今週の刃牙道/第70話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第70話/武芸百般






素手ではごく一部の例外を除けばほぼ無敵といっていいバキを本部は「守護る」といいだした。もとは父を超えればそれでいい、という考えの持ち主だったが、そうはいってもその強さは一生懸命彫琢してきたものなのだし、それなりに誇りをもっている。誰かに守ってもらうような弱々しい存在ではないのだ。

挑発にのったバキがしかけていく。本部は冷静に懐からガチャガチャのボールくらいの煙玉を取り出し、すばやく地面に叩きつける。こう見ると、おもったより距離がある。煙がどれくらいの速度で視界を覆うのかわからないが、とにかく、バキは相手に到達する前に見失ってしまう。いや、見失うとかいう以前に、いきなり煙がボッと出てきたことじたいに戸惑い、足をとめてしまっている感じだ。一瞬、状況が理解を超えて、フリーズしてしまっているのだ。

で、あっさり背後にまわった本部が匕首を後頭部に突きつける。勝負ありである。


本部はすぐに刃物をふところにしまう。どうやって入ってるのかわからないが、「カチ・・・」という音がしているので、けっこう近代的な装備が道着のしたには隠されているのかもしれない。

バキは、本部の「武芸百般」を警戒してはいたけど、よもや煙幕が飛び出てくるとはおもいもしなかった、というようなことを、じぶんにがっかりしたというような顔でいう。「武芸百般」って現実の武術のひとにつかうとむしろ悪口みたいな感じがするが、ほんとうにそのカバーしている広さをきわめれば、本部や、あるいは武蔵のようになりうるのだ。

本部がこの展開の解説をする。朝バキがこちらに向かうという連絡を受けたときから、こういう展開、つまりたたかいが起こるということは予想していたという。素手ではとても勝てない。というわけで「煙幕玉」を用意したのだという。本部の手作りということだ。「これが兵法 これも闘争」などとUZIみたいな韻の踏み方で本部が現実を語る。そして、武蔵の流儀もまたこういうものだとも。バキは歯をくいしばって悔しがっているようだが、反論はできない。バキは「殺された」のだ。しかし本部は、それはどうかななどという。少なくともじぶんには殺す気はなかったし、そうであったならバキの反応もちがっていたはずだと。多少なぐさめも含まれているとはおもうが、しかしこれはたしかにそうだろう。これを勝負ありとする、つまり「殺された」とするのは、近代格闘技の「見込み」による勝敗の決定がわたしたちに馴染んでいるためなのだ。げんに死んでないのだから負けてない、というのは独歩などがよくつかう論法だが、それもたしかに一理あるのである。

バキはすっかり自信をなくしてしまっている。本部が殺す気であったなら、バキだってそれに気づけたはずだ。しかし果たして気づけたか、ちがいはあったか、というふうに悩んでしまっている。


本部はバキをなぐさめつつ、本論に入る。バキたち現代格闘士はこうした闘法に慣れていない、それは事実なのだと。やはりバキは反論できない。この流儀に精通するのは現代ではじぶんだけである。バキでも勇次郎でも渋川剛気でもなく、じぶんなのである、そう本部は述べる。この戦いはじぶんの責任なのだと。べつに新しいことはいっていない。本部がずっといってきたことがくりかえされているだけなのだが、じっさいにその流儀で圧倒されてしまったあとでは説得力がちがうだろう。そしてバキは、そこに父・勇次郎も含まれていることに驚愕している。勇次郎にかんしては前回同様パスしよう。戦場を素手でわたりあるくことと、本部がバキの前に煙を広げて背後をとることがどのように異なるか、現段階ではまだよくわからないのだ。本部がその流儀で勇次郎を圧倒してくれたらいろいろわかるとおもうのだけど。


いっぽう、光成邸では武蔵が手錠をかけられ逮捕されていた。いちどだけ名前の出た警察のトップである内海警視総監が顔を出している。殺人の容疑で武蔵に逮捕状が出たらしい。観客が目撃者として警察に名乗り出たのだ。光成は警視総監相手でもすげえ偉そう。どれだけ金持ちだとこんなふうにふるまえるのかな。一存で国の運命を左右するくらいじゃないと無理だよな。まあ武蔵ひとりのためにあんな施設つくっちゃうくらいだからそれもそうか。

地下闘技場の観客はたしか選ばれたものたちだったはずである。ふつうにコンビニでチケット発行して見にきているわけではない。しかし、かといって、巽とサクラの試合を見に来ていたような金持ちたちばかりということもない。今回目撃者として描かれるふたりはすごくふつうの日本人である。金とかいうよりも、コネのほうが効き目のあるコミュニティなのかもしれない。一見さんお断りの店に入るようなものか。今回の武器あり対決はもちろん、普段から地下闘技場は違法な試合を組んでいる。だから観客は、信頼のできるものだけを光成側に紹介し、承諾してもらい、観戦すると、そんなところなのだろう。仮にもともとは選ばれた金持ちばかりが観客だったとしても、紹介に紹介を重ねた長い年月のうちになんでもない標準的日本人が見に来るようなことがあっても不思議はない。

試合中の描写でも、現場にいるものたちの罪悪感のようなものは描かれていた。たぶん、それを飲み込むことのできない誠実すぎるものたちが何人かいたのである。いくらなんでもこれはまずいだろう、ひとがひとり死んじゃってるじゃないか、と。今回のふたりがひどくふつうっぽいのも偶然ではないのだろう。そして、耐え切れず、市民の義務として、警察に通報したわけである。


