今週の刃牙道/第135話 | すっぴんマスター

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第135話/偉大さ

 

 

 

 

 

 

 

本部戦を終えた武蔵がテレビに出ている・・・というところ前回は終わったのだけど、今週は毎回、というほどの頻度ではないが、描かれていないところでも必ず行われているはずのアメリカ大統領と範馬勇次郎との友好条約更新の様子が描かれる。

現実のアメリカでも次期大統領が決定したが、厳密にはまだ大統領ではない。あちらではオバマ大統領からトランプ大統領にかわることになるが、こちらではオズマ大統領からトラムプ大統領にかわる。就任まで待ってもよかったんだろうけど、たぶん、板垣先生的になにかおもうところがあり、本部戦という区切りがちょうどついたところでもあるし、本流の展開を中断してでもいま描いておこう、ということになったのだろう。煽りには「特別緊急掲載」とあるので、やはり予定にはなかったはなしのようである。ヒラリーがなったらなったで、勇次郎がどういう反応をするかみたかった気もするけど。初の女性大統領ということで敬意を払い、いままでには決してありえなかった対等な関係になったりして。まあバキの展開のためにアメリカ大統領を決定するわけにもいかんし・・・。

 

 

 

特徴的な髪型はモデルが誰であるか明確にしている。モデル通りの人物であればビジネスマンから多くのひとの予想を覆して大統領になった人物で、相当のクセモノとおもわれる。

アメリカが個人と条約を結ぶと、オズマからくわしくはなしをきいて、トラムプはフリーズしてしまう。生き馬の目をぬく業界で生きてきたトラムプからしたらおとぎばなしみたいなものだろう。それを、いかにも優等生風で誠実そうなオズマが語り聞かせる。

アメリカ合衆国が、オーガこと範馬勇次郎という一個人に対し、聖書を片手に友好と不可侵を宣誓する。オズマは落ち着いてそうくりかえす。意味がわからず、トラムプはふたたび静止する。

どうやらオズマは本気でいっているらしいと、そういうことがわかりかけてきてから、トラムプは次に細部を確認しはじめる。アメリカが、一個人に、ということでまちがいない。となるとその人物はアメリカ以上のなにかをもっていることになる。ビジネスマンらしく、トラムプはまず「金持ち」なのかと訊ねる。常識的な反応かもしれない。げんに大金持ちの光成は総理大臣以上の権力をもっているわけだし。オズマは、ある意味リッチマンといえるだろうけれど、そのことは関係ないとする。リッチといえば、ふつうは金銭的に豊かであることをさすが、それ以外にも広く、たんに豊かであることも示す。だから最初、これは腕力家としての勇次郎が抱えているものの豊かさを指しているのかとおもったが、「無関係」といっているので、ここでオズマがいっている「ある意味リッチマン」というのは、例の強さ=ワガママを通すちから、という公式から考えられたものだろう。現象として世界一強いのだから、やろうとおもえばどんな強奪も可能であり、それを制御する方法もないのである。

アメリカは銃社会で、戦争経験も豊富である。通常、こちら側の譲歩を必要とする条約というものは、複雑な利害関係が背後にあって、探りあいと国力の拮抗のなか結ばれるものだろう。金ももっていない一個人がなんだというのか、ということは誰だって考える。ましてやアメリカ人ならなおさらかもしれない。トラムプは逮捕してしまえばいいではないかと、「なんでそれを思いつかないのか」といわんばかりにいう。

しかし勇次郎は一国の軍事力に比較されるちからをもつ。FBIだって、ふつうはそういう形容のしかたをされないわけである。

ここではじめて、勇次郎がなぜそれほどケアすべき人物であるのかということが、「強いから」だということが告げられたわけだが、トラムプはその点についてはなにもいわない。なぜかいちばん信じがたいその点については、すんなり了解してくれたようである。そういう、胸糞悪い慣例がほんとうにあるらしいということは、もう納得した。それはいつからなのかというと、第40代「ノラウド・ウィルソン・リーガン」だという。トラムプはそこで「なるほど」とさらに納得する。まさにわが国から「偉大さ」が消えたタイミングだと。

オズマはリアリストっぽさを見せるトラムプに、「匹夫の勇」ということばの存在をつきつけて、間接的に諌める。「媚びるべきには媚びろ」というのが、オズマが在任中に得た結論だという。

 

 

当日、トラムプはこの慣例を終わらせる気で、勇んで勇次郎の部屋に向かう。トラムプの建てたホテルなのだろうか、いずれにせよアメリカなので、勇次郎じしんが出向いてきたことになる。いくら勇次郎でも、大国アメリカを全面的に敵にまわすのは賢くない。友好条約は勇次郎としてもある意味望むところではないかともおもわれる。だから、表面には出さなくても、必要なら足を運ぶこともやぶさかではないだろう。だいたいストライダムがいるので、彼なら平気でタクシーみたいにヘリとか飛行機とか出してくれそうだし。

