第356話/ヤクザくん③
加納が闇金を辞めてカタギになりたいと言い出し微妙に揺れるカウカウ。いや、柄崎はあんなこといってたけど心の底では祝福してたみたいだし、当人たちはそんな自覚はないかも。でも傍目には加納離脱はかなりの痛手だ。
丑嶋は社長としてそのあたりどう考えているだろう。現状でもカウカウはかなり忙しそうだし、信頼できるものを新しく見つけないと、扱う顧客を減らさなくてはならなくなるかもしれない。生身の暴力の気配で取り立てをしている彼らだから効率化も難しい。そんなことしたら、たぶん回収率ががくんと下がるにちがいない。その信頼するものを見つけるというのも、ふつうの会社のようにはいかない。違法金利の闇金なのだから。丑嶋と柄崎、加納は、中学からの友人で、鰐戸の件を経てふたりはことばのまま、一生社長についていくと決めた。あのとき丑嶋が三蔵の頭めがけてバットをフルスイングしていなければ、柄崎も加納もどうなっていたかわからない。死なないまでも生涯この世界で大きな顔はできないような状況になっていた可能性もある。丑嶋もそのことをわかっている。彼のことだからそれもまた計算にいれている可能性もあるが、ともかく、三人の絆は固かった。だから、マサルだって表立った対立は避けているのである。こうした関係に値するものを新しく見つけるということはまず不可能である。
そんな丑嶋に滑皮秀信から着信。滑皮は熊倉さんのとこのヤクザである。ヤンキーくんのじてんでは幹部候補生で、組長の鳩山に車をプレゼントするなどして昇進する気満々だったが、あれから序列はどうなったのだろうか。
熊倉さんのとこは猪背組といって、あれはカウカウのケツモチということでいいのだろうか。そこのところがずっと読んできてもいまいちよくわからない。というのは、たぶん丑嶋やカウカウの面々が「ケツモチ」という単語をつかわないからである。ケツモチをケツモチとして使用することもない。ほとんどの暴力的困難は彼らだけで切り抜けられるからである。しかし相手がヤクザとなるとはなしはべつで、ハブとの件などはまさにケツモチの出番というところで、じっさい熊倉さんもそれを匂わせていた。しかし丑嶋は「どうにかしてください」とはいわない。ちょっと前に描写された梶尾とガールズバーの店長とのやりとりのように、見てわかる借りをつくってしまうと、あとあともっと大きなお返しをしなくてはならなくなるのである。
そんなわけで、裏稼業をやるにあたってそのシマを管理する組にはどうしても関わらなくてはならないが、かといって積極的にかかわりたい気など微塵もなく、必要最低限のことしかしない、そういう関係が、カウカウファイナンスと猪背組だとおもわれる。表層的にはケツモチにちがいないけど、誰もそんなふうにおもってないし必要悪だとさえ考えない、そんなところではないか。だからなんか見ていてよくわからないのである。
ちなみについでだから整理しておくと、その熊倉理事長は、まさしく丑嶋がその必要最低限の会合を済ませている最中、裏切ったと見せかけた柄崎の機転により、半グレ・鼓舞羅によって丑嶋のかわりにぼこぼこにされている。電気を落とし、暗闇のなか柄崎の鳴らす電話にしたがって丑嶋を襲うという計画だったが、柄崎は熊倉に電話をかけたのである(電話はたしか非通知だったはず)。密室でそんなことになったので、配下のものたちも黙ってはいず、滑皮はその場で鼓舞羅を射殺した。しかしその状況を、丑嶋ともめている別の組のヤクザ・ハブの子分たちはなにかおかしいと気づいている。鼓舞羅と熊倉たちに面識はなく、彼が熊倉を襲う動機がない。とすると、その場にいた第三者、つまり丑嶋に用があったんではないかと。
前置きが長くなってしまった。滑皮は子分の梶尾・鳶田とともに「氷のようななにか」を海に捨てているところである。そこにいまから来いというのだ。場所は千葉県。遠いし、だいたいいまはプライベートの時間だ。あっさり丑嶋は無理だというが、滑皮はヤクザらしい口調で粘っこく早く来いという。無理かどうかはこっちが決めると。久々に丑嶋の怒り顔だ。最初に熊倉のところにいっていいようにされたときもこんな顔をして我慢していたなあ。丑嶋であっても彼らには逆らえないのだ。
