「コーチ」と呼ばれていた人物だ。アメリカの映画などで、刑務所の中庭でバーベルなどのウェイトをつかってトレーニングする怖い集団などが描かれたりすることがあるが、それでもやはり監獄では自重が中心になる。なにかトラブルがあって一日中房にいなければならないということもあるからだ。そういうときに、片手プッシュアップやピストルスクワット、片手ハンドスタンドプッシュアップやプランシェなどが非常に有効なわけである。





滑皮のシックスパックは強い体幹と機能性を指示している。これは自重トレーニングに特有のものである。ウェイトで個々の筋肉を鍛えることももちろんできるのだが、甲児と比べると滑皮は明らかに「サイズ」のひとではない。なんというか、甲児が横に広いいっぽうで、滑皮は縦に豊かなのである。

だが、この腹筋が自重トレーニングを表象するとしても、それがプリズナートレーニングとは直結しない。というのは甲児がそうではないからである。まあ、彼のばあいはもともとからだが大きいということもある。仮に滑皮が178センチの72キロ、甲児が190センチの115キロくらいだとして、両者が片手ハンドスタンドプッシュアップをしたとする。これは動作としてはショルダープレスと同じだ。このとき、滑皮は140キロ、甲児は230キロのバーベルを肩であげていることになる。もともと重いぶん、自重にかんしては進歩が遅くはなるが、もしこれが達成できれば、当然大きい人間のほうが効果は大きいことになるのである。しかし、やはりそれは自然とはおもわれない。甲児の筋肉はあるぶぶん機能性よりサイズを重視している。これは明らかである。あそこまで横にはりだした三角筋をつくるにはサイドレイズというトレーニングを相当やりこまなければならないが、これは別に筋肉の機能性から導かれるトレーニングではない。もちろんバランスをとるためには適宜とる必要はあるが、もし張り出させようと意図するのであれば、これは不可欠である。

それに対して、滑皮はスーツを着るとほとんど筋肉が隠れてしまう体型だ。肩幅の狭いひとに多いが、胸の筋肉の張りがスーツを正しいかたちにするとしても、重量感は失せてしまうのである。こうした点からして、滑皮が自重を選択するきっかけが刑務所暮らしだとしても、表象としてはそれは直接的なものではないと考えられるのである。

では、この場所で滑皮の腹筋があらわすものはなにか。これはすでにほかの記事で論じたことがあるが、存在することの責任感である。自重トレは、じぶんの体重を負荷にする。いまここに存在しているじぶんというものを「負担」として、それをはねのける過程で筋肉を強化するのが自重トレなのである。組織の人間である滑皮は、じぶんやほかの誰かのためではなく、組織のために仕事をまっとうする。彼が組織の人間として「存在」するということは、任されているポジションを貫徹する限りにおいてである。これが責任である。滑皮はみずからの身体をただそこにぼんやりとあるものではなく、はっきり負担であるととらえなければならない自重トレという状況を通して、責任の重さと形状を確認しているのである。

対する甲児のありようは、格闘技という要素が加わることで、兄の物量主義をさらに展開したものとなる。彼らにはヤクザ越えという野望があった。長くなるのでごくかんたんに説明する、ヤクザには物語(歴史)と組織があり、独自の美学がある。歴史は利益ではなく信念や敬意の感情を通して成員を結びつけ、半グレのような裏切りが起こらないよう制御している。これに打ち克つために、兄は物量に走る。100の人間がかたい絆で結ばれていても、ゆるい関係の1000人なら勝てるかもしれないと、こういうはなしだ。これが彼らの筋肉表現にもあらわれる。彼らはまっすぐにサイズと量にこだわる筋肉づくりをしているのであり、まずは見た目で、そこに付加価値として強さが加わればよいのである。

そして甲児はここに格闘の要素、「実際の強さ」も加わる。このことは彼が滑皮に屈服したあとも心理的負荷を軽くするものとして有効だろう。もし仮に彼がアウトロー最強だとしたら、どんなヤクザも彼に勝つことはできない。とすれば、帰納的に、条件さえ限れば、彼はヤクザ以上の存在であり続けることができる。営業の仕事などでもからだを鍛えているひとは多いらしいが、社長業などでも(なかば冗談だとはおもうが)、その気になれば相手をのしてしまうことができるという自負が、取引において有効に働くことがあるらしい。心理的にはそういうことと同じだろう。滑皮の筋肉がじぶんに打ち克つためのものであるとすれば、獅子谷は他人を打ち負かすことができる可能性を潜在させるものなのである。

 

 

高橋源一郎『ジョン・レノン対火星人』の解説で、なにか邪悪なものによって「生き残った人間」と「死んだ人間」にひとがわかれることについて、内田樹が印象的なことを書いているので引用する。

 

 

 

 

 

 

()生き残った人間は『仕事』をしなければならない。

その『仕事』とは、選別の時点では『死んだ人間』と『生き残った人間』の間に存在しなかった『差異』をそれからあとに長い時間をかけて構築することである。言い換えれば、『私が生き残ったことには、何か意味があるはずだ』という(自分でも信じていない)言葉を長い時間をかけて自分に信じさせることである。

だから、『生き残った人間』たちは『葬礼』を行うことになる。

というのは、『死んだ人間』にはできなくて、『生き残った人間』だけにできる仕事といったら(原理的に言って)『弔うこと』しかないからだ」講談社文芸文庫 222頁

 

 


 

 

 

すでに死んでしまった人間には、「じぶんを弔うこと」は不可能である。生きている人間と死んだ人間に差異を生むのは「死」であり、である以上、選別されて「生き残った人間」は、この「死」に必ずとらわれることになる。

獅子谷兄の死は、ある意味では必然である。それは兄じしん理解していた。甲児もたぶん理性のうえではそれを理解している。しかし、これを兄の自業自得だと認めることは甲児にはできない。兄は甲児にとって守護者であり、兄なくして甲児はありえないからである。その兄の死が必然であり、否定されるものであるなら、彼は否定されるべきものに育まれて成長したことになる。それを認めることはできない。だから、ここで問題となるのは兄の悪行ではなく、兄弟の関係性のみだ。そのうえでは、兄の死は理不尽なものとなる。大切な兄の死は、弟のその後の行動を決定した。生前の兄が、「じぶんを今後殺すことになる者」を殺すことはありえない。「殺したものを殺す」という行動は、生き残ったものにしかできない。その意味では甲児の行動は弔いなのである。甲児が兄の死を主観のうちに「理不尽である」ととらえる限り、彼は弔いを続ける。死んでしまった兄にはもう不可能であり、じぶんには可能であることを、これからも続けていくことになるのだ。もちろん、そのひとつは丑嶋だろう。しかし、兄の最終目標はヤクザ越えだったのである。甲児の冷静さも、だからこう考えると不気味なのである。滑皮は丑嶋同様、獅子谷に対しても、絶対に油断してはならないだろう。

 

 

 





 

 

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