 

 

じぶんで最後、終わらせる、そういうつもりでやってきたトラムプだったが、部屋に立つ勇次郎の背中を見ただけで、その感情の昂ぶりは嘘のように消えてしまった。勇次郎はなぜかパンツ一丁で、タバコを吸いながら窓の外を眺めている。全身に血管が浮いており、なんらかの理由でパンプしているようである。それを見てトラムプは、どんな兵器よりも彼のほうが「上」だということを実感してしまった。「闘争」というのは、ある二者の関係性とか、それが巻き起こす状況をさす概念であるが、勇次郎の肉体は闘争を形状にしたようなものなのだ。近寄り「3分で終わらせろ」という勇次郎のことばを受けて、トラムプは失禁してしまう。が、念のため・・・万が一に備えて徹夜で暗記した宣誓を読み上げることで、無事最悪の仕事を終えたのであった。

 

 

 

 

 

 

つづく。

 

 

 

 

 

 

いってしまえば「いつもの描写」で、とりたてて騒ぐ点もないようだけど、オズマが学生時代から都市伝説的に勇次郎のことを知っていて、最初の会見では緊張と興奮からやたらしゃべりまくることになったことと比べた今回のトラムプの反応や、あるいは勇次郎がなぜパンプしていたのか、パンツ一丁だったのか、などということから、「九マイルは遠すぎる」ばりになんらかの結論を導けるだろうか。ムリだな。

 

 

このはなしがいつのことなのか、本部対武蔵戦とほぼ同時期と見ていいのか、そのあたりもわからない。トラムプのせいで本部戦を見れなくて、勇次郎はイラついているという可能性もあるが、それだと勇次郎はアメリカに意志をくじかれていることになる。たぶん、そういう問題ではないのではないか。

アメリカにも、新任の大統領についてもくわしくないので、フワーっとしたイメージの次元でのはなしになるが、トラムプはビジネスマンなわけである。それが、現状ではまだまだ超大国であるアメリカのトップに君臨することになるわけである。直接的な描写はないが、トラムプは、政治思想とか信念とかいうことの以前に、現実的なビジネスマンであることが、ひとつの大きな特徴であるにちがいないのである。一国と比較される個人ときいて金持ちなのかと訊ねたことからもそれはわかる。トラムプからすれば、ほかの大多数のひとがそう考える以上にちからとは金のことなのである。そういう身もふたもない現実から思考を出発させる男が、世界有数の大国の、最高権力者になったわけである。トラムプはまちがいなく世界を金で解釈するだろう。国力とは金のことであり、人物的魅力とは金のことであり、そして腕力とは金のことであると、そう考える可能性が高いのである。

オズマはよかった。最初からそれなりに敬意を払ってきたし、不遜な態度をとることもなく、基本的には条約を必要なものと捉えてきた。しかしトラムプはそういう人物ではない。少なくとも勇次郎はそう考えたのではないだろうか。金が腕力に代用されるのは、周囲のすべてのひとが「金は腕力に代用される」と信じているときだけである。それを使用するすべての国民が、ある紙切れに1万円の価値がある思い込まないことには、1万円札はそれにふさわしい価値を宿して機能することができない。たとえば、勇次郎を含む世界中の全ての人間が、「金をもっている人間が最強である」と解釈すれば、その瞬間に世界一金持ちの人物が世界最強となる。お金とはそういうものなのだ。

しかしもしお金にそうした価値を見出さない人間が存在し、しかもその人物が、国家予算並みの金をつかって攻撃をしかけても倒せないほどの腕力家だとしたら、これも成立しなくなる。勇次郎はトラムプにまずそのことをわからせる必要があると判断したのではないだろうか。だから、前もって筋肉が見えやすいよう服を脱ぎ、みたところ器具等はないが、からだをあたためて、筋肉をパンプさせ、迫力を倍増させていたのではないか。げんにそれを見てトラムプのうちにおける常識はあっさり覆り、金より強力なもの(兵器は金で買うことができる)があることを理解しているのである。

 

 