そんな顔はたぶん仲間の前では見せたことがないのだろう。遅れて到着した高田が表情を見てびっくりしている。横にいるのは小百合らしいのだが・・・、なんか高田に会う前の愛華というか、出会いカフェくんの未來というか、なにこの清潔感。こんな活きのいい子だったっけ。トレーナーに「NIPPORI」って書いてある。
別の場所では柄崎が泣いているし、たぶんそれを近くで加納が見ている。なんかあったのかと高田は心配する。こういうの見ると高田もカウカウには不可欠な人間なんだよなとおもう。
マサルは友達と遊びに行くとかで帰ってしまった。小百合は社長と飲めるのがうれしそうだが、社長はこれから大人のつきあいです。丑嶋は数万おいてその場を去っていく。
で、そのマサルの友達なんだけど、肉蝮大先生である。いつものようにフードを深々とかぶったまま、ゲーセンで遊んでいる。なんかコインランドリーみたいのをドカドカ楽しそうに叩いているが、隣に太鼓の達人的なものも見えるので、音ゲーの一種だろうか。肉蝮にいわれて嫌々マサルもそれに参加する。マサルが小さいというのもあるが、こう見ると肉蝮はものすごくでかい。マサルが165センチとしても、プラス20センチ以上は軽くありそう。
ふたりは屋台のラーメン屋で食事をとる。すごく意外だが、まあ年がら年中脅迫したり強盗したりしてたんじゃ身がもたないし、たいていの場合は肉蝮もふつうにお金払って生活してるんだな。
最初のうちは、そんなにとげとげしい感じはない。で、なんだって?みたいな、特に感情を含まないように見える無垢な問いだ。マサルはすぐに「丑嶋をブチのめしてほしい」と応える。その答えは、かなりまずい。なんでそんな直球でいったのか。じぶんの目的はこうで、それを目指すにあたって、あなたのこんな能力が必要なのだと、そういう順番で話さなければいけないところだった。じぶんはこれこれこういう理由で丑嶋を打ち倒したい。しかし肉体レベルで丑嶋を凌駕できるのはあなたしかいないのだ、とかなんとか。たぶん、そのくらいのことはマサルにもわかっている。ということは、その説明ができないのかもしれない。ただ肉蝮をつかって丑嶋をつぶすだけではない。逆に肉蝮を殺したいという獏木との兼ね合いもある。なぜ丑嶋を倒さなければならないのかの説明が、マサルは肉蝮にできないのだ。なにか計画があるのかもしれない。
ともかく、そのひとことは肉蝮の逆鱗に触れ、激怒させた。そんなことはいわれなくてもやるつもりである、お前は俺をなめてるのかと。まるで指示されないとやらない気でいるみたいに聞こえるというのと、もうひとつ、肉蝮的にはそれは「命令」のように聞こえたみたいだ。あの猛烈な腕力でマサルの髪をつかんでおさえつけ、協力してほしいだけだとまだ冷静にこたえるマサルに、じゃあちんぽしゃぶれと意味不明なことを言い出す。いつの間にかラーメン屋を離れ、路地に入った肉蝮はマサルを蹴りつけている様子である。そして、信じられないことだが、しばらくしてからマサルは、「分かった」というのである。協力してくれるならなんでもすると。
肉蝮はそれを聞いて「げげー!!!」とおおげさに驚いてみせる。自分からいっておいて、自分にはそんな趣味はない、気色悪いと。なんだよその顔・・・どうなってんだよその牙みたいな歯。マサルも「なんだこいつ」となっている。こんなのと組むのは無理だなと。いや無理だよ。みんなわかってたよ。
それでもなぜかマサルを気に入ったらしい肉蝮は、首をつかんでマサルをしめあげ、なんでそんなものをもっているのかマジックペンを取り出し、マサルの顔に「ライム」を書き出す。なにしろ肉蝮なので深い意味はないとおもわれるが、いちおう書き出しておこう。
「親愛なるカガマサルくんへ
いつだって本気で精一杯
一生けん命 生きていこうよ マル肉」
ひとりで新宿から千葉に向かう丑嶋。到着したころにはもう夜が明けている。滑皮の用事とはいったいなにか?