彼らはどこまで話したのだろう。「宮本武蔵が」というところを省略したとしても、警視総監くらいなら地下闘技場のことを知っていても不思議はない。そこがついに殺人をやらかしたと、そんなふうな認識かもしれない。しかし光成はそれを「演武」だという。その事故だと。終始偉そうな表情を崩さない光成だが、これはまあ、ことがそうして運んでいる以上、しかたのないことなのだろう。だってここでもし、「ひょっとしてじぶん間違ってたかな・・・」とかいう感情がおもてに出てしまっては、同意のもと試合場に立った烈が報われない。実行した以上、責任をもってそれを守らなければならないのだ。

内海としては一般人の目撃者が出ている以上、はいそうですかとはならないようである。悪いようにはしないから、ひとつ任せてくれないかと、引き下がらない。

そんな大人の駆け引きをしている横では、武蔵があっさり手錠を破壊していた。光成はうれしそうに笑っている。そして武蔵は、機動隊が大勢待機している屋敷の外にみずから出て行く。心配はいらない、すぐ戻る、これも勉強じゃと。




つづく。




包囲している警察の人数がハンパではない。車も玄関のすぐ前まできており、ほとんど臨戦態勢といってもいいかもしれない。これはいったい、どういうふうにはなしが伝わったのだろう。凶悪な殺人犯の居場所がわかったとして、よし捕まえるぞとなったとき、果たしてどれくらいの人数・装備でいくものなのだろうか。今回の場合は武蔵は刀で武装しており、しかもどうやらその心得があるらしいというところまではわかっている。うえにも書いたように、警視総監くらいならすべての事情を把握していたも不思議はない。まあ総理みたいなひとが武蔵のクローン作製の施設の存在を知らなかったくらいだから、全然、なにも知らない可能性はあるが、この包囲を考えると、たぶん知っていたのではないかとおもわれる。いくら日本一の富豪だとはいっても殺人は許されることではない。だいたい前々からあの闘技場を鬱陶しいとおもっていたんだ・・・くらいのことをこの警視総監が考えたとしても不思議はないだろう。それで、表面では丁重に、どうにか納得をいただこうと低姿勢でのぞんでいるにも関わらず、はらわたは煮えくり返っており、これを最後にとっちめてやろう、くらいのことをあさはかにも考えたのかもしれない。相手は光成が抱える刀の達人らしい。ではこちらも本気を出して捕まえさせてもらおうと、そんなところではないだろうか。

しかし、武蔵はちゃんと捕まるだろうか。武蔵のことだから外に大勢ひとがきていることはすでに承知していただろうが、玄関を出て行くときの様子は、とりあえず捕まってみたいというところのように見える。脱出することも武蔵ならたやすいだろう。「警察」を理解していない武蔵が、現代の治安システムがどのようなものであるのかを学ぶために外に出たように見えるのである。となると、彼は案外この機動隊群に抵抗しないのだろうか。勇次郎は100人の機動隊を正面からの腕力で制圧したが、武蔵はそういうタイプではない。としたら、それを制圧するという意味も含めて、ここはあっさり捕まるかもしれない。少なくとも本部ならそうするだろう。


バキと本部については、とにかく本部のほうが一枚も二枚も上手だったということになるか。ふたりはたがいにこういう展開になることを想定していた。バキも、本部が「武芸百般」であり、じぶんのおもいもよらない攻撃方法をとってくるであろうことを予想していた。バキとしては、ある程度のことが起きても対応できるよう、なんというか、意識に余白をもうけていたはずである。おもいもよらないことが起きても不思議はないという覚悟でいれば、対応できないまでもフリーズすることはないだろう。しかしおそらく、バキの想定した「おもいもよらないこと」とは、せいぜい武器の種類について程度だったのではないか。どんな長さ、どんな破壊力の武器が出てくるかわからない、でもやってやるぜ!という心持ちだったのである。しかし、本部は煙玉を用いた。煙幕はそれじたいは攻撃ではない。意識の余白は、おもいもよらないことが起きて硬直してしまう事態を回避するかもしれないが、おそらくそれは「距離」とか「破壊力」といった、バキの身体が行うことのできる動作の相似形として想定されていたのである。本部がいきなり如意棒を取り出してのばしても、バキなら対応できただろう。それは要するに「長い腕」にほかならないからである。しかし煙幕は、バキのとりうるどの動作を拡大したり縮小したりしても起こりえない事態である。もともと、彼がじぶんの動作の相似として余白を想定したのも、それが正面からのたたかいとして、じぶんへの攻撃的な動作として考えられたからだろう。しかし本部の、そして武蔵の考える兵法はそうではない。決定的な攻撃を行うためにいったん逃げるというようなことを行うのもアリなのである。ブラック・ペンタゴンから脱走したときなど、バキはじぶんに向けられた敵意や銃弾を軽々とかわしてみせたが、あのとき、たとえば、バキの前に立ちはだかった所長がいきなり銃をくわえて自殺したらびっくりして硬直したのではないだろうか。そしてその瞬間、ほかのものたちにバキは射殺されていただろう。このあたり、殺意を消して渋川の防御を封じた独歩の菩薩拳にも通じるものがある。アプローチとしては、独歩もまちがってはいなかったんだろうな・・・。




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