今週の刃牙道/第56話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第56話/玩具






突如あらわれた烈の九節鞭の打突を受けて倒れた武蔵だったが、すぐこの武器を見切り、やがて腕にまきつけて烈から奪い取ってしまった。

武蔵は烈がやっていたのと同じように、ふたつの九節鞭をそれぞれの手にもって、具合をたしかめている。視線はうえのほうに向けて、感覚だけを手においている感じだ。その様子を見ている烈だが、汗をだらだらかいている。あれだけ手裏剣を投げまくって、九節鞭をびゅんびゅん振り回しても、そんなに汗はかいてなかったようにおもう。この状況のなにかに激しく緊張しているのだ。


武蔵的に九節鞭は重さがいまひとつというところらしい。振れることは振れるけど、これじゃあひとは殺せないよなと。さらに、棍と棍のあいだを結ぶ三つのわっかの材質が悪いと指摘。こんな玩具でこの武蔵を討ち取れるとほんとうにおもっていたのかと、そんなようなことをいう。


武蔵が鞭の具合をたしかめているとき、はためにはすきだらけだったかもしれない。烈もある面では、それをもって、なぜ仕掛けないのかと自問している。が、すぐさまじぶんでそれを打ち消す。隙なんかこれっぽっちもないのだ。烈がこれほど緊張して汗を流すのは、「隙がない」ということに驚いているからなのだ。しかし隙がない達人なら烈もけっこう経験しているはずである。しかしそれらの大半は、隙を除こうと警戒したり、あるいは長年の訓練の結果姿勢にそういう緊張感が身についたり、そういうことだったりする。しかし武蔵はたぶんそうではない。そうではなくて、ふつうなら隙だらけになってもおかしくない状況なのに、隙がないのだ。ぱっと見では、武蔵はまるで烈の攻撃を誘っているようにさえ見える。視線をそらし、独り言をいいながら両手をふさいでいるのだ。しかしこれはそういう「つくられた隙のなさ」ではない。武蔵はほんとうに警戒を解いて武器の具合を確認している。にもかかわらず、隙がない。そのことに烈は衝撃を受けているのだ。完全に熟睡している相手に接近してみたらどこにも攻撃する余地がないと気づいたというようなことだろうか。


焦燥をはらうように烈は攻撃を仕掛ける。手を軸にした蹴りだ。しかしそれを武蔵は「おっほ!」という具合に、急に飛んできたボールを野球選手がキャッチするみたいな自然さでかわす。攻撃を予想していたとか待っていたとか、そういう感じはない。やはり、武器を確認するふりをして警戒は解かずに烈を誘い出そうとしていた、というようなわけではないのだ。ほんとうに、武器に集中していた。それなのに隙がない。武術の精神が文字通り呼吸のレベルまで身体化しているのである。


武蔵が烈に語りかける。この武器はこう振るのだと。つまりお手本を見せようというのだ。そうして武蔵は横を向いてしまう。武器の使い方を烈の身体のうえに具現するのではなく、文字通り振り方を気らしい。

武蔵が九節鞭を振りかぶる。二刀流のかまえらしい。有名な二天一流ということで、観客も騒ぎ出す。郭やバキ、克己に本部に渋川まで、みんな汗をかいて緊張してみている。バキだけはこのさきなにが起こるかわかっている。いちど青竹でそれをしているのを見ているからだ。

トップポジションではほとんど握らず、人差し指で支えるのみ、そこから高速でふりおろしながら強く握りこむあの振り方だ。武蔵の手には棍がひとつしか残っていない。金属の輪を破り、残りの9つの棍は千切れて地面に落ちてしまったのだ。

青竹を割るのに比べたら若干わかりにくい「すごさ」ではあるが、観客は「に・・・、人間じゃねえッッ!」と驚愕する。しかし武蔵にいわせれば、じぶんが人間じゃないというより、この鞭が「武器じゃない」というところなのであった。




