第3話/退屈
じぶんの半分もないような少年。しかし彼の視線のなかには異様なモンスターが宿っている。要素としては知っている、「世界」そのものの怪物である。たたかいに飽きて、未知を求めて日本にやってきたアトラスも、ある意味ではバキと同じ悩みを抱えている。しかしそのサイズは桁違いに小さい。端的にアトラスは「地下」を知らない。飽きるにはまだまだ世界は広い。その意味で、バキの強さは量的である。
戸惑うアトラスを闘技場の坊主が呼び起こし、武器の禁止という唯一のルールを告げて去っていく。不思議なことに観衆はアトラスを応援している。再び戸惑うアトラスだが、すぐに意味を理解する。バキの強さへの信頼の裏返しなのである。アトラスには好ましい昂ぶりが訪れる。ふつう、格闘技の世界で体重差というのは絶対的なものだ。よほどレベルの高い勝負でもなければ、10キロもちがえばほとんど勝負は決まるといっても言いすぎではない。それが、半分くらいに見える少年が相手なのである。べつに強さを疑っているわけではないようだが、ではどんな方法でかかってくるのかと、闘者として興奮を抑えきれないといったところだろうか。
ゆっくりアトラスの前に進むバキは、しかしずいぶんゆるんだ顔をしている。安全な高所にまどろむ猫みたいな、退屈そうな顔なのである。ちょうど、表の格闘技の世界でアトラスがとっていた態度と同型である。
足の甲の踏みつけ、ハイキック、そして右ストレートという、じっさいのところ地下闘技場的なコンビネーションで攻撃をしかけるも、しかしバキをこれをすべてかわし、アトラスのあたまを両手でつかむ。瞬時にアトラスは万力をイメージする。握力130キロもある彼が、それを引き剥がせない。これだけの体重差があって、純粋な腕力でもバキがうえなようだ。そして、揺する。勇次郎がアライのボディーガードにしたみたいに。脳がくりかえし頭蓋骨の壁にうちつけられ、アトラスは瞬間的に意識を失う。彼が最後に見た光景は、あくびをかみ殺しているバキの変な表情なのだった。
つづく。
ここまで強いか。うん、でもそりゃそうか。オリバに殴り合いで勝っちゃうくらいだもんな。
アトラスはなんかくつろいじゃってるけど、これで「退屈」はなくなったはず。それとも、見えていなかった世界があまりにも広すぎたせいで、逆に脱力しちゃったのかな。
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