つづく。
梶尾や鳶田もまだその場にいるらしい。もう朝になっているので、電話から3、4時間はたっているとおもわれるが、それまでずっと彼らはここにいたことになる。つまり、丑嶋が到着し、なんらかの用事を頼んでそれが済むまではここを動けないということなのだ。いったいなにをさせる気なのか。たんにいつもみたいに金を寄越せとか歯磨き粉100万円ぶん持って行けとかそういう用事ならいまである必要はない。千葉の、「氷のようななにか」を捨てたここで済ませなければいけないなにかであるということになる。それにしても、その氷廃棄の作業を終えてから連絡をつけているというのはいささか奇妙である。無理かどうかは自分らが決めるというのなら、前もって「午前2時に千葉の漁港にこい」とでもいっておけば、待ち時間はなかったのではないか。とすると、滑皮は丑嶋呼び出しをこのたったいま思いついたのかもしれない。その作業の過程で、なぜか丑嶋のことを思い出したのだ。
丑嶋と滑皮とは以前から因縁があるかのように描かれているが、その具体的な内容についてはまだわからない。はじめて滑皮が登場し、丑嶋と顔を合わせたときから、ふたりは険悪な雰囲気だった。愛沢いわく、地元で相手の頭に金属バットをフルスイングできるふたりの人間として、丑嶋と滑皮があがっていた。奴らは別世界の人間だと。その愛沢だって、現役で暴走族だったころは滑皮や三蔵とともに「関わってはいけない人間」のひとりに数えられていた。丑嶋が中学生だった当時、すでに愛沢は愛沢連合のリーダーで、滑皮は愛沢の先輩ということだから、年齢的には滑皮がこのなかではいちばんうえかもしれない。しかしそういうのを超えて、丑嶋は滑皮並みに名をあげていった。決定的だったのはやっぱり三蔵を半殺しにしたことだろう。
そんなだから、互いに意識はしつつも特にかかわりがないという状況だった可能性もある。容赦がないという点で似ているぶぶんもあり、なんというか互いに気に入らない、目の上のたんこぶみたいなものだったんではないか。それが、滑皮がヤクザとなり、そればかりかケツモチ(仮)になってしまうことで、均衡が崩れた。滑皮は立場を利用して遠慮なくものを言い、丑嶋も滑皮の態度は気に入らないので若干の反発姿勢をとる。そんなことが顔を合わせるたびにくりかえされてきたのだろう。
ヤクザになり、しかも出世しつつあるような滑皮が丑嶋にこだわる理由は、金もあるが、たぶんもっと原始的なものだろう。気に入らないのである。だから今回の用事もいやがらせのようなものであるかもしれない。
それにしてもマサル・・・マサルよ。たぶん洗ってもかんたんに落ちないだろう、あのマヌケなポエム。ひどい屈辱だろうが、たぶんマサルはそれも飲み込むのだろう。だってしゃぶることまでいったんOKしたんだから。どうしてそこまでして肉蝮が必要なのか?それだけ丑嶋社長が脅威だということなのか?それもあるだろうが、これはたぶんもっと大きな「兼ね合い」がかかわっているのではないだろうか。肉蝮のように、丑嶋が憎い、だからコロスと、そんなかんたんに割り切れたら楽かもしれないが、状況はそんな単純ではない。丑嶋打倒のために共闘することになった獏木は、戦力としてマサルはとらえているようだが、獏木じしんは先輩から肉蝮をやるようにプレッシャーをかけられている。またその獏木の組のハブは、自分が、この手で丑嶋を殺すといってはばからないことを、マサルも知っているだろう。もし丑嶋を獏木やマサルが襲撃すれば、ハブの邪魔をすることになってしまう。そしてトリックスターとしての肉蝮。こういう、丑嶋にとっては絶望的な状況があるわけである。たんに有力なものをスカウトして引き入れ、戦争をする、というようなはなしではない。ハブ以外の誰が丑嶋に手を出しても、ハブの邪魔をすることになるし、だとすれば獏木は手をだしにくい。だから、もし戦力として他人をスカウトするとしたら、ヤクザのハブの邪魔をすることそれじたいを恐れないものである必要が出てくる。丑嶋に勝ちうる男でそんな無鉄砲なものは肉蝮以外考えられない。マサルとしては、ハブとはまたちがって、丑嶋を徹底的に痛めつけ、同時にすべてを奪ってやりたいという気持ちもあるだろう。