ではなぜ勇次郎がそういうことをしたかというと、それは勇次郎としてもアメリカを敵にまわすことは望ましいことではないからだろう。勇次郎のちからが一国に匹敵するというのは、一種の「表現」であって、彼のパンチが、アメリカに存在するすべての兵器を同時に動かしたのと同じだけのエネルギーを宿している、というような物量的な意味ではない。ルソーによれば戦争とは相手国の憲法を書き換えようとするものである。アメリカと勇次郎が対立することになれば、それはまさに勇次郎の内における憲法的な意味でのルール、つまりわがままをはばむということにほかならないが、もし国と個人が対立することになっても、通常の戦争状態にはならないだろう。勇次郎が国と比べれば物理的に小さい存在だからである。ゴキブリ一匹を退治するために家を焼き払うひとはいない。わたしたちはけっきょく、殺虫スプレーをもって、単独で、ゴキブリ目線に立って勝負するほかない。そのゴキブリも、隠れられてしまえば手のうちようがないし、それでいてゴキブリのほうにはできることがたくさんある。これはたとえが悪かったかもしれないが、勇次郎はじっさい機動隊100人を突破して総理大臣のもとまでたどりついたことがある。それでいいわけである。ホワイトハウスに侵入し、ガードを突破して大統領を倒せば、それでもうある意味勝利なわけである。もちろん、ベトナムで見せたように、勇次郎にはそれ以上のことが可能である。ただ、あれにしても、本部の刀を親指でぺきぺき折るようにたやすいものではなかった。いまより若く、劣っていた可能性があるとはいえ、やはり個人でできることには限度がある。しかしそれをいえば、大国が個人を射抜く行為にも、方法を限定する条件があるわけである。いつか誰かも作中でいっていたが、砂漠をひとりで歩いているならともかく、ふつうに街に生きる勇次郎を爆撃するわけにはいかないのである。だから、当たり前に考えると勇次郎とたたかおうとしたら武装した個人の集団ということになるが、それは通用しない。いちばん有効なのは遠方からの狙撃だろう。これはげんに勇次郎も、最大トーナメントで暴れ出したとき実行され、不覚をとっている。そしてここで、勇次郎を殺すことで世界はどうなるか、という想定が必要になる。勇次郎は暗殺者ではない。正面から機動隊やSPを突破し、国の最高権力者を獲ることのできる人物である。どの国の責任者も、勇次郎にかんして無関係で済ますことはできず、勇次郎の組み込まれた世界のパワーバランスに関与しているわけである。そして、第40代大統領がどういう経緯で友好条約を結んだかはわからないが、とにかくげんにそういう条約がある。勇次郎とアメリカは友人関係であり、勇次郎のやることなすことにかんしてアメリカはいっさい口出ししない。そして、この条約にそれは含まれてはいないし、勇次郎の大統領への態度は傲慢なものばかりだが、ここには同時に勇次郎のアメリカへの不可侵ということも、言外に約束されている可能性がある。「約束」ということばが強度として強すぎるとすれば、「含み」くらいだろうか。勇次郎としては、じぶんの生活や趣味が邪魔されない限り、アメリカがなにをしようと知ったことではない。若いときはそうでもなかったろうし、アライパパのことなど考えるとそうひとくくりにはできそうもないが、常識的な範囲であれば、勇次郎がアメリカの国政にくちを出すなどということは考えられない。つまり、アメリカは、というか第40代大統領は、ひょっとするとみずから積極的に勇次郎に働きかけたのではないかと考えられるのだ。どんな人物も確実に殺すことができる勇次郎と友好条約を結ぶことは、宣言さえがんばり、かつげんに不可侵を貫徹しさえすれば、アメリカにとってはそう悪くないはなしなのではないかということなのだ。

そうしたわけで、勇次郎は不本意かもしれないが、彼が含まれるパワーバランスは、アメリカの意志がまずあって、そのうえで成立した可能性がある。この大統領の宣誓は一般には機密事項なのだが、ひょっとすると各国の最高幹部にはそれなりに共有されている情報なのではないだろうか。もしそうであれば、アメリカ以外の国が勇次郎に手を出さない理由にもなる。彼はアメリカが国賓としてあつかう友人なのである。

そしてじっさい、勇次郎としてはそれでいいというぶぶんもあるかもしれない。ベトナムでの修行時代はあのように戦地で暴れていたわけだが、いまの勇次郎はもはや誰にも制御できない存在になっている。求めるものといえば、バキや武蔵のような、じぶんを超えうる単独の個人の出現のみである。大国アメリカが個人に対抗しうるちからをもっているのは当たり前のことであるし、いちいちそんなものを相手にするのも面倒なはなしである。もし同レベルの国が総力をあげて攻撃を開始したら、勇次郎も、負けないまでもバキだ武蔵だといっていられなくなることはまちがいないのである。そういう意味で、そっちがそういうのなら、というような条件つきで、勇次郎としても友好条約はそれなりに望ましいのではないか。

 

 

というようなことだとすると、勇次郎としてもこの条約を、スムーズに、それにふさわしいありかたで成立させたいという気持ちがあった可能性があり、それが、勇次郎に、やってくることを理解していない新大統領に向けてパンプした超肉体を披露せしめたのではないだろうか。とはいえ、形式上、あくまで勇次郎はアメリカのほうからの提案で、このはなしを受けている。おもえばあの傲慢な態度も、条約締結に際してのマナーなのかもしれない。