つづく。




うむ、雲行きがあやしくなってきた。終始静かな表情だった烈が焦りを見せ始めている。あと郭の汗もなんかのフラグみたいで不安だ。

烈の焦りというか緊張は、くりかえすが武蔵の隙のなさからきている。これがさっきまでの戦闘中のことであるならともかく、武蔵はいったんたたかいから目線をそらしている。そらすふりをしているのではなく、たぶんほんとうにそらしている。にもかかわらず隙がない。ということは、武蔵の「隙」というものはたたかいへの集中力とは無関係ということになる。そのことに気づいて烈は衝撃を受けているのだ。行住坐臥いつでも緊張を解かずと、いうのはたやすいし、目標に掲げるのはけっこうなことだが、なかなかそういうわけにもいかない。バキ世界の住人レベルになると、そういうなかでの油断の探りあいというところまではなしがすすむかもしれないが、少なくとも油断が出てくる可能性はあるわけである。しかし武蔵にはそれがない。烈は最初、油断している様子の武蔵になぜしかけないのかと自問している。しかしそれは「虚偽」だと、じぶんで認める。誰に対しての虚偽かというと、もちろんじぶんに対してである。隙などないということを、勝負に希望をもっているじぶんのある一面が認めようとしなかったのである。つまり、武器を確認する武蔵のあの姿において、「隙がないはずがない」というおもいが、烈のなかで最初に強く浮かび上がったのだ。そのことが、武蔵の武器への集中が演技などではなくほんものであったということ、少なくとも烈はそう感じたということを示している。それなのに隙がないと。その「隙のなさ」がどれほどのものか、凡人にはわかりにくいが、百戦錬磨の烈があれだけ驚愕するくらいだから、そうとうなんだろう。武の基本が呼吸や心拍のレベルまで刻み込まれているのである。その純度に、烈は衝撃を受けているのだ。

武蔵は九節鞭を「武器ではない」という。思い切り振ったら壊れてしまうし、当たっても死なないし、たしかに生死を争うたたかいにおいてはあまり有効とはいいがたいかもしれない。が、決め手はそればかりではない。烈には拳もあるし、たぶんまだ刃物類も備えているだろう。そういう意味では、導入とかつなぎという意味で、九節鞭にも役目はある。しかし武蔵はそれを認めない。振ったら壊れてしまうという理由で「武器ではない」のだとしたら、たとえば佐部の用意したあの刀は武器ではないことになってしまう。しかしサブはそれで何人も殺している。一撃で命を奪うには軽すぎるということでもって「武器ではない」のだとすると、戦略的に用いられるすべての攻撃や戦法も武蔵においては無効ということになってしまう。いずれにしても、この「武器ではない」というのは、正確には「わたしはこんなものを武器とは呼ばない」ということだ。間接的な殺傷力という点でも強度という点でも、九節鞭は一般的にいってじゅうぶん「武器」である。しかし「武蔵にとっては」武器ではないのである。

その理由のひとつには、げんに一撃をくらった武蔵がぴんぴんしてその武器を破壊しているということがある。たしかに、あの棍の先に刃物でも仕込んであったなら、武蔵は負けていた。しかしそうなると烈の構えやあつかいも変わってくるし、そうなれば武蔵が服に隠された一撃を受けたかどうかもわからなくなってくる。重要なことは、いまげんに受けた一撃で武蔵が死ななかったことだ。

たしかに武蔵はそれで出血をしたのだが、このくらいのことは死闘では当たり前、というような慣れが武蔵からは強く感じられる。そこからつながっていくことで、武蔵がこれを武器と呼ばない理由としてもうひとつ、彼の想定しているたたかいのレベルの高さがある。たしかにサブの刀でも、静止している相手の首にあてがい、思い切り引けば、殺すことはできる。しかしその刀は武器ではない。九節鞭にしたって、完全に眠っているあいての眉間めがけての突きを何十回か試せば、そのうちの一発くらいは頭蓋骨を割って致命傷を与えるかもしれない。けれどもそれも武器ではない。というのは、現実にはそんな状況は起こりえないからである。つまり、より丈夫で、より強力な武器でなければ通用しないようなたたかいばかりをしてきたものだけが、武器のありかたを選ぶのである。武蔵が刀を思い切り振ると壊れてしまうのは、壊れてしまう振りを研究した結果ではなく、鍛錬の結果である。強くあろうと志向し続けた結果そうなってしまった。武器は、道具として、手足の延長でなければならないはずだ。しかし強さを求め続けた武蔵はふつうの刀を凌駕してしまった。それを超えて、手を長くし、拳を鋭くするような刀でなければ、道具として意味をなさない。視力のよい人間がめがねをかけたりコンタクトレンズを装着したりしないのと同様である。この理屈でいえば、強いものほど武器を選ぶことになる。おそらく武蔵はそういうところにいる。だから、「武蔵は」それを武器とは呼ばない。と同時に、それでもってじぶんを仕留めることができない烈にとってもそれは武器ではないはずなのである。


というふうに書いてはみたが、ここ何週かうまく読めていないという感じが続いている。なんかぜんぜんちがうこと書いてるんじゃないかという気分がぬけないのだ。達人のたたかいは難しすぎる。珍しく解説の達人・本部以蔵が観戦しているのに、驚いてばっかりでなんにもしゃべらないしな。まあ本部が解説できないものを読解しようとするほうがむちゃなのか・・・。





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