だからハブや肉蝮ほど、「この手でやってやりたい」という気持ちは弱いにちがいない。しかしハブにそれをやられると困る。ハブはヤクザだから、丑嶋を殺すという目的を達成しても、続けて職務としてすべてを奪ってしまう可能性が高いからだ。だからハブには丑嶋を殺してほしくない。そして、肉蝮をつかうとしても、マサルはそのかかわりがばれてしまってはいけない。ハブもそうだし、なにより獏木を裏切ることになってしまう。獏木は小物かもしれないが、当座の戦力としては非常に有効だということが苅部との件ではっきりした。すべてが片付くまでそれを失うわけにはいかないのである。
というわけでマサルは肉蝮に突撃してもらうほかないという結論に至ったとおもわれるのだが、しかししゃぶってもいいという決断はちょっと信じがたいものがある。が、それもまた、靴を舐めてでものしあがり、丑嶋を圧倒するという、当初の決意の延長かもしれない。いずれにしてもここには以前推測した「親殺し」の表情が見える。ハブや肉蝮の丑嶋打倒の動機は、「以前の自分を取り戻したい」というものである。ハブは丑嶋に殴られてヤクザとしての面子丸つぶれ、肉蝮はあんな肉体信仰の強い男だから、たんに喧嘩に負けてギブアップしたことが人生のトラウマ的汚点になっている。彼らの現状は、本来あるべき姿が欠けて不完全になっている状態なのだ。それを、丑嶋を殺すことで回復したい。けれどもマサルはそうではない。愛沢からマサルを拾い上げ、裏切りを許さずいちどは見捨てたけれどその後高田を通して間接的に再び救い、裏世界で生きていくノウハウを授けていったのは丑嶋社長である。いまこうして裏稼業の人間として地面に足をつけて歩き、呼吸し、いきがれるのは、丑嶋社長がいたからなのだ。そして、マサルじしんがそのように決意したように、そのノウハウは丑嶋から盗んだものだ。いまのマサル、仁と訣別し、愛沢との件以前のじぶんと別れを告げた加賀勝という人物は、丑嶋社長がいなければ存在していない。それを、彼は殺そうというのである。殺人がそもそもタブーであるに加えて、親殺しはもっとも重い罪のひとつかもしれない。それはなぜか。いろいろ考えられるが、本記事の流れに沿うように牽強付会な説を立てるとすると、まず殺人をその相手の存在の否定だとしたとき、行為が現れてくるということじたいが大きな矛盾なわけである。なぜなら、相手を否定しようとするその言説じたいが、相手の存在によって誕生し、保持されてきたものだからである。「日本語というのは非常に稚拙な言語であり、真実を伝えようとするにあたってはふさわしくない」という日本語の文章は成立しないのである。
だから、マサルが丑嶋を殺したいと願うということはそのまま、現状のじぶんを否定することにつながっていく。たぶんマサルには自覚はないだろうが、無意識下で彼は「いまのわたし」を否定し、あるべきではない姿であるととらえているのである。これはホストくんでも研究した「わたし観」だが、「いまあるわたしはほんらいあるべきわたしの姿ではない」という意識が流れる限りで、マサルは肉蝮でもしゃぶることができるのだ。だって、いまのじぶんは、憎むべき丑嶋の量的縮小にすぎない仮のものであり、丑嶋を否定する以上マサルは必然的にそれも否定することになるのだから、それがどれほどおちぶれようと関係ないのだ。もちろんマサルにはその自覚はないだろう。じぶんがじぶんを否定するふるまいをいままさにとりつつあって、それだからいやいやながらもしゃぶることを承諾したなどとはぜんぜん気づいていないだろう。
「ほんらいのわたし」とは、ハブや肉蝮と同形の文章ではあるが、彼らが過去のモデルを目指すのとは反対に、マサルはまだ見えない、見えてくるとも限らない未来の、現状のわたしを破壊しつくしたさきを目指している、というか結果としては目指すことになるのである。
物語はヤクザくんだが、マサルも深く本編にかかわってきそうだ。長引きそうだし、すごく深い話になりそう。
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